令和元年版 消防白書

2.消防団の充実強化施策

平成25年12月に成立した消防団等充実強化法(特集8-6図)等を踏まえ、消防庁では、消防団を中核とした地域防災力の充実強化に向け取り組んでいる。

特集8-6図 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律概要

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特集8-6図 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律概要

(1)消防団への加入促進

ア 事業者の協力

被雇用者である消防団員の割合の増加に伴い、消防団員を雇用する事業所の消防団活動への理解と協力を得ることが不可欠となっている。そのため、平成18年度から、「消防団協力事業所表示制度」の普及及び地方公共団体による事業所への支援策の導入促進を図っている(特集8-7図)。
また、事業者が、特別の休暇制度を設けて勤務時間中の消防団活動を可能としたり、従業員の入団を積極的に推進したりすることなどは、地域防災力の充実強化に資すると同時に、地域社会に貢献し、ひいては事業所の信頼性の向上にもつながるものである。そこで、平成27年、30年に加え、令和元年においても、一般社団法人日本経済団体連合会等の経済団体に対し、総務大臣から書簡を送付し、消防団活動に対する事業者の理解と協力を呼び掛けるとともに、当該団体の会員企業の従業員に対する消防団への加入促進及び勤務の免除やボランティア休暇の取得等、消防団活動に対する配慮を行うよう依頼した。総務大臣名での書簡を送付した後も、機会を捉えて、様々な経済団体や企業に対し消防団への協力を依頼している。
日本郵便株式会社に対しては、平成25年及び29年に、消防団活動への参加促進を依頼するとともに、平成26年、各地方公共団体に対しても、郵便局への働き掛けを依頼した。
また、消防団活動への特に深い理解や協力を示すことにより、地域防災力の向上に寄与している事業所等及び消防団員確保に貢献している事業所等に対し、平成31年2月10日、消防庁長官が表彰を行った。

特集8-7図 消防団協力事業所表示制度

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特集8-7図 消防団協力事業所表示制度

イ 女性消防団員の活躍推進に向けた取組

(ア)消防団への加入促進
平成25年以降31年まで、総務大臣から全ての都道府県知事及び市町村長に対して書簡を送付しており、平成31年4月26日には5度目となる書簡により、女性の消防団への加入促進に向けた積極的な取組について依頼した。
また、平成30年12月20日、前年と比較して女性消防団員数が相当数増加した8つの消防団に対して、総務大臣から感謝状を授与した。
さらに、女性消防団員を増加させるため、消防庁では、平成27年度から、子育て期の女性消防団員等をサポートする取組など、地方公共団体が企業や大学等と連携して実施する事業への支援を行っている。加えて、平成30年3月、これらの取組をまとめた事例集を作成し、全ての都道府県及び市町村等に配布した。
あわせて、消防庁ホームページ内に女性の消防団への加入促進を図るためのポータルサイト(特集8-8図)を開設し、女性消防団員の活躍の様子や活動事例等を掲載している。また、「消防団員入団促進キャンペーン」の実施に併せて、女性向けの消防団員募集リーフレットを全国の市町村、消防本部等に配布し、女性に対する周知を図っている。

特集8-8図 消防団オフィシャルウェブサイト内「女性消防団員コーナー」

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特集8-8図 消防団オフィシャルウェブサイト内「女性消防団員コーナー」

(イ)全国女性消防操法大会の開催
女性消防団員等の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、「全国女性消防操法大会」を開催しており、令和元年度は、11月13日、神奈川県横浜市において第24回大会を開催した。

全国女性消防操法大会
全国女性消防操法大会

(ウ)全国女性消防団員活性化大会の開催
女性消防団員の活動をより一層、活性化させることを目的として、「全国女性消防団員活性化大会」を毎年度開催している。全国の女性消防団員が一堂に会し、日頃の活動成果を紹介するとともに、意見交換を通じて連携を深めている。
令和元年度は、9月19日、青森県青森市において第25回大会を開催した。

全国女性消防団員活性化大会
全国女性消防団員活性化大会

ウ 大学等の協力

平成25年12月、消防団等充実強化法の成立と併せて、文部科学省と連携し、大学等に対して消防団活動のための適切な修学上の配慮等を依頼した。また、文部科学省と協力し、全国国立大学学生指導担当副学長協議会に消防庁職員を派遣するなど、機会を捉えて積極的な働き掛けを行ってきた。
あわせて、平成28年には、文部科学省及び各国公私立大学長に対し、大学生の消防団への加入促進等について通知を発出した。その通知において、課外活動等の一つとして消防団活動を推奨するなど、学生の消防団活動への一層の理解促進や、学生が消防団活動に参加しやすい環境づくりに配慮するよう依頼した。
加えて、「消防団員入団促進キャンペーン」の実施に併せて、大学構内向け消防団員募集広告の掲示やポスターの配布等により、学生への理解促進を図った。

エ 学生消防団活動認証制度

消防団に所属する大学生、大学院生又は専門学校生に対する就職活動支援の一環として、平成26年11月から「学生消防団活動認証制度」の普及を図っている。この制度は、真摯かつ継続的に消防団活動に取り組み、顕著な実績を収め、地域社会に多大な貢献をした大学生等に対し、市町村がその実績を認証するものである。
平成31年4月1日現在、当該制度を導入している市町村の数は290となっており、3年前である平成28年4月1日現在の数(69)と比べ、約4.2倍となっている(特集8-9図)。引き続き導入に向けた働き掛けを行っていく。

オ 機能別団員制度・機能別分団制度等の導入

市町村が、全ての災害・訓練に出動する消防団員を基本としつつ、地域の実情に応じて消防団の組織・体制を整備することができるよう、市町村において以下に記載する制度の選択を可能とする方策を講じている。なお、消防団員の条例上の採用要件として年齢・居住地等を制限している場合は、当該条例を見直すことにより、幅広い層の人材が入団できる環境の整備を図ることが必要である。
(ア)機能別団員制度
入団時に決めた特定の活動・役割に参加する制度である。
(イ)機能別分団制度
特定の活動・役割を実施する分団・部を設置し、所属する消防団員が当該活動を実施する制度である。
(ウ)休団制度
消防団員が出張、育児等で長期間にわたり活動することができない場合、消防団員の身分を保持したまま、一定の期間、消防団員としての活動の休止を消防団長が承認する制度である。
消防庁において平成29年10月から平成30年1月にかけて開催した「消防団員の確保方策等に関する検討会」の報告書の内容等を踏まえ、消防団員の確保・充実に向け、機能別団員制度の一つである「大規模災害団員*3」制度の浸透等に取り組んでいる。平成30年1月19日には、総務大臣から全ての都道府県知事及び市町村長に対して書簡を送付するとともに、各地方公共団体に対し、「大規模災害団員」制度の積極的な導入など、消防団員の確保等に向けた重点取組事項について通知を発出した。当該通知において、「大規模災害団員」の活動の具体例として、大規模災害時に新たに発生する避難誘導・安否確認や避難所運営支援等の活動、事業所等で所有する重機等の資機材を当該事業所等の従業員等が活用し、道路管理者と協力して行う道路啓開活動などを示している。

特集8-9図 学生消防団活動認証制度

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特集8-9図 学生消防団活動認証制度

カ 国家公務員の加入促進

消防団等充実強化法第10条において、公務員の消防団員との兼職に関する特例規定が設けられた。この規定により、国家公務員の消防団への加入を容易にする環境整備がなされたことを踏まえ、平成26年6月、職員の消防団への加入を促進するよう、各府省に対し働き掛けを行った。また、令和元年5月7日、各府省に対し、通知を発出し、改めて周知を行った。

キ 地方公共団体に対する働き掛け

平成25年以降、総務大臣から全ての都道府県知事及び市町村長に対して送付した書簡において、地方公務員をはじめとした消防団員確保に向けた一層の取組のほか、消防団員の処遇改善等を依頼している。
平成31年4月26日に送付した書簡では、将来の地域の人口等の見通しや災害発生のおそれ等を踏まえ、地域防災力の充実強化に向け、住民、事業者をはじめ、消防団、自主防災組織等、地域の防災活動に携わる多様な主体間での議論を行うこと、とりわけ、地域防災力の中核である消防団について、その体制についての定量的な目標を設定し、その充実強化を図ることなどを要請した。
また、平成30年1月には、各地方公共団体に対し、「大規模災害団員」制度の積極的な導入のほか、地方公務員、女性等の消防団への加入促進等に向けた取組を要請する通知を発出した。さらに、首長が参加する会議に消防庁職員を派遣するなど、機会を捉えて積極的な働き掛けを行った。

ク 先進事例の紹介

消防団への加入促進に係る地方公共団体や消防団の取組について情報収集を行い、消防庁ホームページ等を通じて紹介を行っている。

ケ 総務大臣による感謝状の授与

平成30年12月20日、前年に比べて消防団員が相当数増加するなどした34の消防団並びに平成30年7月豪雨において献身的に活動を行った76の消防団及び平成30年北海道胆振東部地震において献身的に活動を行った4の消防団に対し、直接、総務大臣から感謝状を授与した。

コ 加入促進のための先進的な取組の支援等

女性や若者をはじめとした消防団員を更に増加させるため、消防庁として、平成27年度から、地方公共団体が企業や大学等との連携により、女性や大学生等の消防団への加入促進を図る取組を支援するとともに、女性消防団員のいない市町村に対しては、女性の入団に向けた積極的な取組を求めている。

*3 大規模災害団員:機能別団員の一種であり、大規模災害時に限定して出動し、基本団員だけでは対応できない活動や事業所等で所有する資機材を用いた活動を行う消防団員をいう。

(2)消防団員の処遇の改善

消防団員に支給される退職報償金について、平成26年に全階級で一律5万円(最低支給額20万円)の引上げを行ったほか、消防団員の年額報酬及び出動手当について、活動内容に応じた適切な支給を各市町村に働き掛けるとともに、特に支給額の低い市町村に対して引上げを要請してきている。

(3)装備等の充実強化

消防団等充実強化法の成立を契機として、消防庁では、消防団の装備等の充実強化に向け、平成26年の「消防団の装備の基準」の改正のほか、以下の取組を行っている。

ア 消防団の救助活動用資機材等の整備に対する国庫補助*4

平成30年12月14日に閣議決定された「3か年緊急対策」として、消防団の災害対応能力の向上を図るため、国庫補助金(正式名称:消防団設備整備費補助金(消防団救助能力向上資機材緊急整備事業))を新設した。
本補助金の積極的な活用を通じ、消防団の装備の充実及び災害対応能力の向上を進めている。

イ 救助用資機材等搭載型消防ポンプ自動車等の無償貸付*5

同じく「3か年緊急対策」として、平成30年度第2次補正予算及び令和元年度当初予算により、消防団に対し、救助活動用資機材等を搭載した消防ポンプ自動車等を無償で貸し付け、訓練等を支援している。

ウ 情報収集活動用資機材及び小型動力ポンプの無償貸付

平成29年度当初予算、平成30年度当初予算及び令和元年度当初予算により、全都道府県の消防学校に対し、災害現場の状況を速やかに把握するための情報収集活動用資機材(オフロードバイク、ドローン)や、女性・若者が扱いやすい小型動力ポンプを無償で貸し付け、消防学校での消防団員に対する訓練を支援している。

エ 消防団拠点施設及び地域防災拠点施設の整備

各市町村が消防団拠点施設や地域防災拠点施設において標準的に備えることを要する施設・機能(研修室、資機材の収納スペース、男女別の更衣室・トイレ等)について、地方財政措置等の活用により整備することを促進している。

*4 詳細は特集1を参照
*5 詳細は特集1を参照

(4)教育・訓練の充実・標準化

消防団の現場のリーダーの教育訓練の充実を図るため、平成26年3月に「消防学校の教育訓練の基準」を改正したほか、火災防ぎょ、救助救命、避難誘導等における的確な現場指揮、安全管理の知識及び技術の向上や、自主防災組織等への指導・育成を消防団員が行う上で必要となる教育用教材を作成し、平成26年度から消防学校に配布している。
また、平成30年度には、平成28年の新潟県糸魚川市大規模火災の教訓を踏まえ、「消防団員のための強風下における消防活動要領」を作成し、消防庁ホームページに掲載している。

(5)その他消防団の充実強化施策

ア 全国消防団員意見発表会の実施等

地域における活動を推進するとともに、消防団員の士気の高揚を図るため、全国各地で活躍する消防団員による意見発表会を毎年度開催しており、平成30年度は、平成31年2月10日に開催した。
また、地域に密着した模範となる活動を行っている消防団や、消防団員の確保に特に力を入れている消防団、大規模災害等において顕著な活動を行った消防団に対する表彰を行い、その取組内容を取りまとめ、全国に発信している。

イ 消防団員加入促進キャンペーンの全国展開

消防団員の退団が毎年3月末から4月にかけて多く、退団に伴う消防団員の確保の必要性があることを踏まえ、毎年1月から3月までを「消防団員入団促進キャンペーン」期間として、入団促進に向け、消防団員募集ポスター(特集8-10図)やリーフレット(特集8-11図)を作成して全国の市町村・消防本部等に配布するなどにより、広報の全国的な展開を重点的に行っている。平成30年度は、前年度に引き続き、リーフレットをファミリーレストランに設置するなどの取組を行った。

特集8-10図 消防団員募集ポスター

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特集8-10図 消防団員募集ポスター

特集8-11図 消防団員募集リーフレット

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特集8-11図 消防団員募集リーフレット

ウ 消防団活動のPR

消防庁における最新施策や最新情報のほか、各消防団における取組事例等を掲載し(特集8-12図)、消防団活動や加入促進のPRに努めている。
(参照 URL:https://www.fdma.go.jp/syobodan/
また、地域住民に消防団をより身近なものとして知ってもらうため、平成31年3月、各都道府県及び市町村から消防団に関する動画作品を募集し、優秀な作品を表彰する「消防団PRムービーコンテスト」を実施した。

特集8-12図 消防団のオフィシャルウェブサイト

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特集8-12図 消防団のオフィシャルウェブサイト

エ 消防団等充実強化アドバイザーの派遣

平成19年4月から、消防団の充実強化等に関する豊富な知識や経験を有する消防職団員等を、「消防団等充実強化アドバイザー」として地方公共団体等に派遣し、消防団への加入促進、消防団の充実強化等を図るための具体的な助言や情報提供を行っている。
平成31年4月1日現在、28人のアドバイザー(うち女性7人)が全国で活躍している。

オ 全国消防操法大会の開催

消防団員の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、「全国消防操法大会」を開催しており、平成30年度は、10月19日、富山県富山市において第26回大会を開催した。

カ 地域防災力充実強化大会の開催

消防団等充実強化法の成立等を踏まえ、地域防災力の充実強化を図るため、「地域防災力充実強化大会」を平成27年度以降開催しており、令和元年度は、10月25日、福岡県北九州市において開催した。
今後とも、地域防災力の充実強化に向けた地域での気運の醸成を図っていく。

キ 準中型自動車免許の新設に伴う対応

道路交通法の改正により、平成29年3月12日から、新たな自動車の種類として、車両総重量3.5トン以上7.5トン未満等の範囲を準中型自動車とし、これに対応する免許として準中型自動車免許(以下「準中型免許」という。)が新設されるとともに、同日以後に取得した普通自動車免許で運転できる普通自動車の範囲は車両総重量3.5トン未満等とされた。これに伴い、車両総重量3.5トン以上の消防自動車を所有している消防団において、将来的に当該自動車を運転する消防団員の確保が課題となる。
そこで、消防庁では、平成30年1月25日、各地方公共団体に対する通知を発出し、消防団で所有する消防自動車に係る準中型免許の新設に伴う対応として、消防団員の準中型免許の取得に係る公費負担制度の新設及び改正道路交通法施行後の普通自動車免許で運転できる消防自動車の活用を依頼した。あわせて、当該公費負担制度を設けた地方公共団体に対しては、平成30年度から特別交付税による地方財政措置を講じているほか、平成29年度からは、救助用資機材等搭載型消防ポンプ自動車の無償貸付(2.(3)イを参照)における貸付対象車両に車両総重量3.5トン未満の車両を追加している。
さらに、平成31年3月27日付けで各地方公共団体に発出した通知において、当該地方財政措置の概要を周知したほか、公費負担制度を新設した地方公共団体における同制度の規定例等の紹介を行った。
今後とも、消防団の実情を注視し、消防団車両の運行に支障が生じないよう努める。

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