令和2年版 消防白書

[危険物行政の課題]

(1)官民一体となった事故防止対策の推進

危険物施設における火災及び流出事故の発生件数は、平成6年(1994年)頃を境に増加傾向に転じ、依然として高い水準で推移している(第1-2-1図)。
危険物施設における事故を防止するためには、事業所の実態に応じた安全対策や、危険物施設の経年劣化をはじめとする事故要因への対策を適切に講じる必要がある。
このような状況を踏まえ、関係業界や消防機関等により構成される「危険物等事故防止対策情報連絡会」において、平成28年3月、事故防止対策をより効果的なものとするため、「危険物等に係る重大事故の発生を防止すること」が目標として定められ、この目標に向けた関係業界や消防機関等の取組を取りまとめた「危険物等事故防止対策実施要領」が毎年度策定されている。
今後とも、事故に係る調査分析結果等の情報共有や、各地域における取組の推進など、関係機関が一体となって事故防止対策を推進していく必要がある。
なお、令和元年7月に京都府京都市伏見区で発生した爆発火災を受け、同様の事案の発生を抑止するため、令和2年2月1日から、ガソリンを容器に詰め替えて販売する場合には、顧客の本人確認、使用目的の確認及び販売記録の作成を行うことを義務付けた。

(2)科学技術及び産業経済の動向等を踏まえた安全対策の推進

科学技術及び産業経済の動向等に伴い、危険物行政を取り巻く環境は常に変化しており、新たな危険性物質の出現、危険物の流通形態の変化、危険物施設の多様化・複雑化、設備・機器の高経年化等への対応が求められている。
消防法上の危険物に指定されていないが、同様の火災危険性を有する物質への対応を図るため、平成21年度から「火災危険性を有するおそれのある物質等に関する調査検討会」を開催している。検討会では、新たな化学物質等について広く調査を行うとともに、火災危険性を有するおそれのある物質を抽出して性状確認等を行っている。
また、近年、危険物施設は高経年化が進み、腐食・劣化等を原因とする事故件数が増加していることから、平成29年8月から「危険物施設の長期使用に係る調査検討会」を開催し、危険物施設の長期使用を踏まえた安全対策のあり方について検討を行っている。令和2年3月には、検討会において取りまとめられた「屋外貯蔵タンクの浮き屋根の安全対策に関する検討報告書」に基づき、「浮き屋根の漏えい事故防止に関するガイドライン」及び「浮き屋根の漏えい発生時の仮補修に関するガイドライン」を通知し、浮き屋根式屋外タンク貯蔵所の適切な維持管理を推進している。
令和元年8月においては、危険物の規制に関する規則等の改正を行い、水素スタンドを併設する給油取扱所において、給油のための停車スペースと水素充?のための停車スペースの共用化や、液化水素を直接ポンプで昇圧する方式の水素スタンドの併設を行うことができるよう規定の整備を行った。また、危険物を貯蔵する屋外タンクについて、一定の要件を満たしたタンクの溶接部に対する補修工事については、シミュレーション等による確認を行うことにより、従来の水張検査(タンクに水を張って漏れや変形のないことを確認する検査)を代替できるよう、規定の整備を行った。さらに、危険物施設に設置する泡消火設備について、従来、金属製の配管を使用するよう規定されているところ、規制改革ホットラインにおける意見等を踏まえ、新たに合成樹脂製の配管を使用できるよう規定の整備を行った。

(3)大規模災害への対応

大規模な自然災害の発生等に伴い、危険物施設において流出事故等が発生した場合には、周辺住民の安全や産業、環境等に対して多大な影響を及ぼすおそれがあることから、適切に安全確保を図る必要がある。一方、災害時の応急対策や復旧の段階において、ガソリン等燃料の緊急的な供給、被災地の危険物施設や関係者の負担軽減等を図るため、消防法令の弾力的な運用が求められている。
これまでの対応として、東日本大震災や近年の風水害における被害を踏まえ、平成25年には大規模地震を対象に「震災時等における危険物の仮貯蔵・仮取扱い等の安全対策及び手続きに係るガイドライン」を公表した。また、平成26年には、「危険物施設の震災等対策ガイドライン」を公表し、危険物施設が立地する場所において、被害の確認・応急措置、臨時的な貯蔵・取扱い、復旧対応等の適切な実施を求めている。
風水害対策については、平成30年7月豪雨や平成30年台風21号等を踏まえ、令和元年から「危険物施設の風水害対策のあり方に関する検討会」を開催し、「危険物施設の風水害対策ガイドライン」を令和2年3月に公表した。また、5月に防災基本計画(危険物等災害対策編)が修正され、危険物施設を所有する事業者等に対して、危険物施設が立地する場所において想定される浸水や土砂災害等の発生危険性、施設形態や危険物の貯蔵・取扱い等の状況に応じ、必要な措置を講ずるよう求めている。
さらに、小規模な屋外貯蔵タンクについて、東日本大震災の際の津波や、近年の風水害に伴い、タンク本体や附属配管が破損し、石油類が流出する事例が散見されることを踏まえ、令和2年8月から「屋外貯蔵タンクの津波・水害による流出等防止に関する調査検討会」を開催し、津波・水害に対する小規模な屋外貯蔵タンクの流出等防止対策の検討を行っている。

(4)過疎地域等における燃料供給インフラの維持に向けた対策

石油製品の需要の減少を背景として、過疎化やそれに伴う人手不足等により、ガソリンスタンドの数が年々減少しており、自家用車等への給油、移動手段を持たない高齢者への灯油配送などに支障を来たす地域が増加している。このような状況を踏まえ、エネルギー基本計画(平成30年7月3日閣議決定)等において、AI・IoT等の新たな技術を活用し、人手不足の克服、安全かつ効率的な事業運営や新たなサービスの創出を可能とするため、安全確保を前提に規制のあり方について検討することが求められている。
このため、令和元年5月から「過疎地域等における燃料供給インフラの維持に向けた安全対策のあり方に関する検討会」を開催し、過疎地域等の地域特性や最近の技術動向等を踏まえた、新しい燃料供給インフラの安全対策のあり方に係る検討を行っている。
この検討を踏まえ、令和元年12月に危険物の規制に関する規則の改正を行い、ガソリンスタンドにおける業務の効率化・多角化に資するため、セルフサービス方式のガソリンスタンドにおいて、従来、事業所内の制御卓で行っている給油許可等について、タブレット端末等によっても行うことができるようにするとともに、建築物の1階で行うこととしている物品の販売等の業務について、火災予防上の支障がない場合に建築物の周囲の空地でも行うことができるよう規定の整備を行った。

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