令和2年版 消防白書

4.消防大学校における教育訓練及び技術的援助

消防大学校は、国及び都道府県の消防事務に従事する職員又は市町村の消防職団員に対し、幹部として必要な高度な教育訓練を行うとともに、都道府県等の消防学校に対し、教育訓練に関する必要な技術的援助を行っている。

(1)施設・設備

消防大学校には、教育訓練施設として、本館、第2本館、訓練施設及び寄宿舎がある。
本館には、4つの教室、視聴覚教室、理化学燃焼実験室、図書館のほか、様々な災害現場を模擬体験して指揮者としての状況判断能力や指揮能力を養成する災害対応訓練室等を設けている。
第2本館には、講堂のほか、救急訓練室、特別教室、屋内訓練場等を設けている。
訓練施設には、地上4階の低層訓練棟及び地上11階の高層訓練塔に加え、コンテナ内で木材を燃やし、実際の火災現場と同様の環境の変化を体験することができる実火災体験型訓練施設のほか、木造密集等の活動困難地域等を想定した訓練を実施することができる街区形成集合住宅型ユニットを設けている。
寄宿舎は南寮と北寮の2寮からなり、女性専用スペース(浴室、トイレ、更衣室、談話室など)も設けている。
また、教育訓練車両として、指揮隊車、普通ポンプ車、水槽付きポンプ車、救助工作車、特殊災害車、災害支援車、高規格救急自動車及び資機材搬送車を保有している。

実火災体験型訓練(ホットトレーニング)
実火災体験型訓練(ホットトレーニング)
実火災体験型訓練(危険物火災)
実火災体験型訓練(危険物火災)
多数傷病者対応訓練
多数傷病者対応訓練

(2)教育訓練の実施状況

ア 社会情勢の変化に伴う教育訓練内容の充実

消防大学校では、令和元年度において、総合教育及び専科教育で968人、実務講習で567人の卒業生を送り出しており、卒業生数は、創設以来、令和元年度までで延べ6万4,230人となった。
また、令和2年度は定員1,916人の計画を策定していたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大及び緊急事態宣言等を踏まえ、一部の学科等の中止、延期又は日程変更を行い、定員を1,532人とした(第2-4-3表)。
学科については、平成18年度に大幅な再編を実施し、その後も受講者のニーズ等を踏まえて適宜見直しを行っている。
令和元年度においては、年間に22の学科と13の実務講習を実施することとしていたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえ、令和2年3月に予定していた2の学科と1の実務講習を中止した。各課程の教育訓練内容(授業科目)については、各学科等の目的に応じて社会情勢の変化に伴う新しい課題に対応するための科目として、ハラスメント対策、メンタルヘルス、惨事ストレス対策、危機管理、広報及び訴訟対応を取り入れている。
また、情報システムを活用した火災時指揮シミュレーション、大規模地震の際の受援シミュレーションなどを訓練に加えているほか、実火災体験型訓練施設を活用した実際の火災に近い環境下での消防活動訓練(ホットトレーニング)の実施や、査察業務マネジメントコースの設置などにより、カリキュラムの充実を図っている。
一部の課程では、インターネットを使った事前学習(e-ラーニング)を取り入れ、限られた期間内でより効率的な教育訓練が行えるようにしている。また、女性の研修機会の拡大を図るため、各学科の定員の5%を女性消防吏員の優先枠として設定し女性の入校を推進するとともに、女性消防吏員のキャリア形成の支援等を目的とした実務講習である女性活躍推進コースを実施しているほか、女性の活躍推進をテーマとした「消防大学校フォーラム」を開催している。
このほか、国際的な大規模イベント(令和3年に開催される2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)等)の開催に向け、NBC災害対応力の強化を図るため、平成28年度からオリンピック開催年度までの間、NBCコースの教育日数を10日間から15日間に増やすこととしている。
令和元年度には、大規模イベント等においてNBC災害等により多数傷病者が発生した場合の消防機関の対応能力の向上のため、消防大学校に陽圧式化学防護服、大型除染システム及び資機材搬送車等のNBC資機材を整備した。

第2-4-3表 教育訓練実施状況

第2-4-3表 教育訓練実施状況

※1 新型コロナウイルス感染症対策のため、「新任教官科」はe-ラーニング及び2日間の短期スクーリングによる実施、「現任教官科」及び「高度救助・特別高度救助コース」は中止
※2 新型コロナウイルス感染症対策等のため、「新任消防長・学校長科」及び「指揮隊長コース」は各2回を1回に統合、「警防科」、「救助科」及び「火災調査科」は各2回のうち1回を令和3年度に延期、「消防団活性化コース」は2回のうち1回を中止、「危機管理・国民保護コース」及び「自主防災組織育成コース」は中止

イ 新型コロナウイルス感染拡大による影響

新型コロナウイルス感染症に係る政府の全国全ての小中高等学校等への臨時休業要請等を踏まえ、消防大学校においても、令和2年3月に実施を予定していた「新任教官科(11日間)」は、e-ラーニング及び一泊二日の短期スクーリングによる実施とし、「現任教官科」及び「高度救助・特別高度救助コース」は中止した。
また、令和2年度においては、21の学科と13の実務講習を計画していたが、新型コロナウイルスの感染状況や緊急事態宣言等を受け、令和2年4月から6月上旬及び8月に実施を予定していた学科等について、統合や翌年度への延期、中止を行い、17の学科と9の実務講習を実施することとし、定員を1,916人から1,532人とした。
なお、教育訓練実施に当たっては、教職員及び学生の検温・体調確認、マスク着用等の飛沫防止対策、消毒・換気などの感染防止対策を徹底して行っている。

(3)消防学校に対する技術的援助

自然災害や火災・事故等の態様の多様化・大規模化に伴い、都道府県等の消防学校における教育訓練も充実強化が求められていることから、消防大学校では、次のような技術的援助を行っている。

ア 消防学校長・教官に対する教育訓練

消防学校長及び教官に対しては、それぞれ、新任消防長・学校長科、新任教官科及び現任教官科において教育訓練を行っている。
また、新任教官科及び現任教官科では、教育技法の習得を中心に教育を実施するとともに、実際に講義を行う演習を取り入れ、消防学校における教育指導者養成を行っている。
なお、新任教官科及び現任教官科以外の各学科においても、教育指導者養成を目的の一つとしており、教育技法の学習や講義演習を実施している。

イ 講師の派遣

消防学校における教育内容の充実のため、消防学校からの要請により、警防、予防、救急、救助等の消防行政・消防技術について講師の派遣を行っている。令和元年度は、延べ131回の講師の派遣を実施した。

ウ 消防教科書の編集

消防学校において使用する初任者用教科書の編集を行っており、令和元年4月現在21種類が発行されている。

エ 講師情報の提供等

消防学校で行う教育訓練において、専門分野に一定水準の知識・技術が担保された講師等を確保し、教育訓練の質の更なる向上に資するため、消防大学校卒業生名簿及び講師情報等を提供している。

(4)特別講習会

東京2020大会等の大規模イベント等への対応能力強化のため、平成28年度から大規模イベント等の会場所在都道府県において、安全管理、多数傷病者対応、NBC対応の講義を行う特別講習会を実施しており、令和元年度までに全国16カ所で開催した。

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