令和2年版 消防白書

第5節 救急体制

1.救急業務の実施状況

(1)救急出動の状況

令和元年中の救急自動車による全国の救急出動件数は、663万9,767件(対前年比3万4,554件増、0.5%増)となっており、初めて500万件を超えた平成16年以降もほぼ一貫して増加傾向が続いている。救急出動件数は1日平均とすると約1万8,191件(同約95件増)で、約4.7秒(前年約4.8秒)に1回の割合で救急隊が出動したことになる。
また、救急自動車による搬送人員も一貫して増加傾向が続いており、597万8,008人(対前年比1万7,713人増、0.3%増)となっている。これは国民の21人に1人(前年同数)が救急隊によって搬送されたことになる。救急自動車による搬送の原因となった事故種別にみると、急病が392万2,274人(65.6%)、一般負傷が92万6,553人(15.5%)、交通事故が41万1,528人(6.9%)などとなっている(第2-5-1表、第2-5-2表、附属資料2-5-1附属資料2-5-2)。
なお、消防防災ヘリコプターによる出動件数は3,005件(対前年比123件減)、搬送人員は2,250人(同68人減)となっている。

第2-5-1表 救急出動件数及び搬送人員の推移

(各年中)

第2-5-1表 救急出動件数及び搬送人員の推移

(備考)「救急年報報告」及び「消防防災・震災対策現況調査」による。

第2-5-2表 救急自動車による事故種別出動件数及び搬送人員

(各年中)

第2-5-2表 救急自動車による事故種別出動件数及び搬送人員

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。

(2)傷病程度別搬送人員の状況

令和元年中の救急自動車による搬送人員597万8,008人のうち、約半数が入院加療を必要としない軽症(外来診療)傷病者及びその他(医師の診断がないもの等)となっている(第2-5-3表)。

第2-5-3表 救急自動車による事故種別傷病程度別搬送人員の状況

(令和元年中)

第2-5-3表 救急自動車による事故種別傷病程度別搬送人員の状況

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 初診時における傷病程度は次によっている。
(1)死亡 初診時において死亡が確認されたもの
(2)重症(長期入院) 傷病程度が3週間以上の入院加療を必要とするもの
(3)中等症(入院診療) 傷病程度が重症又は軽症以外のもの
(4)軽症(外来診療) 傷病程度が入院加療を必要としないもの
(5)その他 医師の診断がないもの及び傷病程度が判明しないもの、その他の場所へ搬送したもの
※なお、傷病程度は入院加療の必要程度を基準に区分しているため、軽症の中には早期に病院での治療が必要だったものや、通院による治療が必要だったものも含まれる。
3 ( )内は構成比を示し、単位は%である。
4 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。

(3)年齢区分別事故種別搬送人員の状況

令和元年中の救急自動車による搬送人員597万8,008人の内訳を年齢区分別にみると、新生児が1万2,938人(0.2%)、乳幼児28万728人(4.7%)、少年が20万2,830人(3.4%)、成人が189万2,457人(31.7%)、高齢者が358万9,055人(60.0%)となっており、高齢化の進展等により高齢者の占める割合が年々高まる傾向にある(対前年比0.6ポイント増)(第2-5-1図、附属資料2-5-3)。
また、急病では高齢者(243万7,522人、62.1%)、交通事故では成人(24万8,330人、60.3%)、一般負傷では高齢者(64万1,017人、69.2%)が最も高い割合で搬送されている(附属資料2-5-3)。

第2-5-1図 年齢区分別搬送人員構成比率の推移

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第2-5-1図 年齢区分別搬送人員構成比率の推移

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 年齢区分は次によっている。
(1)新生児 生後28日未満の者
(2)乳幼児 生後28日以上満7歳未満の者
(3)少年 満7歳以上満18歳未満の者
(4)成人 満18歳以上満65歳未満の者
(5)高齢者 満65歳以上の者
ア 65歳から74歳 満65歳以上満75歳未満の者
イ 75歳から84歳 満75歳以上満85歳未満の者
ウ 85歳以上 満85歳以上の者
3 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。

(4)現場到着所要時間の状況

令和元年中の救急自動車による出動件数663万9,767件の内訳を現場到着所要時間(119番通報を受けてから現場に到着するまでに要した時間)別にみると、5分以上10分未満が414万6,519件で最も多く、全体の62.4%となっている(第2-5-2図)。
また、現場到着所要時間の平均は約8.7分(前年約8.7分)となっており、10年前(平成21年)と比べ、0.8分延伸している(第2-5-4図)。

第2-5-2図 救急自動車による現場到着所要時間別出動件数の状況

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(令和元年中)

第2-5-2図 救急自動車による現場到着所要時間別出動件数の状況

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。

(5)病院収容所要時間の状況

令和元年中の救急自動車による搬送人員597万8,008人の内訳を病院収容所要時間(119番通報を受けてから医師に引き継ぐまでに要した時間)別にみると、30分以上60分未満が379万567人(63.4%)で最も多くなっている(第2-5-3図)。
また、病院収容所要時間の平均は約39.5分(前年約39.5分)となっており、10年前(平成21年)と比べ、3.4分延伸している(第2-5-4図)。

第2-5-3図 救急自動車による病院収容所要時間別搬送人員の状況

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(令和元年中)

第2-5-3図 救急自動車による病院収容所要時間別搬送人員の状況

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。

第2-5-4図 救急自動車による現場到着所要時間及び病院収容所要時間の推移

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第2-5-4図 救急自動車による現場到着所要時間及び病院収容所要時間の推移

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 東日本大震災の影響により、平成22年及び平成23年の釜石大槌地区行政事務組合消防本部及び陸前高田市消防本部のデータを除いた数値により集計している。

(6)救急隊員の行った応急処置等の状況

令和元年中の救急自動車による搬送人員597万8,008人のうち、救急隊員が応急処置等を行った傷病者は596万4,950人(99.8%)となっており、救急隊員が行った応急処置等の総件数は2,303万5,861件である(第2-5-4表)。
また、平成3年(1991年)以降に拡大された救急隊員が行った応急処置等(第2-5-4表における※の項目)の総件数は、1,661万8,225件(対前年比3.8%増)となっているが、このうち救急救命士が傷病者の蘇生等のために行う救急救命処置(除細動*1(救急救命士以外の救急隊員が行うものを含む。)、気管挿管*2やラリンゲアルマスク*3等による気道確保、静脈路確保*4、薬剤投与*5、血糖測定*6、ブドウ糖投与*7、自己注射が可能なアドレナリン製剤の使用*8)の件数は24万1,675件(対前年比5,926件増)に上り、対前年比で2.5%増となっている。

第2-5-4表 救急隊員の行った応急処置等の状況

(令和元年中)

第2-5-4表 救急隊員の行った応急処置等の状況

(備考)
1 「救急年報報告」により作成
2 1人につき複数の応急処置等を行うこともあるため、応急処置等対象搬送人員と事故種別ごとの応急処置等の項目の計は一致しない。
3 ( )内は構成比を示し、単位は%である。
4 小数点第二位を四捨五入のため、合計等が一致しない場合がある。
5 ※は平成3年以降に拡大された応急処置等の項目である。
6 救急自動車により搬送された傷病者に行った応急処置等の状況を示す。

*1 除細動:心臓がけいれんしたように細かく震えて血液が拍出できない致死的不整脈(心室細動)に電気ショックをかけることにより、その震えを取り除く処置のこと。
*2 気管挿管:医師の具体的な指示の下で、気管内チューブを用い、喉頭を経由して気道確保を行うこと。
*3 ラリンゲアルマスク:医師の具体的な指示の下で、気道確保を行うために用いられる換気チューブの一つ。喉頭を覆い隠すように接着し、換気路を確保する。
*4 静脈路確保:医師の具体的な指示の下で、静脈内に針を留置して輸液路を確保する処置のこと。静脈路確保により、薬剤を必要時に直ちに静脈内投与することが可能になる。
*5 薬剤投与:医師の具体的な指示の下で、アドレナリン(エピネフリンともいう。以下単に「アドレナリン」という。)の投与を行うこと。
*6 血糖測定:意識障害のある傷病者に対して血糖値を測定すること。
*7 ブドウ糖投与:医師の具体的な指示の下で、ブドウ糖溶液の投与を行うこと。
*8 自己注射が可能なアドレナリン製剤の使用:アナフィラキシーショックにより生命が危険な状態にある傷病者が、あらかじめ自己注射が可能なアドレナリン製剤(エピペンRなど)を処方されている者であった場合には、救急救命士が、自己注射が可能なアドレナリン製剤によるアドレナリンの投与を行うこと。

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