令和2年版 消防白書

2.新型コロナウイルス感染症対策に係る消防機関等の取組

(1)消防庁の体制

消防庁では、令和2年1月26日、救急企画室長を長とする消防庁災害対策室を設置し、30日には、総務省対策本部の設置を踏まえ、消防庁においても、消防庁長官を本部長とする「消防庁新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置した。
3月26日には、特措法に基づく政府対策本部の設置を受け、消防庁長官を本部長とする「新型コロナウイルス感染症消防庁対策本部」(以下、本特集において「消防庁対策本部」という。)を設置した。
同月28日、政府における基本的対処方針の決定及び総務省における総務省対処方針の決定を踏まえ、消防庁においても消防庁対策本部を開催し、「新型コロナウイルス感染症対策の消防庁対処方針」(以下、本特集において「消防庁対処方針」という。)を決定した。消防庁対処方針では、新型コロナウイルス感染症対策を更に進めていくため、消防庁職員への注意喚起や、地方公共団体・消防機関等の関係機関との連携の推進等について、消防庁として迅速かつ適切に行うこととした。
消防庁は、基本的対処方針及び総務省対処方針の改正及び変更を受け、4月7日及び5月25日に消防庁対処方針を改正した。
なお、新型コロナウイルス感染症に係る消防庁内の体制構築の概要は、特集2-2表のとおりである。

特集2-2表 新型コロナウイルス感染症に係る消防庁内の体制構築の概要

特集2-2表 新型コロナウイルス感染症に係る消防庁内の体制構築の概要

※1 同日以降、「新型コロナウイルス感染症総務省対策本部」の開催等を踏まえ、「消防庁新型コロナウイルス感染症対策本部」を25回開催
※2 同日以降、「新型コロナウイルス感染症総務省対策本部」の開催等を踏まえ、「新型コロナウイルス感染症消防庁対策本部」を53回(令和2年12月1日現在)開催

(2)具体的な取組

消防庁においては、新型コロナウイルス感染症対策について、累次の通知等を発出し、消防機関の円滑な活動の推進や、国民の安全確保に努めた。
まず、救急業務については、救急隊員の行う感染防止対策など具体的手順の徹底や、保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築、救急搬送困難事案の抑制に向けた連携協力等を消防機関に要請した。
また、消防機関に対し、消防職員の健康管理の徹底や、必要な業務を継続できる体制の確保を要請するなどして、消防機関の業務継続について周知した。
危険物保安・火災予防等については、手指の消毒等のため使用頻度が高まった消毒用アルコールの安全な取扱い及び弾力的な運用や、感染拡大防止の観点からレジカウンター等に設置される飛沫防止用のシートの使用に係る留意事項について周知した。また、消防法令に定める各種義務の履行等についても、弾力的な運用を認める旨の通知を発出した。
災害発生時の避難所における新型コロナウイルス感染症対応については、内閣府及び厚生労働省等と連携し、各自治体に対し、対応の徹底について要請した。また、自然災害発生時の救助活動等及び緊急消防援助隊活動時における感染防止の徹底について周知した。
さらに、感染症対策に関する住民への情報発信については、防災行政無線の戸別受信機をはじめとする様々な情報伝達手段を活用した情報発信を行うよう各市町村に周知した。

ア 救急業務における対応

(ア)救急隊員への注意喚起等
令和2年1月16日、厚生労働省から、新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生が国内で初めて確認されたことについて報道発表があったことから、消防庁では、「新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について」(令和2年1月16日付け消防庁救急企画室事務連絡)を発出し、都道府県消防防災主管部(局)を通じ、消防機関に対し、新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生に係る注意喚起を実施した。
その後、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令等の公布を踏まえ、厚生労働省より「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について(一部改正)」(令和2年2月3日付け健感発0203第2号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)が発出され、新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる患者の要件等が示された。これを受けて、救急業務における具体的な対応方針について、消防庁から、「新型コロナウイルス感染症に係る消防機関における対応について」(令和2年2月4日付け消防消第26号消防庁消防・救急課長、消防救第32号消防庁救急企画室長通知。令和2年5月27日一部改正。以下、本特集において「2月4日通知」という。)を発出した。2月4日通知では、救急業務の実施に当たって、保健所等との連絡体制を確保した上で、①都道府県知事が入院を勧告した患者(疑似症を含む。)又は入院させた患者の医療機関までの移送は、都道府県知事(保健所設置市の場合は市長又は区長)が行う業務であること、②全ての傷病者に対して、標準感染予防策を徹底すること、③救急要請時又は現場到着時に、新型コロナウイルス感染症の患者又は感染が疑われる患者であることが判明した場合は、直ちに保健所等に連絡し、対応を引き継ぐこと等を消防機関に周知した。
また、救急隊員が心肺停止の新型コロナウイルス感染症患者及び新型コロナウイルス感染症が疑われる傷病者への対応に当たる際の留意事項として、「心肺停止の新型コロナウイルス感染症患者及び新型コロナウイルス感染症が疑われる傷病者に係る消防機関における対応について」(令和2年4月27日付け消防救第109号消防庁救急企画室長通知)を発出した。これによって、日本臨床救急医学会より消防庁に対し提言された「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う心肺停止傷病者への対応について(消防機関による対応ガイドライン)」を消防機関に対し情報提供するとともに、「新型コロナウイルス感染症に対する救急隊員の感染防止対策のポイント」を参考として示すなど、救急隊の感染防止対策の再度の徹底等を要請した。
上記の対応を含め、消防庁は、消防機関に対して、新型コロナウイルス感染症に係る注意喚起及び具体的な対応方法に関する通知等を累次にわたって発出し、救急隊員の行う感染防止対策など具体的手順の徹底や、保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築、救急搬送困難事案の抑制に向けた連携協力を要請した(特集2-1図)。

特集2-1図 新型コロナウイルス感染症に係る消防庁の対応状況(救急関係)について

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(令和2年12月1日現在)

特集2-1図 新型コロナウイルス感染症に係る消防庁の対応状況(救急関係)について(令和2年12月1日現在)

(イ)感染防止資器材の確保・提供等
救急現場における感染防止対策については、消防庁から消防機関に対して、累次の通知等を発出し、保健所等関係機関との連携や、マスク・手袋などの感染防止資器材の正しい装着方法、救急隊員の健康管理及び救急車の消毒の徹底といった、具体的な対応手順の周知・徹底を図ってきた。
こうした中、今般の新型コロナウイルス感染症への対応に当たっては、感染防止資器材の需給関係が不安定となり、その確保に支障が生ずる消防機関も発生した。このため、消防庁は、令和2年3月10日に感染防止資器材の卸売会社等に対して、医療機関等と同様に消防機関に対する安定供給に努めるよう要請を行った。また、救急搬送に当たって必要となる感染防止資器材について不足が生じ、救急活動に支障が生じることのないよう、令和元年度一般会計予備費、令和2年度第1次補正予算及び第2次補正予算において、緊急的な措置として、消防庁がN95マスクや感染防止衣などの感染防止資器材を調達して必要な本部に提供する形で支援する経費を計上し、救急隊員の感染防止対策の徹底を図っている。
加えて、令和2年度第1次補正予算では、患者等の移送・搬送に万全を期すため、緊急消防援助隊設備整備費補助金により、救急車の増隊整備や、患者等を隔離して搬送するための資器材(アイソレーター)などの整備促進を図った。
また、新型コロナウイルス感染症対応に当たる救急隊員等の感染症対策強化のため、「令和2年度救急業務のあり方に関する検討会」の下で「救急隊の感染防止対策ワーキンググループ」を開催した。同ワーキンググループでは、平成31年3月に発出した「救急隊の感染防止対策マニュアル(Ver.1.0)」の改訂を中心とした議論が行われている。
引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対し万全の体制を整えるため、各消防本部における感染防止資器材の確保に対する支援や、消防機関と衛生主管部(局)等の連携体制の強化に向けた対策等*4を推進していくこととしている。

(ウ)保健所等関係機関との密な情報共有、連絡体制の構築
2月4日通知においては、新型コロナウイルス感染症について、感染症法の準用がなされ、都道府県知事が入院を勧告した患者(疑似症を含む。)又は入院させた患者の医療機関までの移送は、都道府県知事(保健所設置市の場合は市長又は区長)が行う業務とされているが、地域における搬送体制の確保の観点から、消防機関としても、あらかじめ保健所等との密な情報共有、連絡体制の構築に協力するよう要請した。また、厚生労働省から消防庁に対して、保健所等が行う新型コロナウイルス感染症の患者(疑似症患者を含む。)の移送について消防機関に対する協力の要請があったことから、「エボラ出血熱患者の移送に係る保健所等に対する消防機関の協力について」(平成26年11月28日付け消防救第198号消防庁救急企画室長通知)に準じて、感染症患者の移送について消防機関と保健所等との間で協定等を締結している場合には、その内容に従って移送に協力するとともに、協定等を締結していない場合にあっても、保健所等と事前に十分な協議を行った上で移送に協力するよう、消防機関に要請した。
さらに、新型コロナウイルス感染症の患者又は新型コロナウイルス感染症の感染が疑われる患者への対応事案が大幅に増えたときに備え、一段と的確に対応を図っていく必要が生じたため、「新型コロナウイルス感染症に係る消防機関と保健所等との連絡体制の構築等について」(令和2年2月28日付け消防庁消防・救急課、消防庁救急企画室事務連絡)を発出し、消防機関に対して、改めて感染防止対策の徹底を図ること、消防機関が移送することとなった場合の移送先医療機関の決定等に困難が生じることのないよう、あらかじめ保健所等との密な情報共有、連絡体制の構築に努めることを要請するとともに、消防機関と保健所等との連絡体制の構築等に関して、先行取組事例等を取りまとめ、周知した。
また、厚生労働省より、「新型コロナウイルス感染症患者等の移送及び搬送について」(令和2年5月27日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)が発出され、今後、新型コロナウイルス感染症患者等が増加した場合においても、都道府県知事、保健所設置市長又は特別区長が当該患者等の移送を円滑に進められるよう、都道府県知事等から消防機関に対して移送協力の要請をする場合の留意事項等が示されたことに伴い、消防庁から、「新型コロナウイルス感染症患者等の移送等への対応について(依頼)」(令和2年5月27日付け消防庁救急企画室事務連絡)を発出し、今後、都道府県知事等から、地域の実情を踏まえて必要に応じ、都道府県消防防災主管部(局)や消防機関に対して新型コロナウイルス感染症患者等の移送に係る協議がなされることも想定し、適切な対応に努めるよう依頼した。

(エ)救急搬送困難事案への対応
新型コロナウイルス感染症患者が増加しはじめた令和2年3月以降、発熱や呼吸苦などの新型コロナウイルス感染症を疑う症状を呈する傷病者への対応に関して、消防機関が受入れ医療機関の決定に苦慮する事案が報告された。
これを受けて、消防庁は、「新型コロナウイルス感染症に伴う救急搬送困難事案に係る状況調査について(依頼)」(令和2年4月23日付け消防救第103号消防庁救急企画室長通知)を発出し、全国52消防本部(東京消防庁、指定都市消防本部及び代表消防機関)を調査対象本部として、都道府県消防防災主管部(局)及び消防庁への救急搬送困難事案の報告を依頼した。これによって、消防庁において救急搬送困難事案の全国的な状況を把握するとともに、調査結果を分析することにより、必要となる対策について検討を行うこととした。同時に、都道府県消防防災主管部(局)に対しては、各都道府県管内の調査対象消防本部から受ける報告を踏まえ、都道府県衛生主管部(局)等の関係機関と情報共有し、地域において必要な対応策の検討等に活用するよう依頼した。
また、こうした救急搬送困難事案に対処していくためには、医療機関の体制整備が不可欠であることから、厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症を疑う患者等に関する救急医療の実施について」(令和2年5月13日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)が発出され、①新型コロナウイルス感染症を疑う救急患者をまず受け入れる医療機関の設定や、②新型コロナウイルス感染症を疑う救急患者の受入れ先の調整方法の検討について、都道府県衛生主管部(局)等に対して、実効性のある取組が要請された。
あわせて、消防庁からも、「新型コロナウイルス感染症を疑う救急患者等への対応等について(依頼)」(令和2年5月13日付け消防庁救急企画室事務連絡)を発出し、各都道府県消防防災主管部(局)と各都道府県調整本部及び各消防機関の連携体制を構築し、地域における搬送体制の確保を図るよう依頼した。
さらに、厚生労働省より「今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備について」(令和2年6月19日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)が発出され、都道府県衛生主管部(局)等に対して、新型コロナウイルス感染症患者の受入れ協力医療機関や、搬送先の調整ルールを設定するよう示された。これを踏まえ、消防庁においても、「今後を見据えた新型コロナウイルス感染症の医療提供体制整備への対応について(依頼)」(令和2年6月19日付け消防庁救急企画室事務連絡。以下、本特集において「6月19日事務連絡」という。)を発出し、各都道府県消防防災主管部(局)及び各消防機関に対して、協力医療機関や搬送先の調整ルールに関する情報共有等を行い、緊密な連携を図るよう依頼した。同時に、この事務連絡には、都道府県消防防災主管部(局)及び消防機関の今後の取組の参考となるよう、消防庁が過去の通知等で新型コロナウイルス感染症対策として示した内容を整理した取組状況チェックリストを添付している。
また、「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備について」(令和2年9月4日付け厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡)において、インフルエンザ流行に備えた体制整備に取り組むよう、厚生労働省から都道府県衛生主管部(局)等に対して依頼があったことから、消防庁は「次のインフルエンザ流行に備えた体制整備への対応について(依頼)」(令和2年10月23日付け消防庁救急企画室事務連絡)を発出した。この事務連絡では、都道府県消防防災主管部(局)に対して、引き続き、新型コロナウイルス感染症対策を協議する協議会に参画するとともに、地域における医療機関間の役割分担が図られること等について的確に把握した上で、救急搬送困難事案等の課題に関する管内消防機関からの報告内容も踏まえつつ、これまでの搬送・調整ルールが適宜有効なものに変更されるよう、協議の場を通じ、地域における救急医療体制の構築等について関係者との間で適切な調整・連携を図ること等を依頼した。また、都道府県消防防災主管部(局)及び消防機関に対して、引き続き密な情報共有、連携体制の構築に努め、地域における搬送体制の確保を図るよう依頼した。さらに、6月19日事務連絡に添付した取組状況チェックリストを更新し、今後の取組の参考として示した。

イ 消防機関の業務継続等

(ア)消防本部の業務継続等
消防機関の任務は、国民の生命、身体及び財産を、火災から保護するとともに、災害を防除し、災害による被害を軽減することであり、新型コロナウイルス感染症発生時においても、安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することが求められる。消防機関は、特に救急業務を担うことから、業務の重要性と感染防止策の必要性を十分認識するとともに、救急搬送のみならず、消火をはじめとした必要な業務を継続できるようにする必要がある。
消防庁では、上述のとおり、基本的対処方針、総務省対処方針及び消防庁対処方針の決定に併せ、各消防機関に対し、消防職員の健康管理の徹底や、必要な業務を継続できる体制の確保を要請するとともに、「消防機関における新型インフルエンザ対策のための業務継続計画ガイドライン(改訂版)」を含む「消防機関における新型インフルエンザ対策検討会報告書」(平成22年2月)を対応の参考として送付した。
また、政府対策本部の内容等政府の対応状況や、各省庁から提供される職員の感染防止に資する情報を、累次にわたり事務連絡により各消防機関に対し周知した。
各消防機関においても、職員の感染防止のために様々な取組は行われていたが、職員の感染事例が断続的に発生していたため、消防庁では、職員の感染事例が発生した消防機関からのヒアリング結果を踏まえ、「新型コロナウイルス感染症の再度の感染拡大に備えた消防本部の業務継続等のための当面の留意事項について」(令和2年6月30日付け消防消第188号消防庁消防・救急課長通知。以下、本特集において「6月30日通知」という。)を発出し、消防本部において喫緊に取り組むべき当面の留意事項として、感染防止資器材の確保、消防本部内での感染防止対策の徹底、消防本部内での感染者の発生等により職員数が減少した場合への備え、テレワーク勤務や早出遅出勤務の推進について要請した。
このほか、新型コロナウイルス感染症対策に従事した国家公務員への防疫等作業手当の特例について、人事院規則が改正されたことを受け、「新型コロナウイルス感染症により生じた事態に対処するための防疫等作業手当の特例について(人事院規則9-129の一部改正)(情報提供)」(令和2年3月19日付け消防庁消防・救急課事務連絡)に続き、「新型コロナウイルス感染症により生じた事態に対処するための防疫等作業手当の特例の運用及び業務体制の確保について(情報提供)」(令和2年4月23日付け消防庁消防・救急課事務連絡)を発出し、人事院規則の改正内容を周知するとともに、適切な対応を依頼した。加えて、地方創生臨時交付金の活用事業例にその使途として、「感染症対応に従事した救急隊員等への防疫等作業手当等」が明記されたことを受け、6月30日通知において、その周知を含め、あらためて適切な対応を各消防機関に要請した。

(イ)消防団活動における感染症対策
新型コロナウイルス感染症を踏まえ、消防団員が感染症の感染防止に留意して活動できるよう、予防方法や感染防止策など感染症に関する基礎的な知識や、消防団員の新型コロナウイルス感染症拡大防止に向けた各市町村等の取組例などを消防庁ホームページに掲載するとともに、通知を発出し周知を図るなどの対応を行っている。

ウ 危険物保安・火災予防等の消防法令に関する措置

(ア)消毒用アルコールの増産等への対応
新型コロナウイルス感染症の発生に伴い、手指の消毒等のため、消防法に定める危険物第4類のアルコール類に該当する消毒用アルコールを使用する機会が増えた。このような状況を踏まえ、アルコールの取扱いについて、火災予防上の一般的な注意事項を広報啓発するため、「消毒用アルコールの安全な取扱い等について」(令和2年3月18日付け消防危第77号消防庁危険物保安室長通知)を発出するとともに、リーフレット(特集2-2図)により注意喚起を行った。また、消毒用アルコールの増産等が喫緊の課題であることを踏まえ、同通知において、消防法令の運用に当たっては、安全を確保しつつ迅速かつ弾力的な運用に配慮するよう周知を行った。
さらに、消防法令の弾力的運用が円滑に行われるよう、「アルコールの増産等に係る消防法令の弾力的な運用について(情報提供)」(令和2年4月23日付け消防庁危険物保安室事務連絡)において法令運用上の留意事項及び運用事例を周知した。その後、消防研究センターにおいて、アルコール(エタノール)の可燃性蒸気の火災危険性等に関する実験を行い、この結果を踏まえて同事務連絡の内容を拡充するとともに、アルコールから発生する可燃性蒸気の流れについては、可視化した動画をホームページで公開した(特集2-3図)。

特集2-2図 広報啓発用リーフレット

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特集2-2図 広報啓発用リーフレット

特集2-3図 エタノールを注入した際の可燃性蒸気の流れ(シャーレ・加温(40℃))

特集2-3図 エタノールを注入した際の可燃性蒸気の流れ(シャーレ・加温(40℃))

(イ)飛沫防止用のシートに係る火災予防上の留意事項
新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策の観点から、レジカウンター等に飛沫防止用のシート(以下、本特集において「シート」という。)を設置する例が増えた。このような状況の下、大阪府内の商業施設において、ライターを購入した顧客が、試しにライターを点火したところ、レジカウンターに設置されていたシートに着火する火災が発生した。当該火災を受け、「飛沫防止用のシートに係る火災予防上の留意事項について」(令和2年6月1日付け消防庁予防課事務連絡)を各都道府県等に対して発出し、シートに係る火災予防上の留意事項として、①火気使用設備・器具、白熱電球等の熱源となるものから距離をとること、②スプリンクラー設備の散水障害が生じない位置に設置するとともに、自動火災報知設備の感知に支障とならないように設置すること、③避難の支障とならないように設置すること、④必要に応じて難燃性又は不燃性のものの使用を検討することを周知した。
また、各業種の感染拡大予防ガイドラインに、シートの火災予防上の留意事項を記載することについて、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室及び関係府省庁に対し周知を依頼したほか、消防庁として、シートに係る火災の注意喚起と火災予防上の留意事項の一層の広報周知のため、リーフレットを作成し、消防庁ホームページ上で公開している(特集2-4図)(https://www.fdma.go.jp/mission/prevention/post-7.html)。

特集2-4図 広報啓発用リーフレット

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特集2-4図 広報啓発用リーフレット

(ウ)感染拡大防止に伴う消防法令の弾力的運用等
新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するため、基本的対処方針においては、人と人との距離を確保し、接触の機会を低減すること等の対策が掲げられた。このような対策が講じられることに伴い、消防法令に定める各種義務の履行等が難しい場合が見られた。
このため、消防法に基づく危険物取扱者講習又は消防設備士講習の未受講について、消防法令上の違反処理を行わないことを周知した*5(「消防法令上の各種免状の取扱いに係る運用について(通知)」(令和2年2月25日付け消防予第49号消防庁予防課長、消防危第43号消防庁危険物保安室長通知))。なお、これらの講習や危険物取扱者試験及び消防設備士試験については、緊急事態宣言が解除された後は、各都道府県において、各会場の換気や消毒の徹底、座席間の距離の確保等の感染症対策が徹底された上で実施されている。消防庁においても、安定した受講機会の確保を図るため、オンラインによる危険物取扱者講習の実施に向けた取組を進めている。
また、危険物施設の検査時期や点検方法、防火対象物の点検の時期等に関する消防法令の弾力的運用について、各都道府県等に対して通知を発出した(「新型コロナウイルスの拡大防止等に対応した危険物施設における検査等の運用について(通知)」(令和2年4月3日付け消防危第92号消防庁危険物保安室長通知)及び「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた消防法令の運用について」(令和2年4月13日付け消防予第101号消防庁予防課長通知))。
さらに、各都道府県等に対し「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた消防法令関係手続における押印の省略等について(通知)」(令和2年5月15日付け消防予第124号消防庁予防課長、消防危第129号消防庁危険物保安室長通知)等を発出し、消防法令の規定に基づく申請書等について、押印がされていない場合であっても受け付けることが可能であることを示すとともに、電子メール等により受け付けることで極力対面による手続を減らすよう周知した。また、令和2年12月には、消防法施行規則や危険物の規制に関する規則等を改正し、申請者等の押印について廃止を行った。こうした取組に加え、消防庁においては、申請・届出の多い火災予防分野の手続を中心に、マイナポータル・ぴったりサービスを利用したオンライン申請の導入に向けた取組を進めている。

エ 災害対応に係る感染症対策

(ア)災害時の避難所における新型コロナウイルス感染症対策及び避難所の確保
新型コロナウイルス感染症が広がっている状況下においては、災害が発生し避難所を開設する場合には、多数の避難者が集まり感染が拡大する懸念があり、対策に万全を期すことが重要である。
消防庁においては内閣府及び厚生労働省等と連携し、避難所における新型コロナウイルス感染症対策に関する通知及び事務連絡を発出した。まず、「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について」(令和2年4月1日付け消防災第62号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し、通常の災害発生時よりも可能な限り多くの避難所の開設を図ること、避難者に対して手洗い、咳エチケット等の基本的な感染対策を徹底すること、避難所において十分なスペースを確保すること等を要請した。さらに、当該通知の内容に加えて、「避難所における新型コロナウイルス感染症への更なる対応について」(令和2年4月7日付け消防庁国民保護・防災部防災課長等事務連絡)を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し、避難所が過密状態になることを防ぐため親戚や友人の家等への避難等を検討すること、保健福祉部局と十分に連携し自宅療養者等の避難や避難者の健康状態の確認への対応について事前に検討すること、定期的に避難所の物品等を清掃するなど避難所の衛生環境を確保すること、そして避難所において実際に発熱、咳等の症状が出た場合、新型コロナウイルス感染症の想定下では、同じ症状のある人々を同室にすることは望ましくないため、避難所における発熱、咳等の症状が出た者(以下、本特集において「発熱者等」という。)のための専用のスペースを確保すること等について要請した。
可能な限り多くの避難所を開設するためには、ホテル、旅館及び研修施設等の活用の検討も考えられることから、「新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備について」(令和2年4月28日付け消防庁国民保護・防災部防災課長等事務連絡)等を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し、各市町村における避難所のニーズを把握するとともに、必要な場合には、都道府県が宿泊団体等と連携してホテル・旅館等への依頼、確認を主導すること等を要請した。
避難所におけるスペースの確保等への対応に当たっては、発熱者等は専用のスペースやトイレを確保し、一般の避難者とはゾーン、動線を分けることが望ましいため、「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応の参考資料について」(令和2年5月21日付け消防災第87号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)及び「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応の参考資料」(第2版)について」(令和2年6月10日付け消防災第114号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し、新型コロナウイルス感染症対応時の避難所全体のレイアウト・動線、健康な者の滞在スペースのレイアウト、発熱者等や濃厚接触者をやむを得ずそれぞれ同室にする場合のレイアウトの例を示すとともに、総合受付にて一般の避難者、要配慮者、発熱者等及び濃厚接触者の滞在場所を振り分けることや発熱者等及び濃厚接触者の専用階段、専用トイレを確保することについて助言した。
これらの対応に当たって必要となる経費については、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金の活用が可能である旨、「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に要する経費について」(令和2年5月27日付け消防災第88号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し周知した。
また、避難所運営訓練は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために、避難所運営に際しての必要人員、役割分担、手順、課題等について確認するに当たって有効であるため、「新型コロナウイルス感染症対策に配慮した避難所開設・運営訓練ガイドラインについて」(令和2年6月8日付け消防災第108号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために避難所開設・運営訓練において確認すべき事項等をまとめたガイドラインを周知し、訓練を通して、防災担当主管部局と保健福祉部局等との連携に係る課題を確認するよう要請した。
さらに、避難所における新型コロナウイルス感染症への対応全般について、地方公共団体からの質問等を受け、「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A(第1版)について」(令和2年6月10日付け消防災第115号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)及び「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関するQ&A(第2版)について」(令和2年7月6日付け消防災第130号消防庁国民保護・防災部防災課長等通知)を発出し、各都道府県防災担当主管部(局)長に対し、自宅療養者等の避難の検討や、避難者の健康状態の確認、避難所の衛生環境の確保等に関する留意事項の取扱いについて、Q&Aとして示した。

(イ)自然災害発生時の救助活動等及び緊急消防援助隊活動時における感染防止
新型コロナウイルス感染症の流行状況等を踏まえて、救急隊以外の消防活動においても、要救助者と接触する場合には標準感染予防策を講じるなど、消防隊員の感染防止に努めることは重要である。
全国的に感染拡大が続く中、出水期を迎え河川の氾濫及び土砂災害による大規模自然災害等の発生が懸念されたことから、「自然災害発生時の救助活動等における感染防止について」(令和2年5月1日付け消防参第88号消防庁国民保護・防災部参事官通知)を発出し、各都道府県消防防災主管部(局)長及び全国の消防本部に対して、救助活動等における感染防止の徹底について周知した。
また、大規模災害が発生した場合、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策を徹底した上で、都道府県を越えた消防の広域応援を行う緊急消防援助隊が出動することが大切である。消防庁では、「緊急消防援助隊における新型コロナウイルス感染症に係る留意事項について」(令和2年5月1日付け消防広第118号消防庁広域応援室長通知)を発出し、都道府県消防防災主管部長及び全国の消防本部に対して、傷病者と接触する際における感染予防対策、現地での体調確認・検温による体調不良者の早期把握、会議、食事、仮眠等での三密の回避等を徹底することを周知した。
さらに、「緊急消防援助隊事故等報告要領について」(令和2年6月8日付け消防広第150号消防庁広域応援室長通知)を発出し、緊急消防援助隊として出動又は活動した際に新型コロナウイルス感染症への感染等が発生した場合の報告要領を周知したほか、「緊急消防援助隊における新型コロナウイルス感染症に係る留意事項の補足及び今後の出水期における対応について」(令和2年6月15日付け消防庁広域応援室事務連絡)を発出し、応援都道府県内での新型コロナウイルス感染症の感染状況等によっては、一都道府県において編成できる応援隊の規模が通常よりも小さくなるため、より広範囲の都道府県に対し出動準備依頼等を行う可能性があること、感染予防に必要なマスク・消毒エタノール等については余裕を持って準備しておくこと、緊急消防援助隊の宿営場所の調整に当たっては、避難者との接触を避けるため、可能な限り避難場所と同じ場所には設定しないこと等について周知した。

オ 住民等への情報発信

(ア)住民への適時・適切な情報発信の要請
政府の基本的対処方針において、地方公共団体は政府との緊密な情報連携により、様々な手段により住民に対して地域の感染状況に応じたメッセージや注意喚起を行うこととされたことを受け、総務省対処方針や消防庁対処方針において、防災行政無線の戸別受信機をはじめとする様々な情報伝達手段を整備・活用し、スマートフォンを所持していない高齢者等も含めた全ての住民に対して新型コロナウイルス感染症に関するメッセージやアラートを適時・適切に発出するよう地方公共団体に要請を行うこととされた。これを踏まえ、「新型コロナウイルス感染症対策に関する住民への独自の情報発信について」(令和2年3月31日付け消防情第107号消防庁国民保護・防災部防災情報室長通知)を発出し、記者会見やSNS等を活用して情報提供を適時・適切に行うとともに、防災行政無線の戸別受信機をはじめとする様々な情報伝達手段を活用するよう周知を行った。
新型コロナウイルス感染症対策の情報提供に対する高齢者の受け止めについては、総務省行政評価局が70歳以上の行政相談委員に周辺の現状や意見などを聞き取った結果を取りまとめ、令和2年6月11日に公表された「総務省行政評価局レポート(新型コロナウイルス感染症対策の情報提供と高齢者-行政相談委員からの聞き取り-)」によると、マスコミ以外の情報の入手手段については、各戸配布の広報誌やチラシ、防災行政無線、自治体ホームページ、回覧板が上位を占めている。

(イ)防災行政無線等の戸別受信機等の配備促進
市町村防災行政無線(同報系)の戸別受信機やFM放送、280MHz帯電気通信業務用ページャー等を活用した同報系システムの屋内受信機(防災情報を受信して自動起動するもの)は、外出自粛要請など新型コロナウイルス感染症に関する行政からの情報を高齢者等の住民に直接伝えることができるため、非常に有用である。消防庁では、新型コロナウイルス感染症対策の取組の一環として、令和2年度第1次補正予算において、戸別受信機等の配備が進んでいない市町村に対して、無償貸付により配備を支援している。比較的安価で短期間に配備可能な戸別受信機等(市町村防災行政無線(同報系:QPSK方式)の戸別受信機や、FM放送、280MHz帯電気通信業務用ページャー等を活用した同報系システムの屋内受信機)を対象とし、無償貸付を受ける市町村には無償貸付の2倍程度の単独事業による配備を求め、消防庁からの無償貸付と合計して、計画上では、42市町村、約24万台が配備されることとなる。

*4 一例として、救急隊員が新型コロナウイルス感染症患者等(疑われる場合を含む。)の移送・搬送業務に従事したが、当該患者等の濃厚接触者とは認定されず、保健所等の指示を受けたPCR検査には至らないものの、なお、消防本部としてPCR検査の実施が必要と考える新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる救急隊員について、協力いただける一般社団法人国立大学病院長会議及び一般社団法人日本私立医科大学協会会員の大学病院に検査実施の依頼・相談ができる取組を行っている。
*5 このほか、消防関係免状等の取扱いに係る運用に関しては、各消防本部が、患者等搬送乗務員適任証(車椅子専用含む。)に係る定期講習並びに応急手当指導員及び応急手当普及員に係る再講習の開催を延期等した場合に、これらの認定等に係る有効期間等を一定期間延長するなど適切に取り扱うよう要請した(「患者等搬送乗務員適任証及び患者等搬送乗務員適任証(車椅子専用)の有効期間並びに応急手当指導員及び応急手当普及員の有効期限の取扱いについて」(令和2年2月27日付け消防救第50号消防庁救急企画室長通知))。

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