令和2年版 消防白書

特集2 新型コロナウイルス感染症対策

1.新型コロナウイルス感染症患者の発生と政府等の対応

(1)新型コロナウイルス感染症患者の発生と感染拡大の状況

令和2年1月6日、厚生労働省は、中華人民共和国湖北省武漢市(以下、本特集において「武漢市」という。)において、前年12月以降、原因となる病原体が特定されていない肺炎の発生が複数報告されていることを発表した。令和2年1月16日、厚生労働省は、14日に神奈川県内の医療機関から管轄の保健所に対して武漢市の滞在歴がある肺炎患者が報告されたこと及び15日に当該患者について新型コロナウイルス*1陽性の結果が得られたことを発表した。
国内における新型コロナウイルス感染症患者の累計発生数は、同月15日に最初の感染者が確認された後、2月22日に100人、3月21日に1,000人、4月18日には1万人を超え、14万9,913人(令和2年12月1日現在、厚生労働省調べ)に達した。
なお、本感染症による累計死亡者数は2,171人、重症者数は488人(令和2年12月1日現在、厚生労働省調べ)となった。

(2)政府の動き

政府は、令和2年1月15日に国内で初めて新型コロナウイルス陽性患者が確認されたことを受け、広く情報収集等を行うため、官邸内に情報連絡室を設置した。その後、武漢市からのチャーター便による邦人等の帰国*2を含め、政府としての初動措置の総合調整を集中的に行う必要が生じたことから、26日に官邸対策室に改組した。30日には、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大している状況に鑑み、政府としての対策を総合的かつ強力に推進するため、内閣総理大臣を本部長とする「新型コロナウイルス感染症対策本部」(以下、本特集において「政府対策本部」という。)の設置が閣議決定された。
国内及び海外における新型コロナウイルス感染症の発生の状況の変化等に鑑み、2月1日、新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令が施行され、新型コロナウイルス感染症は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、本特集において「感染症法」という。)第6条第8項の指定感染症として定められた。
また、同月3日に横浜港沖に到着したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号において、新型コロナウイルス陽性の乗客・乗員の存在が判明した。11日付けでダイヤモンド・プリンセス号現地対策本部が設置され、検疫の基本方針の検討や、医療・医薬品ニーズへの対応、船内の感染拡大対策等*3が実施された。
その後、新型コロナウイルス感染症について、水際での対策が講じられていたが、国内の複数地域で、感染経路が明らかではない患者が散発的に発生し、一部地域において小規模患者クラスター(集団)が把握される状態となった。こうした中、同月25日、政府は「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を決定し、重要事項として、国民・企業・地域等に対する情報提供、国内での感染状況の把握、感染拡大防止策、医療提供体制及び水際対策等について、今後の方針を示した。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行を早期に終息させるために、徹底した対策を講じていく必要があるため、国民生活や経済、社会に重大な影響を与えるリスクに対し総合的な対策を講じられるよう、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律が3月13日に可決・成立、14日より施行され、新型コロナウイルス感染症は新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、本特集において「特措法」という。)の対象に追加された。
同月26日には、更なる感染拡大の状況に鑑み、政府としての対策を総合的かつ強力に推進するため、特措法第15条第1項の規定に基づき、内閣総理大臣を本部長とする政府対策本部が設置された。また、28日に開催された政府対策本部において、国民の生命を守るため、新型コロナウイルス感染症対策を実施するに当たって準拠すべき統一的指針を示すものとして、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(以下、本特集において「基本的対処方針」という。)が決定された。
基本的対処方針では、累次の改正及び変更(令和2年4月7日改正。令和2年4月11日、4月16日、5月4日、5月14日、5月21日、5月25日変更。)を経て、①密閉空間(換気の悪い密閉空間である)、②密集場所(多くの人が密集している)、③密接場面(互いに手を伸ばしたら届く距離での会話や発声が行われる)という3つの条件(「三つの密」)を回避すること等の「新しい生活様式」を社会経済全体に定着させていく必要があることなどを示している。
4月7日、政府は、新型コロナウイルス感染症の全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生したと判断し、特措法第32条第1項の規定に基づき、新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態が発生した旨を宣言した。緊急事態宣言においては、緊急事態措置を実施すべき期間を、4月7日から5月6日までとし、緊急事態措置を実施すべき区域を、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県とした。その後、緊急事態措置を実施する区域の変更及び期間延長を経て(特集2-1表)、5月25日、政府は緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認めたため、特措法第32条第5項の規定に基づき、緊急事態が終了した旨を宣言した。
政府は、新型コロナウイルス感染症のまん延防止の観点から、不要不急の帰省や旅行など、都道府県をまたいだ人の移動は極力避けるよう求めていたが、6月19日には、新たな感染は一部の自治体にとどまっているとして、都道府県をまたぐ移動について制限をなくすこととした。また、一定の人数や収容率の下で、コンサート等のイベントを開催できることとした。さらに、接待を伴う飲食業等、政府が休業を要請していた一定の業種についても、業種ごとの感染拡大予防ガイドラインを守ることを前提に休業要請を撤廃した。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、観光需要の低迷や、外出の自粛等の影響により、地域の多様な産業に対し甚大な被害を与えた。このため、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた地域における需要喚起と地域の再活性化を目標として、甚大な影響を受けている観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテイメント業などを対象に、新型コロナウイルス感染症の流行収束後の一定期間に限定し、官民一体型の消費喚起キャンペーンである「Go Toキャンペーン」を7月22日に開始した。
8月28日には、政府対策本部において、感染拡大防止と社会経済活動の両立にしっかりと道筋をつけるとして、検査体制の拡充、医療提供体制の確保、ワクチンの提供数の確保等について、新たな取組方針を決定した。

特集2-1表 緊急事態宣言に関する政府の動き

特集2-1表 緊急事態宣言に関する政府の動き

※1 同日以降、「新型コロナウイルス感染症総務省対策本部」の開催等を踏まえ、「消防庁新型コロナウイルス感染症対策本部」を25回開催
※2 同日以降、「新型コロナウイルス感染症総務省対策本部」の開催等を踏まえ、「新型コロナウイルス感染症消防庁対策本部」を53回(令和2年12月1日現在)開催

(3)総務省の動き

令和2年1月30日、内閣総理大臣を本部長とする政府対策本部の設置が閣議決定されたことを受け、総務大臣を本部長とする「新型コロナウイルス感染症総務省対策本部」(以下、本特集において「総務省対策本部」という。)が設置された。
3月26日には、特措法に基づく政府対策本部の設置を受け、総務大臣を本部長とする総務省対策本部が設置された。
同月28日、政府対策本部が開催され、基本的対処方針が決定されたことを踏まえ、総務省においても総務省対策本部が開催され、「新型コロナウイルス感染症対策の総務省対処方針」(以下、本特集において「総務省対処方針」という。)等が決定された。総務省対処方針は、基本的対処方針の改正及び変更を受け、4月7日及び5月25日に改正された。
また、政府対策本部の開催等を踏まえ、総務省対策本部が45回(令和2年12月1日現在)開催された。

*1 新型コロナウイルス:コロナウイルスのひとつであり、コロナウイルスには、一般の風邪の原因となるウイルスや、「重症急性呼吸器症候群(SARS)」及び平成24年以降発生している「中東呼吸器症候群(MERS)」ウイルスが含まれる。一般的には飛沫感染、接触感染で感染し、閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされている。(参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)」)
*2 邦人等の帰国に際して、東京消防庁は、政府関係者を除く計828人のチャーター便搭乗者のうち、発熱などの症状を有する計34人を延べ26隊で羽田空港から医療機関へと救急車で搬送した。
*3 乗客・乗員の船外医療機関への搬送等に際して、横浜市消防局は、乗員・乗客3,711人のうち、緊急度・重症度が高い計71人を延べ68隊で横浜港から医療機関へと救急車で搬送した。

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