令和4年版 消防白書

特集1 近年の大規模自然災害を踏まえた消防防災体制の整備

1.近年発生した大規模自然災害の概要と消防庁の対応状況

(1)近年発生した大規模自然災害の概要

近年、我が国では大規模な自然災害が相次いで発生しており、特に平成28年熊本地震以降、災害対策基本法に基づく非常災害対策本部が設置された災害として、平成30年7月豪雨、令和元年台風第19号、令和2年7月豪雨、令和3年7月1日からの大雨による被害が発生している。このうち、直近で甚大な被害が発生した令和3年7月1日からの大雨においては、静岡県熱海市で土石流災害が発生し、住民等の死者・行方不明者は28人となった。この土石流災害の発生に伴い、消防庁においては消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部(第3次応急体制)を設置し、全庁を挙げて災害対応に当たったほか、消防庁長官の出動の指示等を受け、緊急消防援助隊は7月3日から7月26日までの24日間にわたり活動し、出動隊の総数は、10都県815隊、3,099人(延べ活動数2,097隊、7,961人)となった。
令和4年においては、10月末時点で、非常災害対策本部が設置された災害は発生していないが、消防庁においては、3月16日の福島県沖を震源とする地震、6月19日、20日の石川県能登地方を震源とする地震、7月24日の桜島の火山活動、台風第14号に関し、消防庁長官を長とする消防庁災害対策本部(第3次応急体制)を設置し、全庁を挙げて災害対応に当たった。このうち、台風第14号に係る政府の対応として、災害が発生するおそれのある段階において特定災害対策本部を設置した。この対応は、令和3年5月に災害対策基本法の一部改正により措置されて以降、初めての事例である。消防庁としても、全都道府県及び指定都市に対し警戒情報を発出するとともに、政府の特定災害対策本部の設置と同時に、消防庁災害対策本部を設置するなど、早期の対応を実施したところである。

(2)近年の災害を踏まえた消防庁の対応状況

ア 救助・捜索活動

令和3年に静岡県熱海市で発生した土石流災害や近年の大規模自然災害では、消防機関だけではなく、警察や自衛隊等の実動機関が連携して救助・捜索活動を行い、内閣府(防災担当)や国土交通省などの機関から地図情報の共有や安全管理等の支援を受けるなど、関係機関が連携した活動が行われている。

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静岡県熱海市土石流災害での自衛隊との連携活動(東京消防庁提供)
静岡県熱海市土石流災害での自衛隊との連携活動
(東京消防庁提供)

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静岡県熱海市土石流災害での活動調整会議の様子
静岡県熱海市土石流災害での活動調整会議の様子

そこで、消防庁では、警察や自衛隊等の関係機関とのより効果的な活動調整等について検討するため、消防機関関係者から近年の大規模災害対応の経験等を聴取及び記録を収集するとともに、実動省庁である警察庁、海上保安庁及び防衛省のほか、関係機関の活動を支援する内閣府(防災担当)、国土交通省、法務省の協力を得て、「関係機関連携実務者検討会」(以下、本特集において「検討会」という。)を令和3年12月22日及び令和4年3月2日に開催した。検討会では、活動調整会議における実動機関との活動調整内容を明確化するとともに、各機関の組織概要、保有資機材、災害時の活動内容等の情報を共有し、「大規模災害時の救助・捜索活動における関係機関連携要領」(以下、本特集において「関係機関連携要領」という。)を策定した。関係機関連携要領は主に次の(ア)~(ウ)で構成されている。

(ア)「活動調整会議」におけるTo Doリスト
活動調整会議において関係機関との連携調整等に必要な項目を「To Doリスト」として一覧表にまとめたものであり、別紙に実動部隊の責任者、安全管理方針の策定、関係機関の窓口などを確認する様式を整え、加えて「To Doリスト」の項目の解説や災害時の関係機関との活動調整事例等で構成されている。また、災害現場の最前線で活動する部隊が調整を行う現地合同調整所での調整事項もまとめている。実際の災害対応の活動調整会議や現場、訓練で関係機関と連携調整するに当たって活用することを想定している。

(イ)関係機関資料
実動省庁の組織概要、活動内容及び保有資機材などをまとめたものであり、消防と同様に救助・捜索活動の担い手である警察、海上保安庁、自衛隊のほか、救助・捜索活動等を補完する機関である法務省について紹介する資料、さらに救助・捜索活動の支援となる活動を行う内閣府(防災担当)のISUT*1、国土交通省のTEC-FORCE*2等の活動紹介資料で構成されている。平時から各関係機関の救助・捜索能力、組織等を把握するために活用することを想定している。

(ウ)奏功事例
救助・捜索活動現場において関係機関が連携した好事例や、関係機関同士の平素からの顔の見える関係づくりの好事例を収集し、取りまとめている。各消防本部が実際に経験した事例や平素から行っている取組を学ぶことを通じて、関係機関連携の意義や効果を確認するとともに、訓練等の企画に活用することを想定している。
そして、都道府県消防防災主管部長に対し、「「大規模災害時の救助・捜索活動における関係機関連携要領」の策定及び積極的な活用について」(令和4年6月3日付け通知)を発出し、消防本部等に関係機関と平素からの顔の見える関係づくり及び関係機関連携要領の積極的な活用を要請した。
関係機関連携要領の策定後も引き続き、関係機関の顔の見える関係づくりや情報共有を促進していくため、上記検討会を改組し、「実動省庁連携促進連絡会」として定期的に開催し、関係機関連携要領の更新や各機関の災害対応に関する情報共有を行っていく。

イ 資機材・車両の整備

近年の自然災害等による災害対応の教訓を踏まえ、大型及び中型水陸両用車、津波・大規模風水害対策車、拠点機能形成車等を整備し、災害対応力の強化を図ってきている。
令和4年度は、令和3年に発生した静岡県熱海市土石流災害の救助・捜索活動において、ドローン映像や狭隘・急傾斜の被災現場で小型オフロード車が有効に活用されたことから、空撮した写真から地図画像を作成できる情報収集活動用ハイスペックドローン47台と各種災害時の機動性・走破性・資機材搬送能力に優れた小型救助車18台を配備する予定である。

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情報収集活動用ハイスペックドローンのイメージ
情報収集活動用ハイスペックドローンのイメージ

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小型救助車
小型救助車

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高機能エアーテント
高機能エアーテント

また、猛暑・厳冬期における長期間の救助・捜索活動を行う緊急消防援助隊の隊員が休憩及び宿営のできる、高性能のエアコン等を完備した高機能エアーテント200式を配備する予定である。

ウ 被害状況の迅速な把握

静岡県熱海市の土石流災害では、発災当初は被害の全容を把握することが困難であったが、ドローンの撮影画像を利用した被災地図に、熱海市が把握している住民情報等を重ね合わせることにより、被災エリアや安否不明者等の人的被害の状況を早期に把握するとともに、迅速かつ的確な部隊配置及び救助活動につながった。
また、救助対象者の絞り込みを行う上で、静岡県災害対策本部が熱海市や警察とも調整し、安否不明となっている方々の名簿を公表したことが人命の救助活動の効率化・円滑化に役立ったことを踏まえ、地方公共団体が氏名等の公表を行うに当たっての留意事項について、内閣府(防災担当)と連携し、「災害時における安否不明者の氏名等の公表について」(令和3年9月16日付け通知)を都道府県防災主管部(局)長に対して発出した。さらに、令和4年6月の防災基本計画の修正において、都道府県は市町村等と連携して、平時から安否不明者の公表等を行う際の手続き等について整理し、明確にしておくよう努める旨明記された。

*1 ISUT:Information Support Team災害時情報集約支援チームは、大規模災害時に被災情報等のあらゆる災害情報を集約・地図化・提供して、自治体等の災害対応を支援する内閣府(防災担当)の現地派遣チーム
*2 TEC-FORCE:Technical Emergency Control FORCE 緊急災害対策派遣隊は、大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、被災地方公共団体が行う、被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施するため、国土交通省の各組織に設置された部隊