令和4年版 消防白書

2.「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」における消防庁の取組

(1)「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の概要

近年、気候変動の影響により気象災害は激甚化・頻発化し、南海トラフ地震などの大規模地震の発生も切迫している。また、老朽化するインフラの維持管理・更新に適切に対応しなければ、行政・社会経済システムが機能不全に陥る懸念がある。
このような危機に打ち勝ち、国民の生命・財産を守り、社会の重要な機能を維持するためには、防災・減災、国土強靱化の取組の加速化・深化を図る必要がある。
政府は、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」(平成30年12月14日閣議決定)において特に緊急に実施すべきとされた施策に係る取組に加え、令和2年12月11日、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(以下、本特集において「5か年加速化対策」という。)を閣議決定し、「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」「国土強靱化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」等の分野の取組について、更なる加速化・深化を図ることとし、令和7年度までの5か年に追加的に必要となる事業規模等を定め、重点的・集中的に対策を講ずることとした。
消防庁では、5か年加速化対策に8つの施策を位置付けており、以下、各々の施策の概要について説明する。

(2)5か年加速化対策における消防庁の施策

ア 大規模災害等緊急消防援助隊充実強化対策

近年の激甚化する土砂・風水害や切迫する南海トラフ地震など、大規模災害に備え、より迅速な消火・救助体制の整備、情報収集・共有機能の充実、後方支援体制の強化等により、より効果的・効率的な活動ができるよう、緊急消防援助隊の車両・資機材の適切な整備を行う。
本施策の目標としては、令和7年度までに、特別高度工作車12台、情報収集活動用ハイスペックドローン37台、映像伝送装置54台、さらに拠点機能形成車10台を整備するとともに、緊急消防援助隊動態情報システムの機能向上を行い、各都道府県や各ブロック単位での整備を進めていくこととしている。
令和3年度までに、情報収集活動用ハイスペックドローン37台の整備を行ったことにより、全都道府県に対しての整備が完了したほか、映像伝送装置31台、拠点機能形成車1台の整備を行った。
令和4年度においても、特別高度工作車6台の更新、拠点機能形成車5台の整備を行うとともに、緊急消防援助隊動態情報システムの機能向上を行う。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

情報収集活動用ハイスペックドローンの活用
情報収集活動用ハイスペックドローンの活用

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

拠点機能形成車
拠点機能形成車

イ NBC災害等緊急消防援助隊充実強化対策

NBC災害等への対応体制の充実強化を図るため、車両・資機材の老朽化を踏まえ、適切な整備を行う。
本施策の目標としては、令和7年度までに、全国に配備しているNBC災害即応部隊(54部隊)の資機材(化学剤検知器や大型除染システム等)を最新の知見に基づき整備することとしている。また、全国の緊急消防援助隊に配備している放射線防護資機材(放射線防護全面マスクや放射線量率計等)についても、新機種に更新することとしている。
令和3年度までに、化学剤検知器や大型除染システム等のNBC災害対応資機材セット6式等の配備を行った。
令和4年度においても、NBC災害対応資機材セット18式等の配備を行う予定であり、着実に配備を進めているところである。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

NBC災害対応資機材セット(一部)
NBC災害対応資機材セット(一部)

ウ 大規模災害等航空消防防災体制充実強化対策

大規模災害等発生時の被害状況の早期把握、救助・救急活動、被災地への迅速な消防庁職員派遣などのため、消防防災ヘリコプターの航空機・資機材の整備を行う。
本施策の目標としては、令和7年度までに、緊急消防援助隊の航空小隊(令和2年12月1日時点で74隊)を80隊程度まで整備し、航空消防防災体制の充実強化を図ることとしている。
令和3年度までに、新たな航空小隊が3隊配備され、緊急消防援助隊の航空小隊は77隊となった。
令和4年度以降においても、緊急消防援助隊の航空小隊の整備促進を図る。
また、あわせて消防防災ヘリコプターによる広域的な運航体制の更なる連携強化を図っていく。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

消防防災ヘリコプター
消防防災ヘリコプター

エ 地域防災力の中核を担う消防団に関する対策

近年、災害が激甚化・頻発化する中で、地域防災力の中核として、消防団の果たす役割がますます大きくなっていることを踏まえ、消防団の災害対応能力を向上させるため、救助用資機材等を搭載した多機能消防車を無償で市町村に貸し付け、消防団に配備する事業を実施しており、令和3年度に47台を整備し、令和4年度末までに追加で94台を整備する予定である。
また、救助用資機材等の整備を促進するための国庫補助事業を実施しており、令和4年度から新たに本補助金の対象資機材として、ドローンや水のう、高視認性活動服等を追加し、更なる災害対応能力の向上を支援している。
本施策の目標としては、特に風水害に対応した救助活動等を行える消防団の割合を令和7年度までに100%とすることとしている。

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

救助用資機材搭載型小型動力ポンプ積載車
救助用資機材搭載型小型動力ポンプ積載車

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

救助用資機材等のイメージ
救助用資機材等のイメージ

オ 自治体庁舎等における非常用通信手段の確保対策

消防庁は、令和4年8月3日からの大雨において、山形県飯豊町における固定電話回線が断絶したため、地域衛星通信ネットワークを利用して災害情報の把握を行った。
このように、災害発生時に地上通信網が途絶した際に、都道府県や市町村等が外部と連絡を取ることができるよう、都道府県・市町村等に対して衛星通信を用いた非常用通信手段の確保を働きかけるとともに、技術情報の提供を通じて整備を促進する。
本施策の目標としては、令和7年度までに、地域衛星通信ネットワークの第3世代システムをはじめとした衛星通信機器を全市町村・消防本部に導入することとしている(特集1-1図)。
令和3年度までに、39道府県が、地域衛星通信ネットワークに係る衛星通信機器の全市町村への導入に向けた具体的な取組に着手した。
令和4年度においても、令和3年度に続き、各都道府県に対し衛星通信システムの整備状況及び予定に関する調査を実施し、調査結果を踏まえ8都県へ働きかけを行う。

特集1-1図 衛星通信を用いた非常用通信手段のイメージ

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-1図 衛星通信を用いた非常用通信手段のイメージ

カ 住民等への情報伝達手段の多重化対策

防災行政無線等の整備や戸別受信機の導入促進、地上デジタル放送波を用いた情報伝達手段等の新技術の検討等により、市町村における情報伝達手段の多重化を推進するため、アドバイザー派遣や技術的知見の整理、各種会議での周知等を実施する。
本施策の目標としては、令和7年度までに、全ての市町村において防災行政無線等の災害情報伝達手段を整備することとしている。
令和4年度においては、防災行政無線等の性能や留意点等について、「災害情報伝達手段の整備等に関する手引き」として取りまとめるとともに、地方公共団体職員に対して技術的提案や助言を行うアドバイザー派遣事業を実施するなど、引き続き整備を推進する。

キ 消防指令システムの高度化等に係る対策

各消防本部等で整備されている消防指令システムについて、近年の情報通信技術(ICT)環境の変化や、令和6年度から令和8年度にかけて更新のピークを迎えることを踏まえ、通報手段の多様化や外部システム及びサービスとの円滑な連携の実現等、高度化に向けて検討し、同システムの標準化を図る。
本施策の目標としては、各消防本部における外部システムと連携するためのデータの出入口(標準インターフェイス)の導入を推進するため、令和5年度中に実証実験を行い、その結果を踏まえて、同年度末までに、消防庁において標準仕様書を作成することとしている(特集1-2図)。
標準インターフェイスの仕様の検討に向けて、令和3年度までに消防指令システムの基本的な機能について定義し、消防のシステムの構成を通信系、指令系、支援系、業務系に分類するとともに、指令業務の標準的なフローを策定した。
令和4年度から令和5年度にかけては、モバイル網に関する標準インターフェイス及び外部システム等との接続標準インターフェイスも含めた仕様の検討を精緻なものとするため、実証実験を実施する。

特集1-2図 消防指令システムの将来像

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-2図 消防指令システムの将来像

ク 被害状況等の把握及び共有のための対策

発災時に迅速・的確な災害応急対策を講じるため、死者数等の人的被害、全壊棟数等の住家被害及び避難指示の発令状況等(12項目の被害情報)を地方公共団体等と効率的に共有するためのシステムを整備する。
本施策の目標として、令和5年度までに全都道府県について、12項目の被害情報全てを自動収集できる体制を構築することとしている。また、今後、内閣府(防災担当)が整備する予定の「次期総合防災情報システム」と接続する予定である(特集1-3図)。
令和3年度は、消防庁被害情報収集・共有システム等の仕様書を作成するとともに、地方公共団体と実証実験を実施した。
令和4年度においては、令和5年度の稼働に向けて、本システムの構築及び関連システムの改修を実施しているところである。

特集1-3図 消防庁被害情報収集・共有システムのイメージ図

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

特集1-3図 消防庁被害情報収集・共有システムのイメージ図