平成20年版 消防白書

[危険物行政の現況]

1 危険物規制

(1)危険物規制の体系

危険物に関する規制は、昭和34年の消防法の改正及び危険物の規制に関する政令の制定により、全国統一的に実施することとされた。それ以来、危険物施設の位置、構造及び設備に関する技術基準並びに危険物の貯蔵、取扱い等の技術基準の整備を内容とする関係法令の改正等を逐次行い、安全確保の徹底を図ってきた。
消防法では、火災危険性が高い物品を危険物として指定し、火災予防上の観点からその貯蔵・取扱い及び運搬についての規制を行っている。これら危険物の判定には、性状確認試験を導入している。

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指定数量以上の危険物は、危険物施設以外の場所で貯蔵し、又は取り扱ってはならない。危険物施設を設置しようとする者は、その位置、構造及び設備を法令で定める技術上の基準に適合させ、市町村長等の許可を受けなければならない。
危険物の運搬については、その量の多寡を問わず、法令で定める技術上の基準に従って行わなければならない。
また、指定数量未満の危険物の貯蔵又は取扱い及びその場所の位置、構造及び設備の技術上の基準(消防用設備等の技術上の基準を除く。)については、市町村条例で定めることとされている。

(2)危険物規制の最近の動向

危険物等の規制に関しては、科学技術の進歩、社会経済の変化等を踏まえ、必要な見直しを行ってきた。
例えば、平成10年4月1日からは、ドライバー自らが給油作業を行うセルフサービス方式の給油取扱所(セルフスタンド)の設置を可能とした一方で、火災等の事故が相次いだため、平成19年10月から、人体に蓄積された静電気を除去するための給油ノズルの導電性確保と油が吹きこぼれた場合の飛散防止措置をセルフスタンドに義務付けるなど、随時、所要の安全対策を講じているところである(囲み記事「ガソリンの危険性について」参照)。
平成12年4月1日からは、機関委任事務制度の廃止に伴い、危険物施設の設置許可等の事務は、自治事務となった。
平成13年7月には、消防法が改正され、ヒドロキシルアミン及びヒドロキシルアミン塩類が消防法別表第一の第5類(自己反応性物質)の品名に追加されるとともに、引火性液体のうち第4石油類及び動植物油類の物品の引火点の範囲が250度C未満とされた。
平成16年6月には、指定可燃物等を貯蔵し、又は取り扱う場所の位置、構造及び設備の技術上の基準(消防用設備等の技術上の基準を除く。)を市町村条例で定めることとするよう、消防法が改正されるとともに、再生資源燃料(RDF(ごみ固形燃料)、RPF(廃プラスチック固形燃料)等)が指定可燃物に追加された。
また、平成15年9月の十勝沖地震に伴い発生した浮き屋根式屋外タンク貯蔵所の全面火災を踏まえ、平成16年7月に大規模屋外貯蔵タンクの耐震改修期限の前倒しを行い、平成17年1月には、浮き屋根の構造基準の強化を図った。
さらに、危険物施設における火災・流出事故件数の増加を受けて、危険物の流出等の事故の原因を究明し、データの蓄積・分析により的確な事故の再発防止策の企画・立案につなげられるよう、平成20年5月に消防法が改正され、同年8月に施行された。本改正により、市町村長等による危険物流出等の事故の原因調査制度が整備されるとともに、市町村長等から求めがある場合には消防庁長官が調査を実施できることとなった。

ガソリンの危険性について

ガソリンは気温がマイナス40度Cでも気化し、小さな火源でも爆発的に燃焼する物質です。
また、ガソリンの蒸気は、空気より重いため、穴やくぼみなどに溜まりやすく、離れたところにある思わぬ火源(ライター等の裸火、静電気、衝撃の火花等)によって引火する危険性がありますので、取扱いには十分な注意が必要です。

○ ガソリンを入れる容器

ガソリンを入れる容器は、消防法令により、一定の強度を有しなければならないとされており、材質により容量が制限されています。特に、灯油用ポリ容器(容量20l)にガソリンを入れることは非常に危険なため、禁止されています。

○ ガソリンの保管場所

消防法令に適合した容器で保管する場合でも、合計40l以上のガソリンを保管する場合は、消防法令により、次のとおり建物の大幅な改修や手続が必要となります。
・40l以上200l未満のガソリンを保管する場合は、市町村の火災予防条例に基づき、保管場所の壁、柱、床及び天井が不燃材料であることなど、構造等の要件が条例の基準に適合している旨の書類を添えて、あらかじめ消防機関に届け出ることが必要です。
・200l以上のガソリンを保管する場合は、消防法に基づき、壁、柱及び床を耐火構造とするなど、一定の構造等の基準に適合させた上で、市町村長等の許可を得ることが必要です。

☆ ガソリンの取扱いに対する注意喚起について

平成20年3月末に揮発油税の暫定税率の適用期限が到来し、一時的に価格が下落していたガソリンについて、適用期限延長後の再値上げの前に、ポリタンク容器への買いだめや車庫等への備蓄が行われることが懸念されました。消防庁では、業界団体や地域団体などと連携し、ガソリンの取扱いの危険性に関するポスターの作成・配布等の啓発活動を実施するとともに、消防研究センターにおいてガソリンの火災危険性について次のような実験を行い、公開しました。

(1)ガソリンの可燃性蒸気への着火の危険性:ポリタンク容器からガソリンの可燃性蒸気が漏れ、床面に滞留して引火した後に、着衣に着火する状況を模した実験
(2)給油時の危険性:ポリタンク容器から注油ホースでガソリンを出す作業中、傾けた容器に引火し、火災が拡大する状況を模した実験
(3)灯油ストーブへの誤注油の危険性:カートリッジ式石油ストーブに入れたガソリンの蒸気が外部に浸みだし、急激に炎上する状況を再現

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(3)危険物施設

平成20年3月31日現在の危険物施設の総数(設置許可施設数)は48万6,812施設(対前年度比9,977施設、2.0%の減)となっている。
施設区分別にみると、地下タンク貯蔵所が全体の22.2%と最も多く、次いで移動タンク貯蔵所、給油取扱所等となっている(第1-2-1表、第1-2-11図)。

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なお、これらのうち、石油製品を中心とする第4類の危険物を貯蔵し、又は取り扱う危険物施設は全体の98.0%を占めている。
危険物施設数の推移をみると、施設区分を問わず、近年、減少傾向にある。

平成20年3月31日現在における危険物施設総数に占める規模別(貯蔵最大数量又は取扱最大数量によるもの)の施設数は、指定数量の50倍以下の危険物施設が、全体の76.4%を占めている(第1-2-12図)。

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(4)危険物取扱者

危険物取扱者は、甲種、乙種及び丙種に区分されている。危険物施設での危険物の取扱いは、安全確保のため、危険物取扱者が自ら行うか、甲種又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければならない。
危険物取扱者制度は、制度発足以来の合格者総数が平成20年3月31日現在で764万8,019人と広く国民の間に定着しており、危険物に関する知識、技能の普及に大きな役割を果たしている。

危険物取扱者試験は、甲種、乙種及び丙種に区分され、都道府県知事が毎年1回以上実施することとされている。
平成19年度中の危険物取扱者試験は、全国で389回(対前年度比22回増)実施された。受験者数は48万4,512人(同8,119人増)、合格者数は20万9,703人(同5,345人増)で平均の合格率は43.3%(同0.4ポイント増)となっている(第1-2-13図)。

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この状況を試験の種類別にみると、受験者数では、乙種第4類が全体の64.5%、次いで丙種同10%となっており、この二種類の試験で全体の74.5%を占めている。合格者数でも、同様にこの二種類の試験で全体の65.8%を占めている。
なお、甲種危険物取扱者試験について、平成20年4月1日以降、一定の組み合わせ(第1類又は第6類、第2類又は第4類、第3類及び第5類)で4種類以上の乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者の受験が可能になるなど、受験資格が拡大されている。

危険物施設において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者は、原則として3年以内ごとに、都道府県知事が行う危険物の取扱作業の保安に関する講習を受けなければならないこととされている。
平成19年度中の保安講習は、全国で延べ1,266回(対前年度比13回増)実施され、16万9,657人(同3,091人増)が受講している(第1-2-2表)。

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(5)事業所における保安体制の整備

平成20年3月31日現在、危険物施設を所有する事業所総数は、全国で24万3,607事業所となっている。
事業所における保安体制の整備を図るため、一定の危険物施設の所有者等には、危険物保安監督者の選任、危険物施設保安員の選定、予防規程の作成が義務付けられている。また、同一事業所において一定の危険物施設を所有等し、かつ、一定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う者には、自衛消防組織の設置、危険物保安統括管理者の選任が義務付けられている(第1-2-14図)。

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(6)保安検査

一定の規模以上の屋外タンク貯蔵所及び移送取扱所の所有者等は、一定の時期ごとに市町村長等が行う危険物施設の保安に関する検査を受けることが、義務付けられている。
平成19年度中に実施された保安検査は305件(対前年度比6件減)であり、そのうち特定屋外タンク貯蔵所に関するものは297件(同6件減)、特定移送取扱所に関するものは8件(前年同件数)となっている。

(7)立入検査及び措置命令

市町村長等は、危険物の貯蔵又は取扱いに伴う火災防止のため必要があると認めるときは、危険物施設等に対して施設の位置、構造又は設備及び危険物の貯蔵又は取扱いが消防法で定められた基準に適合しているかについて立入検査を行うことができる。
平成19年度中の立入検査は22万4,805件(対前年度比8,458件減)の危険物施設について、延べ24万7,903回(同15,149回減)行われている。
立入検査を行った結果、消防法に違反していると認められる場合、市町村長等は、危険物施設等の所有者等に対して、貯蔵又は取扱いに係る基準の遵守命令、施設の位置、構造及び設備の基準に関する措置命令等を発することができる。
平成19年度中に市町村長等がこれらの措置命令等を発した件数は314件(前年同件数)となっている(第1-2-15図)。

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