平成20年版 消防白書

5 テロ対策

(1)消防庁における危機管理体制の整備

平成13年9月11日の米国同時多発テロ事件の発生及び米国等のアフガニスタンへの攻撃を踏まえ、消防庁では、平成13年10月8日に消防庁長官を本部長とする「消防庁緊急テロ対策本部」を設置した。また、イラク情勢等の緊迫化を踏まえ、平成15年3月18日、消防庁に「イラク情勢等を踏まえた消防庁テロ対策室」を設置するとともに、テロ災害への一層の対処の強化を図るため、平成17年4月1日からテロ対策専門官を設置するなど所要の体制整備を行った。加えて、緊急対処事態等を想定した訓練を繰り返し実施し、対応体制の充実を図っている。

(2)地方公共団体における危機管理体制の整備

総務省及び消防庁では、米国同時多発テロ事件以降、地方公共団体におけるテロ災害対策に万全を期することとし、特に、都道府県を中心とした適切な体制整備を緊急に図るため、都道府県におけるテロ対策本部の設置及び24時間対応可能な体制の構築、テロ対策に関する国と地方公共団体の連携、警察機関との一層の連携の強化など、所要の体制整備について要請を行い、全都道府県においてテロ対策本部等が設置された。

(3)関係機関との連携の強化

テロ災害発生時において適切な応急対応措置を講じるためには、消防機関、警察機関、自衛隊等の関係機関との連携の強化を図る必要があり、平成13年11月には、政府のNBCテロ対策会議幹事会において、NBCテロ対処現地関係機関連携モデルが取りまとめられた。消防庁では、都道府県等に対して、各地域の実情に応じた役割分担や活動内容等について、このモデルを参考に更に具体的に協議・調整し、NBCテロ対処体制整備の推進を図るよう要請した。
また、米国における炭疽菌事件などを踏まえ、平成15年3月に、炭疽菌、天然痘の災害発生に備えるための関係機関の役割分担と連携及び必要な処置を明確化した「生物テロへの対処について」が取りまとめられ、その旨を各都道府県内の関係部局、市町村及び消防機関に対して周知した。
各都道府県内では、比較的規模の大きな消防本部等を中心に、NBCテロ災害を想定した合同訓練を実施し、関係機関の連携の強化を図っている。

(4)テロ災害に対応するための装備の整備

消防庁では、米国における炭疽菌事件の発生などを踏まえ、BCテロ災害に対する消防本部の対処能力の強化を緊急に図る必要が生じたため、平成13年度第一次補正予算等により、陽圧式化学防護服、携帯型生物剤検知装置等の資機材を購入し、各都道府県の代表的な消防本部に対して無償貸与した。平成20年度には、携帯型化学剤検知器24器を整備し、特別高度救助隊等に各1器を再配置する。また、N災害への対応としては、平成16年度から平成18年度に、地域のバランスを考慮しつつ、全国の代表的な消防学校に対して、放射線防護服、放射線測定器等を無償貸与した。
さらに、国庫補助の対象として、平成14年度に陽圧式化学防護服、生物剤検知装置等のテロ対策用特殊救助資機材、平成16年度にNBC災害対応自動車を加えている。
また、大規模特殊災害やNBCテロ災害に対応するため、高度な救助技術に関する知識・技術、各種資格等を兼ね備えた救助隊員で構成される特別高度救助隊・高度救助隊を整備するとともに、平成19年度に大型除染システム車5台を整備し主要都市に配備するなど、NBCテロ災害に対する対処能力の強化を図っている。

(5)消防機関に対する危機管理教育訓練の充実強化

NBCテロに起因する災害に対処する際には、専門的な知識、技術が必要である。このため、消防庁では消防職団員を対象として、NBCテロ災害対応のための教材を作成し、全消防本部・全消防団等に配布した。
また、消防大学校においては、NBCテロ災害発生時における適切な消防活動を確保することを目的として、平成16年度からNBC災害講習会を新設した。さらに、平成18年度からは、特別高度救助隊等の養成講座として、緊急消防援助隊教育科(特別高度救助コース等)を新設した。
一方、都道府県の消防学校においても、平成16年度から特殊災害科が新設されている。

「国民保護における避難施設の機能に関する検討会」について

消防庁では、国民保護における避難施設の機能について、具体的かつ専門的に調査・検討することを目的として、平成19年10月より、「国民保護における避難施設の機能に関する検討会」を開催しました。
検討会では、国民保護事案に対応するために地方公共団体が指定している避難施設の現在の状況及び海外の事例を調査するとともに、NBC(核物質、生物剤、化学剤)等を用いた各種攻撃から国民の生命及び身体を保護するために避難施設が備えるべき機能等について検討を行い、〔1〕既に指定されている避難施設の機能強化と〔2〕新たな指定について、提言が示されました。

(1)避難施設に対する提言

本検討会における、各種攻撃発生時に必要となる避難施設の機能やその強化策等についての検討をもとに、地方公共団体におきましては、現行の避難施設の現状を再度確認するとともに、避難施設の指定及び機能強化を進めていくことが求められます。
下表に、機能ごとに地方公共団体において取り組みやすいと考えられる方策を整理しました。

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(2)避難施設の更なる指定

現行の避難施設について機能強化を図るだけでなく、地下施設や堅ろうな施設等、一時的な避難(退避)により適している屋内施設について、国民保護における避難施設として可能な限り多く指定することも必要です。
特に、地下街、地下駅舎といった地下施設等については、各種の攻撃に際して、被害軽減の観点から有効です。
また、商業ビル、地下街、地下駅舎等の民間施設については、営業時間外の対応が困難であることや避難(退避)者に開放できるスペースが限られている等の課題もあることから、まずは当該施設の現状を確認し、施設管理者の要望等を十分に聞いた上で、指定に向けた積極的な取組みを行う必要があります。

最近の国際的な危機管理事案と消防庁の対応について

我が国周辺では、平成18年に発生した北朝鮮の弾道ミサイル発射事案や核実験事案以降も、引き続き、各地で地域紛争やテロ等危機管理事案が頻発しています。
特に近年、テロに用いられる兵器が小型化して個人が携帯可能になっており、また、次々と未知の感染症が発生するなど、これらの脅威は、多様化、複雑化しているとともに、その顕在化を正確に予想することが困難になっています。そのため、怠りなくこれらの事案に対し、情報収集に努めるとともに、適切な対応をとる必要があります。
また、従来型の着上陸作戦等と異なり、テロの脅威は、世界のどの地域においても例外なく発生し得ることから、地方公共団体においても、これらの情勢に関する関心が高くなってきています。
そこで、消防庁は、これらの事案に対し、積極的に情報収集に努め、日常的に地方公共団体に情報提供を行うとともに、随時、必要な情報を提供するよう努めています。
次図は、最近の国際的な危機管理事案に対する消防庁の対応を示したものです。

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