平成20年版 消防白書

2 火災原因調査及び災害・事故等への対応

(1)主な火災原因調査及び災害・事故対応

消防研究センターは、消防防災の科学技術に関する専門的知見及び試験研究施設を活用し、「消防庁長官による火災原因調査」を実施することとされており、大規模あるいは特殊な火災を中心に、全国各地において火災原因調査を実施してきた。また、消防本部への技術支援として、火災原因解明のための鑑識・鑑定を共同で実施している。
平成19年4月以降の火災原因調査は第7-1表のとおりである。また、平成19年度中の鑑識は5件、鑑定は6件である。

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災害・事故への緊急対応としては、平成19年7月の新潟県中越沖地震発生の際に、原子力発電所の危険物施設の被害調査や発電所内の変圧器火災の火災調査において職員を派遣し調査を実施した。平成19年12月の茨城県神栖市の化学プラント爆発火災において専門家を派遣し、火災原因調査のための現地調査や検証のための実験を行い消防本部の支援を行った。その他、平成20年1月に韓国京畿道利川市で発生し死者40名を出した冷凍物流センターの地下冷凍倉庫火災のように我が国の消防防災の施策にかかわる大規模な災害・事故については、国内外を問わず専門家を派遣する等、被害調査と情報収集を行っている。

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(2)火災原因調査の高度化に関する研究

近年の火災・爆発事故は、例えばグループホームのような新しい使用形態の施設での火災やリサイクル社会において、ごみから燃料を製造する施設での火災などが発生するなど、複雑・多様化している。そのため、それらの原因の解明のために必要な調査用資機材の高度化や科学技術の高度利用が求められている。
このような状況に的確に対応し、効果的な火災原因の解明を行うためには、火災の発生メカニズム、火災拡大の経過、建築物の構造などを解明するための手がかりとなる残留ガスや材料の変形の状況、飛散物の状況などを、現場調査において早期に収集し、高度な分析を行うことが不可欠である。このため、火災原因調査に役立つ科学技術についての調査研究を行いつつ、サンプル採取技術、計測・分析技術など多岐にわたる技術の高度化を行うことが必要である。
この調査・研究では、現場調査に必要な調査用資機材の性能・機能を明らかにするサンプルの採取・分析方法、火災前の状態の再現と火災現象の再現の方法、原因の推定又は特定を行う手法等についての調査研究、火災原因調査に必要な現象究明のための研究を行う。

平成19年度の主な成果

溶融した樹脂が外部を覆っている残渣物に対し、内部部品を破壊することなく外部樹脂を除去する技術について超音波カッターの使用を検討し、微細部分の除去が可能なことが分かった。
火災原因調査の鑑識にX線透過装置及びデジタルマイクロスコープを用いて、溶融した部品内部の金属部品の形状異常の発見及び接点表面の荒れ具合や溶融痕などを観察し、火災原因調査に有効であることが分かった。
火災原因調査に関連して8件の火災事案に対し、現場から収去した製品や物質の分析や実験を実施した。宝塚市カラオケボックス火災に関連し調理室のてんぷら油火災がどのように拡大するかの検証のために実大実験を実施し、延焼経路や延焼条件についての知見を得た。上越市化学工場爆発火災において現場で使用されていた着衣や粉体などの抵抗値等の測定を実施した。

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