平成23年版 消防白書

[消防防災科学技術の研究の課題]

科学技術の研究開発は戦略的に推進する必要があることから、消防防災科学技術の研究についても5年間程度の期間を見通した、新しい戦略プランを策定する必要がある。今般の東日本大震災では、早期に被害全体像に関する情報獲得、津波被災地など消防の移動及び活動困難地帯の出現など、解決を要する消防の科学技術課題が提起された。これらの提起された課題解決に取り組むとともに、震災被害の更なる科学技術的分析を行い、その分析結果を新戦略プランにも反映させることが不可欠である。
また平成23年は台風や集中豪雨による土砂災害など、地震以外の自然災害も多発した。さらに、原子力発電所事故を契機として代替エネルギー開発と普及が加速されるなどの大きな社会変化が起きている。これらの状況に対応して安全を確保する消防防災の科学技術の研究実施が強く求められている。このほか火災原因の調査、危険物流出事故の調査も火災事故の予防にとって重要な消防の業務であり、製品事故をはじめ、原因調査に高度な専門知識が必要とされる事例が増加しており、消防機関の原因調査を消防研究センターが支援する件数も急増している。
このような現状、課題を踏まえ、消防の科学技術の必要性の増大、対象とする災害範囲の拡大に対応するためには、消防機関の研究部門及び消防研究センターの強化と充実が必要であり、その連携をより一層緊密にするとともに、大学、研究機関、企業等との連携も更に推進していくことが必要である。
また、平成15年度に設置された、消防防災科学技術研究推進制度については、鋭意制度の改善がなされてきているところであるが、より一層の実用化に向けた制度として充実させる必要がある。
さらに、研究成果を地震・津波、火災等の災害現場における消防防災活動や防火安全対策等に利活用するためには、研究成果の公表、具体的な活用事例等に関する情報共有化のより一層の推進が必要であり、特に消防研究センターの情報発信機能について、より強化することが重要である。

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