平成23年版 消防白書

第8節 研究開発の推進

今般の東日本大震災では、次のような消防防災分野における科学技術上の重要課題が改めて浮き彫りとなった。すなわち、〔1〕極めて広域な地域が被災地となるような災害が発生した場合における早期かつ的確な被害推定及び被害情報収集並びに応急対応に関する意思決定支援のための情報技術の必要性、〔2〕津波浸水域で発生した大規模市街地火災の発生原因・延焼要因の究明と防火対策に関する知見の必要性、〔3〕水やがれきが滞留している津波浸水域における消防活動・救助活動を可能とする技術の必要性、〔4〕石油コンビナートにおける地震・津波対策、特に津波対策に関する知見の必要性、〔5〕震災後発生するがれきなど堆積物の火災予防対策に関する知見と消火技術の必要性、〔6〕原子力発電所の事故を受けて、今後なお一層利活用の推進が予想される再生可能エネルギーの防火安全対策に関する知見の必要性などである。
東日本大震災後に策定された「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月19日閣議決定)には、新たな基本方針として「震災からの復興、再生の実現」が盛り込まれた。また、総合科学技術会議が最も重要な政策ツールの一つとして位置づけている「平成24年度科学技術重要施策アクションプランの対象施策について-社会的課題の解決に向けた科学技術最重点施策-」(科学技術政策担当大臣・総合科学技術会議有識者議員、平成23年10月5日)でも、「震災からの復興・再生並びに災害からの安全性向上」が一つの柱として掲げられており、この柱には上記課題に対応するほとんどの関係施策が重要施策として盛り込まれている。このように、今般、東日本大震災が突きつけた消防防災の科学技術上の課題は、最優先で取り組むべきものとなっている。
これまで、消防庁においては「消防防災科学技術高度化戦略プラン」(平成19年2月策定)に基づき、消防防災科学技術の推進に努めてきたが、第4期科学技術基本計画との整合を図りつつ、東日本大震災で浮き彫りになったものなど山積する消防防災の科学技術上の課題を解決する研究・開発を戦略的かつ効率的に推進するため、同プランを改訂する準備を進めている。
また消防研究センターでは、平成23年度からの5年間の研究計画として、平成22年度までの研究到達点、最近発生した災害や将来発生が懸念される災害及び不断に継続すべき研究課題等を踏まえたものを作成していたが、研究計画の見直しを行い、前記〔1〕~〔6〕の課題に取り組んでいくこととしている。

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