平成24年版 消防白書

2.避難勧告等の発令・伝達

風水害による人的被害を軽減するためには、危険な状況になる前に安全な場所への避難が行われることが重要である。市町村長はあらかじめ定めた避難勧告等の発令基準に基づき迅速に避難勧告等を発令し、住民は避難勧告等の発令を迅速に把握し、又は、避難が必要であることを自らが察知し、災害発生前の迅速な避難が行われることが必要である。

(1) 避難勧告等の判断・伝達マニュアルの作成

平成17年3月、市町村において災害別に避難勧告等を発令する客観的な判断基準等を定めた避難勧告等の判断・伝達マニュアルを作成する際の参考となるよう、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(参照URL:http://www.bousai.go.jp/3oukyutaisaku/pdf/04_shiryou2.pdf)が策定された。
市町村においては、本ガイドラインを参考に、「避難準備(要援護者避難)情報」の地域防災計画への位置付け、避難勧告等に係る発令の具体的な判断基準等の作成が進められていたが、平成21年7月中国・九州北部豪雨、平成21年台風第9号による大雨においては、避難勧告等の発令について改めて課題となった。
このような状況を踏まえ、消防庁では、平成21年8月13日付けで関係府省庁(内閣府、消防庁、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省、気象庁の7府省庁)連名で通知を発出し、都道府県及び市町村に対して、避難勧告等の発令基準の作成、適正な運用等についての取組を要請した。
また、平成23年9月の台風第12号及び第15号による災害では、一部の市町村で避難勧告等の発令が夜間になった事例、比較的安全と思われる場所に避難していて被害にあった事例などが発生した。このことを踏まえ、同年10月及び平成24年度の出水期前(5月)に通知を発出し、以下のような取組を要請した。
〔1〕 避難勧告等に係る発令の判断基準等を未だに定めていない市町村にあっては、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」等を参考にして、避難勧告等に係る発令の判断基準等を主体的かつ速やかに作成すること。
〔2〕 既に発令の判断基準等を定めている市町村にあっては、発令の判断基準等がガイドラインに沿ったものであるかの点検を行い必要な見直しを行うこと。
〔3〕 土砂災害が発生するおそれのある地区に住む災害時要援護者等の避難について、避難が夜間になりそうな場合には日没前に避難が完了できるように体制の整備等に努めること。
〔4〕 避難勧告等の発令に当たり、あらかじめ定めた基準に基づき適正な運用を行うこと。
〔5〕 都道府県にあっては、市町村が〔1〕の作成及び〔2〕の再点検を実施するに当たって、説明会の開催や技術的助言等の支援を行うこと。また、市町村の的確な避難勧告等の発令のため、平常時から気象台と連携し、できるだけわかりやすく市町村に情報提供するとともに、市町村担当者の理解の向上を図ること。

(2) 放送事業者との連携体制の整備

避難勧告等を住民に伝達するためには、放送事業者との連携体制の整備が重要である。
このため、消防庁では、都道府県に対し、災害時における連絡方法、避難勧告等の連絡内容等について放送事業者とあらかじめ申し合わせるなど、放送事業者と連携した避難勧告等の伝達体制を確立するよう求めている。

(3) 情報伝達体制の整備

避難勧告等が迅速かつ的確に発令・伝達できるように、大雨、洪水等の警報や土砂災害警戒情報等気象に関する情報の的確な収集を行うため、各種の防災気象端末等の活用を図るとともに、他の防災機関等との連携を図り、休日・夜間を問わず、防災関係機関相互間及び住民との間の情報収集・伝達ができる体制の整備が必要である。
このため、消防庁では、防災情報提供システム(レーダー・降水ナウキャスト、土砂災害警戒判定メッシュ情報等)(気象庁)、川の防災情報(国土交通省)、土砂災害情報提供システム・河川・洪水情報システム(各都道府県)等の活用を図るとともに、市町村長が気象台長等との間で気象に関する情報を必要な時に確実に交換することができるなど、都道府県や気象台、河川管理者等と市町村との間での情報連絡体制を整備することを求めている。
また、全国瞬時警報システム(Jアラート)及び防災行政無線(同報系)の適切な運用、整備等を図るとともに、実際の災害時に有効に機能し得るよう、通信施設の整備点検及び訓練の実施を要請している。さらに、避難勧告等の情報が住民に確実に伝達されるよう、防災行政無線のほか、緊急速報メール等の活用や、消防機関、自主防災組織等を通じた伝達など、伝達手段の多重化・複合化を要請している。

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