平成24年版 消防白書

1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等

(1) 防災基本計画の修正と地域防災計画の見直し

前述の中央防災会議専門調査会報告を基に、平成23年12月に開催された中央防災会議において、地方公共団体において作成する地域防災計画等の基本となる「防災基本計画」が修正された。
従来、津波対策は震災対策の特記事項という位置付けとなっていたが、修正により、新たに「津波災害対策編」が設けられることとなった。新設された「津波災害対策編」の主な内容は、〔1〕あらゆる可能性を考慮した最大クラスの津波想定の実施、〔2〕二つのレベルの津波の想定とそれぞれの対策、〔3〕津波に強いまちづくり(避難場所・避難ビル等の計画的整備)、〔4〕津波警報等の伝達及び避難体制確保などとなっている。
また、消防庁では、地震・津波対策の充実強化を図る観点から、地方公共団体における地域防災計画の見直しを支援するため、有識者及び地方公共団体関係者からなる「地域防災計画における地震・津波対策の充実・強化に関する検討会」を開催し、防災基本計画の修正内容や第26次消防審議会での議論を踏まえ、平成23年12月に、地域防災計画を見直す際に参考となる留意点や参考事例などを報告書として取りまとめ、地方公共団体に周知した。
この報告書では、地域防災計画の見直しに当たっての留意点として、災害の初期対応について時間経過に即して作成することや、住民避難を柱とした応急対応に留意すること、災害対応力を失った場合の受援について必要な事項を定めるなど、実効性のある計画にするための工夫を提示するとともに、個別の留意点を、被害想定、避難対策、災害応急対策、災害予防に分類して整理したことに加え、85の参考事例を掲載している。
また、平成24年2月には、消防庁防災業務計画を修正するとともに、「防災基本計画の修正に伴う地域防災計画の見直しの推進について」(平成24年2月1日中防消第1号)を発出し、東日本大震災を踏まえた地震・津波対策等に関する地域防災計画の見直しを行うよう、地方公共団体に改めて要請した。
このほか、「災害対策基本法改正等に関する地方公共団体連絡会」の開催や、地方公共団体への各種説明会・意見交換会などを通じた、国と地方公共団体との情報共有などにより、地方公共団体の地域防災計画の見直し等に向けた取組を促進している。

(2) 災害対策基本法の改正

政府では、東日本大震災における政府の対応を検証し、大震災の教訓を総括するとともに、大規模災害に備えた防災対策の充実・強化を図ることを目的に、平成23年10月に中央防災会議の専門調査会として、「防災対策推進検討会議」を設置した。本検討会議は、内閣官房長官を座長とし、総務大臣も委員の一人となっている。本検討会議において、東日本大震災に関する他の中央防災会議の専門調査会や政府内に設けられた研究会等の検討結果の報告も踏まえ、平成24年3月7日、「東日本大震災の教訓を活かし、ゆるぎない日本の再構築」を目指した中間報告が取りまとめられた。
この中間報告を受け、同年3月29日に中央防災会議において「防災対策の充実・強化に向けた当面の取組方針」が決定され、政府としては、災害対策法制の見直しについて大規模災害時における対応の円滑化、迅速化等緊急性が高いものから法制化の検討を進め、関連法案の今通常国会への提出を目指すこととした。
これらを踏まえ、災害対策基本法の一部を改正する法律案は、第180回国会(常会)に提出され、参議院及び衆議院で可決、成立し、同年6月27日に公布された。
なお、主な改正内容は、以下のとおりである。

ア 大規模広域な災害に対する即応力の強化

(ア) 発災時における積極的な情報の収集・伝達・共有の強化
東日本大震災では、市町村の行政機能が著しく低下し、被災状況の報告、情報収集等が必ずしも十分ではなかった事例が見られた。このことを踏まえ、国・地方公共団体等の災害応急対策責任者が情報を共有し、連携して災害応急対策を実施すること、市町村が災害対策基本法第53条第1項に基づく被害状況の報告ができなくなった場合、都道府県が自ら情報収集等のための必要な措置を講ずべきこと等とした。
(イ) 地方公共団体間の応援業務等に係る都道府県・国による調整規定の拡充・新設と対象業務の拡大
東日本大震災では、地方公共団体間の応援に関して、一部を除き国が調整を行う法制度がなかったことから、総務省、全国知事会、全国市長会、全国町村会等が協力して臨時に構築したスキームに基づき、地方公共団体間の応援の調整等が行われた。
このような教訓及び課題を踏まえ、被災した地方公共団体への人的支援を強化するため、災害応急対策業務に係る地方公共団体間の応援について、都道府県による調整規定を拡充し、国による調整規定を新設した。
また、消防、水防、救助等の人命に関わるような緊急性の極めて高い応急措置に限定されている応援の対象業務を、避難所運営支援、巡回健康相談、施設の修繕のような災害応急対策一般に拡大し、このうち、災害対策基本法第68条第1項に基づく市町村から都道府県への応援の要求又は要請については、応急措置以外の災害応急対策についても応諾義務を課すこととした。
(ウ) 地方公共団体間の相互応援等を円滑化するための平素の備えの強化
災害が発生した際に他の主体との相互応援が円滑に行われるよう、国及び地方公共団体は、災害の発生を予防し、又は災害の拡大を防止するため、従前より規定されていた地方公共団体の相互応援に加えて、広域一時滞在に関する協定の締結に努めなければならないとした。さらに、防災上重要な施設の管理者も含めた災害予防責任者は、あらかじめ地域防災計画等において相互応援や広域での被災住民の受入れを想定する等の必要な措置を講ずるよう努めなければならないこととした。

イ 大規模広域な災害に対する被災者対応の改善

(ア) 救援物資等を被災地に確実に供給する仕組みの創設
災害時に必要となる物資等については、備蓄以外に災害対策基本法の規定がなかった。このことを踏まえ、備蓄物資等が不足し、災害応急対策を的確かつ迅速に実施することが困難であると認めるときは、市町村は都道府県に対し、都道府県は国に対し物資等の供給を要請等できることとした。
また、東日本大震災では、国が自ら支援物資の調達・運送を行ったことを踏まえ、緊急を要し、要請等を待ついとまがないと認められるときは、都道府県・国が要請等を待たず自らの判断で物資等を供給できること及び都道府県・国は運送事業者である指定公共機関等に対し、物資等の運送の要請や指示を行うことができることとした。
(イ) 市町村・都道府県の区域を越える被災住民の受入れ(広域避難)に関する調整規定の創設
東日本大震災では、市町村・都道府県の区域を越える被災住民の移動及びその受入れが必要になったが、そのような事態を想定した備えが十分ではなかったため、受入れ側の地方公共団体による被災住民の受入れ支援の実施までに時間を要した。また、必ずしも市町村単位での広域避難が計画的に実施されず、被災市町村が被災者の行先を十分把握できない面があった。
このような教訓及び課題を踏まえ、市町村・都道府県の区域を越える広域での被災住民の受入れが円滑に行われるよう、地方公共団体間の被災住民の受入れ手続、都道府県・国による調整手続に関する規定等を新設した。

ウ 教訓の伝承、防災教育の強化や多様な主体の参画による地域の防災力の向上

(ア) 教訓伝承の新設・防災教育強化等による防災意識の向上
いわゆる「釜石の奇跡」*1が示すように、災害に際しては、住民自らが主体的に判断し、行動できることが必要である。このことから、防災意識の向上を図るため、住民の責務として、災害教訓を伝承することを明記するとともに、災害予防責任者が防災教育を行うよう努めなければならないこととした。
(イ) 地域防災計画の作成等への多様な主体の参画
東日本大震災において、地域における具体的な避難方法やまちづくりの検討を実施するに当たり女性の視点が不十分であったとの指摘があったこと等を踏まえ、平成23年12月に修正された防災基本計画においては、「地域における生活者の多様な視点を反映した防災対策の実施により地域の防災力向上を図るため、防災に関する政策・方針決定過程及び防災の現場における女性の参画を拡大し、男女共同参画の視点を取り入れた防災体制を確立する」ことが盛り込まれた。
上記の点も含め、地域防災計画の策定等に当たり多様な主体の意見を反映できるよう、災害対策基本法の一部改正により、地方防災会議の委員として、現在充て職となっている防災機関の職員のほか、自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者を追加できることとした。

エ その他

(ア) 災害の定義の見直し
近年、竜巻による大きな被害が発生していることを受け、また、竜巻による災害の特殊性等にかんがみ、災害対策基本法の災害の定義において、異常な自然現象の例示として「竜巻」が追加された。
(イ) 国・地方公共団体の防災会議と災害対策本部の役割の見直し
防災会議は災害対策の総合的・計画的な推進を担う場であり、平時において防災計画を作成するほか、非常災害に際して緊急措置に関する計画を作成・実施することが所掌事務とされていたが、被災者の救助や支援をはじめとする災害応急対策は災害対策本部において実施されてきた。
しかしながら、機動性が求められる災害応急対策は災害対策本部に一元化することが効果的であることから、両者の役割分担を明確化することとし、災害応急対策のための方針の作成、本部長から関係機関への協力要求等を災害対策本部の規定に設ける一方で、地方防災会議については、平時における防災に関する諮問的機関としての機能を強化するため、地方公共団体の長の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること等を所掌事務に追加することとした。
(ウ) 災害対策基本法改正後の動き
災害対策基本法の一部改正等を踏まえ、平成24年9月6日に開催された中央防災会議において、防災基本計画が修正された。
消防庁では、これを受け、同年11月に消防庁防災業務計画を修正するとともに、「防災基本計画の修正に伴う地域防災計画の見直しの推進について」(平成24年11月1日中防消第41号)を発出し、地域防災計画の見直しを行うよう地方公共団体に改めて要請した。
なお、政府としては、東日本大震災から得られた教訓を今後に活かすため、東日本大震災に対してとられた措置の実施状況を引き続き検証し、防災上の配慮を要する者に係る個人情報の取扱いのあり方、災害からの復興の枠組み等を含め防災に関する制度のあり方について所要の法改正を含む全般的な検討を加え、その結果に基づいて、速やかに必要な措置を講ずるものとしている。

*1 岩手県釜石市において、地震が発生したら率先して逃げるという教育が徹底されていたため、小中学校の児童・生徒が迅速・適切な避難行動をとり、またその避難行動がきっかけとなって周囲の住民が避難し、被害を最小限に抑えた。

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