[消防防災科学技術の研究の課題]
東日本大震災では、多数の津波火災の発生と大規模市街地火災への進展、危険物施設の火災・流失、被害全体像に関する情報の獲得困難、通信の途絶による消防活動阻害、津波浸水域での消防活動困難など、解決を要する消防の科学技術課題が多数提起された。また、平成23年、24年に相次いだ台風や集中豪雨による甚大な被害の発生など、地震以外の災害も多発している一方、高齢化・人口減少に代表される社会構造の大きな変化や福島第一原子力発電所事故を契機としたエネルギー事情の変化等科学技術の側面から的確に対応すべき消防防災上の課題も多い。
消防庁では、こうした情勢を踏まえた新しい消防防災科学技術高度化戦略プランを平成24年10月に策定した。新たな課題が大きくかつ多岐にわたり顕在化してきている中、これらの課題に積極的に対応し、国民生活の安心・安全を確保していくための消防防災科学技術の研究開発を戦略的に、かつ効率的に推進するためには、消防防災分野の研究開発に携わる関係者の共通の認識・目標であるこのプランの趣旨に沿い、研究開発が進められる必要がある。
現在、首都直下地震、南海トラフの巨大地震等の発生が危惧されており、東日本大震災が提起した課題に関する研究成果達成の迅速化も求められており、情報通信技術など消防防災への適用が可能な他研究分野の研究成果の活用も重要である。
消防防災科学技術の研究開発の推進にあたっては、消防防災科学技術の必要性の増大、対象とする災害範囲の拡大を踏まえ、消防研究センターはいうまでもなく、消防機関の研究部門の充実強化が必要である。また、関係者の連携については、関係府省、消防機関等行政間の緊密な連携はもとより、大学、研究機関、企業等との連携も更に推進していくことが必要であり、そうした連携の推進を図るためにも、消防防災科学技術研究推進制度の、より一層の充実が必要である。
火災の原因調査や危険物流出等の事故原因調査も、火災や流出事故の予防にとって重要な消防の業務である。近年、製品に関連する火災をはじめ、原因調査に高度な専門知識が必要とされる事例が増加しており、製品の火災原因調査については、平成24年6月に消防機関の調査権限の強化を図る消防法が改正されたことを踏まえ、今後、科学技術を活用した原因調査技術の高度化を図っていくことが必要である。
研究成果を地震・津波、火災等の災害現場における消防防災活動や防火安全対策等に利活用するためには、研究成果の公表、具体的な活用事例等に関する情報共有化のより一層の推進が必要であり、特に消防研究センターの情報発信機能を、より強化することが重要である。