平成26年版 消防白書

[消防防災科学技術の研究の課題]

南海トラフ地震や首都直下地震等の大規模地震等の発生が懸念されており、東日本大震災において顕在化した災害情報の獲得困難、通信の途絶による消防活動阻害などの消防防災分野の科学技術上の課題に対し、迅速な研究成果の達成が求められている。また、近年相次いだ台風や集中豪雨による甚大な被害の発生など、地震以外の災害も多発していることに加え、高齢化・人口減少に代表される社会構造の大きな変化やエネルギー事情の変化等の課題に対し、科学技術の側面から的確に対応するため、情報通信技術など消防防災への適用が可能な他分野の研究成果を活用し、消防防災分野の研究開発を推進することが重要である。
消防庁では、こうした情勢を踏まえた新しい消防防災科学技術高度化戦略プランを平成24年10月に策定した。新たな課題が大きくかつ多岐にわたり顕在化してきている中、これらの課題に積極的に対応し、国民生活の安心・安全を確保していくための消防防災科学技術の研究開発を戦略的に、かつ効率的に推進するためには、消防防災分野の研究開発に携わる関係者の共通の認識・目標であるこのプランの趣旨に沿い、研究開発が進められる必要がある。
大規模地震発生時における石油コンビナート事故等のエネルギー・産業基盤災害に的確に対応するため、平成26年度にドラゴンハイパー・コマンドユニット(エネルギー・産業基盤災害即応部隊)が緊急消防援助隊に新設され、部隊の活動に資する高度な資機材等を研究開発・導入することとしている。
これに関連し、平成25年度に策定された「日本再興戦略」(平成26年6月改訂)及び「科学技術イノベーション総合戦略」(平成25年6月7日閣議決定、平成26年6月24日には、「科学技術イノベーション総合戦略2014」が閣議決定された。)においては、2018年度までに実用可能な消防ロボットを完成し、以降、順次導入・高度化を図るとともに、「世界最先端IT国家創造宣言」(平成25年度に策定され、平成26年6月に全部変更)においては、災害現場に近付けない大規模災害・特殊災害等に際して、ITを活用してリモートで操作できる災害対応ロボット等を2018年度までに導入し、順次高度化を図ることとされた。また、東日本大震災等を踏まえた災害対応力の強化を図るため、「世界最先端IT国家創造宣言」においては、地理空間情報(G空間情報)を活用した避難誘導や消火活動について、2016年度までに導入を検証し、2020年度までに導入を実現することとされ、「科学技術イノベーション総合戦略」においては、消防車両による水やガレキが滞留している領域の踏破技術・救助技術、無人ヘリ等による偵察技術・監視技術を実用化することとされるとともに、産業施設等の火災・事故予防対策として、石油タンクの地震・津波時の安全性向上及び堆積物火災の消火技術、多様化する火災に対する安全確保に関する研究について実用化することとされた。
これらの消防防災科学技術の研究開発について、着実に成果を達成するとともに、研究開発の成果について、技術基準等の整備や消防車両・資機材の改良等、消防防災の現場へ適時的確に反映していくことが、これまで以上に求められる。
消防防災科学技術の研究開発の推進に当たっては、消防防災科学技術の必要性の増大、対象とする災害範囲の拡大を踏まえ、消防研究センターは言うまでもなく、消防機関の研究部門の充実強化が必要である。また、関係者の連携については、関係府省、消防機関等行政間の緊密な連携はもとより、大学、研究機関、企業等との連携も更に推進していくことが必要であり、そうした連携の推進を図るためにも、消防防災科学技術研究推進制度の、より一層の充実が必要である。
火災の原因調査や危険物流出等の事故原因調査も、火災や流出事故の予防にとって重要な消防の業務である。近年、製品に関連する火災をはじめ、原因調査に高度な専門知識が必要とされる事例が増加しており、製品の火災原因調査については、平成24年6月に消防機関の調査権限の強化を図る消防法が改正されたことを踏まえ、今後、科学技術を活用した原因調査技術の高度化を図っていくことが必要である。
研究成果を地震・津波、火災等の災害現場における消防防災活動や防火安全対策等に利活用するためには、研究成果の公表、具体的な活用事例等に関する情報共有化のより一層の推進が必要であり、特に消防研究センターの情報発信機能を、より強化することが重要である。

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