平成27年版 消防白書

3.避難勧告等の発令・伝達

風水害による人的被害を軽減するためには、危険な状況になる前に安全な場所への避難が行われることが重要である。市町村はあらかじめ定めた避難勧告等の判断基準に基づき迅速に避難勧告等を発令し、住民は避難勧告等の発令を迅速に把握し、又は、避難が必要であることを自らが察知し、災害発生前の迅速な避難が行われることが必要である。

(1) 避難勧告等の判断・伝達マニュアルの改定

市町村が災害別に避難勧告等の具体的な判断基準等を定めたマニュアルを作成するための「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」について、土砂災害警戒情報や特別警報等の新たな制度が運用されたことや、これまでの災害の教訓を踏まえた改定が平成26年4月に行われた。

(ガイドライン(平成26年4月)の主な変更点)

  • 避難勧告等は空振りをおそれず早めに発令することを基本
  • 避難勧告等の判断基準を雨量や水位等、可能な限り定量的かつわかりやすい指標で提示
  • 災害種別毎に避難が必要な区域の考え方を提示
  • 従来の避難所への避難(立ち退き避難)だけでなく、家屋内に留まって安全を確保すること(屋内安全確保)も「避難行動」の一つとして整理

また、改定後に土砂災害防止法や水防法が改正されたことを受けて、平成27年8月には、再度、改定が行われた。消防庁では、内閣府と連携して、改定されたガイドラインを地方公共団体に通知するとともに、避難勧告等の判断基準の見直しを行うよう依頼した。

(ガイドライン(平成27年8月)の主な変更点)

  • 避難準備情報の段階から住民が自発的に避難を開始することを推奨
  • 避難準備情報の発令段階から避難場所を開設し始め、避難勧告発令までに開設を完了させることを推奨
  • 避難勧告等の発令に係る情報伝達については、伝達する範囲をあらかじめ検討することを推奨

なお、出水期前の平成27年5月には、都道府県に対し主に以下の取組を要請した。

〔1〕 市町村に対し、ガイドラインを参考にして避難勧告等の判断基準等の設定や見直しを行うことや、特に土砂災害に係る避難勧告等については、土砂災害警戒情報が発表された場合に直ちに発令することを基本とすることについて、あらためて周知し、気象台や河川事務所等と連携し、説明会の開催や技術的助言等の支援を行うこと。
〔2〕 大雨、洪水等の警報や土砂災害警戒情報など防災気象情報について、市町村の的確な避難勧告等の発令に資するため、平常時から気象台と連携し、できるだけ分かりやすく市町村に情報提供するとともに、市町村担当者の理解の向上を図ること。
〔3〕 市町村の避難勧告等に関する意思決定に対する都道府県からの助言の実施や気象台から都道府県への要員の派遣など、国・都道府県・市町村間の連携強化・情報共有を図る体制をあらかじめ整備しておくこと。

併せて、市町村に対し主に以下の取組を要請した。
〔1〕 避難勧告等の具体的な判断基準等を未だに定めていない市町村にあっては、ガイドラインを参考にして、可能な限り定量的かつわかりやすい判断基準を速やかに設定すること。また、既に判断基準を定めている市町村にあっては、ガイドラインを踏まえ再点検を行い、特に土砂災害においては、土砂災害警戒情報が発表された場合に直ちに避難勧告等を発令することを基本としていることから、必要に応じて見直しを行うこと。
〔2〕 避難勧告等は、時機を失することなく、早めに出すことが基本であり、避難が必要な状況が夜間、早朝となる場合は、避難準備情報を発令すること。また、避難住民の受け入れに備え、避難準備情報の段階から避難場所等を開設することが求められるが、局地的かつ短時間の豪雨の場合など、避難のためのリードタイムがなく危険が切迫している状況にあっては、避難場所等開設前であっても躊躇なく避難勧告等を発令すること。
〔3〕 防災気象情報の収集については、ガイドラインを参考とし、最新の情報の入手・把握に努めるとともに、必要に応じ、管区・地方気象台、国土交通省河川事務所、都道府県の県土整備事務所等に助言を求めること。
〔4〕 市町村長が気象台長等との間で気象に関する情報を必要な時に確実に交換することができるようにするなど、都道府県や気象台、河川管理者等との間の情報連絡体制をあらかじめ整備し、緊密な連携が図れるようにしておくこと。加えて、同一の水系を有する上下流の市町村間においては、相互に避難勧告等の情報が共有できるよう、平素から連絡体制を整備すること。
〔5〕 避難勧告等については、可能な限り市町村域の全域ではなく、ガイドラインを参考に対象となる区域を設定し、発令するよう努めること。特に、土砂災害については、土砂災害警戒区域等のうち「土砂災害警戒判定メッシュ情報」等で危険度が高まっている区域に対し避難勧告等を発令するとされていることに留意すること。

(2) 情報伝達体制の整備

市町村に対し、避難勧告等の防災情報の伝達について、防災行政無線(同報系)、緊急速報メールを始め、マスメディアとの連携や広報車・インターネット(ホームページ、SNS等)・コミュニティーFM等を活用した多様な伝達手段を整備・点検し、対象地域の住民等の安全確保のため、早い段階からの確実な防災情報の伝達を図ること、また、住民等の避難行動の判断に活用しやすいよう、住民等の立場に立ったわかりやすい情報提供に努めることを要請している。

(3) 突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方

突発的局地的豪雨に伴う土砂災害時における防災気象情報や避難勧告等の防災情報に係る伝達範囲や伝達手段等について検討するため、消防庁において「突発的局地的豪雨による土砂災害時における防災情報の伝達のあり方に関する検討会」を開催し、平成27年4月に検討結果をとりまとめた。
本とりまとめにおいては、防災情報は広く確実に伝達することが基本であるとしつつ、特に人口や面積の規模が大きい市町村においては、夜間や早朝に突発的局地的豪雨が発生した場合に、エリアを限定したPUSH型手段による防災情報の伝達が有効と考えられることから、各市町村において、地域の実情に応じて、エリア限定の有効性や運用上の課題等を考慮した上で検討する必要があるとした。
また、エリアを限定して情報伝達する際は、市町村防災行政無線(同報系)等を中心に活用することとし、伝達範囲や伝達内容を整理するとともに、情報伝達の確実性や実効性を高めるための市町村における取組事項を提示した。
これらの検討結果について、地方公共団体に対し取組を依頼する通知を発出したほか、平成27年8月の避難勧告ガイドラインの改定により、その内容が盛り込まれた。

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