平成27年版 消防白書

1.緊急消防援助隊の充実強化に向けて

緊急消防援助隊が更なる発展を遂げるため、運用の充実強化に向けて、以下の課題に取り組んでいる。

(1) 迅速な出動と展開

緊急消防援助隊は、消火、救助、救急及びそれらの前提となる情報収集等、国民の生命に直結する緊急性の最も高い活動を求められる部隊であり、迅速な出動が欠かせない。このため、平成26年度からの第3期(平成26年度から平成30年度末までの5か年間)の「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画(以下「基本計画」という。)」において、発災後直ちに先遣出動する部隊として「統合機動部隊」を新設し、運用の具体化を図っている(特集1-2図)。

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被災地への迅速な出動と展開については、交通インフラが破損したり、機能不全に陥ったりしたとき、どのように輸送を確保するかという課題がある。また、阪神・淡路大震災や東日本大震災の事例のような地域全体の交通マヒのケース、それ以外にも、平成25年台風第26号による伊豆大島の災害のようにカーフェリー定期航路がなく、事実上輸送の確保が困難であったようなケースもある。このため、輸送路の複数化・多重化、自衛隊や民間の輸送機・船舶の確保などの取組を進めているが、国家レベルでの対応、地域レベルでのきめ細かな対応という両面からのアプローチが必要である。

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(2) 消防防災ヘリコプターの運用強化

これまでの活動実績から見てとれる緊急消防援助隊の活動の特徴として、消防防災ヘリコプターの活動の多様性が挙げられる。まず、発災直後の情報収集に大いに貢献しているところであり、地上基地局を介することなく直接衛星に送信する「ヘリサット」の導入や、映像・画像の精緻化などのデジタル映像技術の進化により、情報収集のさらなる高度化が期待できる(特集1-3図)。また、緊急消防援助隊活動の参謀役である指揮支援部隊、消防庁からの派遣職員の輸送、資機材搬送も行っている。平成16年7月新潟・福島豪雨や平成16年7月福井豪雨、平成23年の東日本大震災、平成27年9月関東・東北豪雨においては、浸水により孤立した住居や病院等からのホイスト*1による大規模な救助活動を実施した。

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なお、平成16年の新潟県中越地震等を通じて、自衛隊、警察、海上保安庁、DMAT*2などの関係機関との航空運用調整が実施されており、それを受けて宮城県や岩手県では計画作成に取り組み、平成20年岩手・宮城内陸地震での経験を経て、訓練を重ね、東日本大震災においては円滑な航空運用調整が実施された。
さらに、平成27年9月関東・東北豪雨では、茨城県災害対策本部において、緊急消防援助隊航空隊の受け入れ、関係機関を含めたヘリコプターの活動区域、任務分担、救助者の搬送先等を調整し、限られた空域での救助活動等を円滑に実施した(特集1-4図)。

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消防防災ヘリコプターは、阪神・淡路大震災を契機に整備が進み、震災前の平成6年には、全国で35機であったが、平成10年には60機を超え、平成17年には70機、平成27年11月現在では76機体制となっており、ほぼ全国をカバーし、大規模・特殊災害を想定した更なる運用強化を図ることとしている。

*1 ホイスト:ヘリコプターが着陸できない場所において、ホバリング(空中での停止飛行)状態からヘリコプターと地上間の人員や物資を昇降する装置
*2 DMAT(災害派遣医療チーム):災害現場で救命措置等に対応できる機動性を備え、専門的なトレーニングを受けた医療チーム(医師、看護師、業務調整員)のこと(Disaster Medical Assistance Teamの略)

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(3) 関係機関との連携

緊急消防援助隊が活動するような大規模・特殊災害においては、自衛隊、警察、海上保安庁等の関係機関との連携が欠かせない。関係機関の現場活動責任者が集まる現地合同指揮所において、部隊間の情報共有・任務調整、自衛隊航空機による輸送支援など幅広い連携が行われており、また、訓練でもこれらの連携がより深められている。
最近では、DMAT、ドクターヘリの増加に伴い、重傷患者を被災地外の災害拠点病院等へ搬送する広域医療搬送の連携も増加している。また、平成16年新潟県中越地震、平成25年台風第26号による伊豆大島の災害、平成26年8月豪雨による広島市土砂災害においては、救助活動中の隊員の安全管理について、国土交通省等の土砂災害の専門家(TEC-FORCE)等との連携も行われている。マンパワーや資機材などの資源、活動特性は関係機関ごとにそれぞれ異なるが、各機関の特性を活かし、連携・補完をしていくことが、厳しい制約条件下での応急対策において不可欠である。

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(4) 車両・資機材の充実 

厳しい環境下での消防活動を展開する上で、車両・資機材といったハード面の強化も欠かせない。平成16年の消防組織法改正において、緊急消防援助隊車両・資機材の無償使用制度*3が創設されたことを契機として、地域レベルでは整備が進まないものについて、消防庁自らが開発・配備を開始している。これにより、全国の消防本部等にヘリサット、ヘリコプター動態管理システムなどが導入され、その後、東日本大震災での教訓を踏まえ、通信途絶地域で情報収集を行う無線中継車、100人規模の野営が可能で被災地での長期にわたる消防応援活動を行うための拠点機能形成車両、走破性の高い水陸両用バギーを搭載した津波・大規模風水害対策車両、道路啓開等を行う重機等が導入された。
これらは、平成26年8月豪雨による広島市土砂災害や御嶽山噴火災害、平成27年9月関東・東北豪雨等の厳しい環境下での緊急消防援助隊の活動に有効に活用されたところである。さらに、民間保有の重機等の資機材や燃料など消防活動を展開する上で不可欠なものは、協定等により、初動時に確保できる体制づくりが進められている。

*3 無償使用制度:緊急消防援助隊の活動上必要な車両・資機材等のうち、地方公共団体が整備・保有することが費用対効果の面から非効率的なものについて、大規模・特殊災害時における国の責任を果たすため、国が整備し緊急消防援助隊として活動する人員の属する都道府県又は市町村に対して無償で使用させるもの

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(5) ICTの積極的な活用

最近のICT(情報通信技術)の進展は、目覚ましいものがある。緊急消防援助隊の活動において、初動時には情報が不足、錯綜することが多く見られ、的確な活動を展開するためには、情報の共有とコミュニケーションが特に重要である。消防庁では、出動した緊急消防援助隊の出動・活動状況、被害情報等を地図上で視覚的に共有できる緊急消防援助隊動態情報システムを整備し、専用アプリケーションを搭載した可搬型端末機器(タブレット型パソコン)等の通信機器を指揮支援部隊登録消防本部及び各都道府県の代表消防本部に配備している。また、全国の消防防災ヘリコプターの位置情報や運航情報を共有でき、地上から文字メッセージや目的地等をヘリコプターに伝送することができるヘリコプター動態管理システムなどの整備に取り組んでいる(特集1-5図、特集1-6図)。

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