平成27年版 消防白書

はじめに 阪神・淡路大震災から20年 ~2つの大震災を踏まえた消防防災体制の充実~

本白書が発行される平成27年は阪神・淡路大震災から20年に当たる節目の年である。この20年間、阪神・淡路大震災を教訓に、消防においても様々な対応がなされてきた。
そのひとつとして緊急消防援助隊があげられる。平成7年に阪神・淡路大震災が発生し、地元地方公共団体が被災し、被害調査、応援要請等の基本的対応が困難になり、初動対応に支障が生じた。また、早期の情報覚知、大規模部隊の迅速な出動体制の整備、高度な資機材と技術の確保、被災地でのロジスティックスの確保、指揮命令系統の確立などの課題が明らかとなった。これらの課題に対応し、実体的に大規模災害時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施しうるよう、全国の消防機関相互による援助体制を構築するため、平成7年6月に緊急消防援助隊が創設されたところである。以後20年間、緊急消防援助隊の出動回数は30回(平成27年11月現在)にのぼり、本年も口永良部島噴火災害、平成27年9月関東・東北豪雨に対して出動している。このように、緊急消防援助隊は、災害大国日本において、消防組織法に基づく市町村消防の原則にのっとりつつ、現実の消防の広域応援に関する課題に対応してきた。
同じく、阪神・淡路大震災においては、地域の防災力の重要性も注目された。地震発生直後から地域住民による応急活動が行われ、特に神戸市の長田区、東灘区、灘区など、火災の発生した地域においては、住民によるバケツリレーや地域企業の自衛消防隊の防災資機材を用いた消火活動により、火災の延焼が防止された。また、地域住民の生活状況を日頃から把握している消防団にあっては、倒壊家屋のどの場所で誰が生き埋めとなっているかを察知でき、救出活動にめざましい活躍をした。こうした震災での経験を経て、自主防災組織の育成などの地域の防災力の充実強化に向け、各地で積極的に取組がなされてきた。
また、平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、死者・行方不明者が約2万人、住家における全壊が約13万棟、半壊が約27万棟に被害が及び、それは戦後最大の自然災害の脅威とも呼べるものであった。
全国の消防からは、地震発生後直ちに緊急消防援助隊が駆けつけ、被災地において約3万人が活動し、地元の消防本部等と協力し、約5,000人の救助を行うとともに、事故を起こした福島第一原子力発電所3号機に対する放水活動や、大規模コンビナート火災に対する消火活動など、様々な場面で活躍し、被災地の住民に大きな安心を与えるという役割を果たした。
被災地の消防職団員は、自らも被災者でありながら、地震発生直後から、身の危険を顧みることなく避難誘導や災害防御活動に従事し、多くの命を救った。一方で、津波によって300人近くにのぼる消防職団員が命を失った。改めて、地域防災の中核となる消防団の重要性がクローズアップされ、災害対応中の安全管理や装備などの充実につながった。
緊急消防援助隊に代表される広域消防応援と、地域の防災力の充実強化の取組は、20年の歳月と東日本大震災の経験を経て、南海トラフ地震や首都直下地震といった巨大地震や各地で頻発する豪雨災害、火山災害などに対応するため、今後ますます重要な課題となっている。
緊急消防援助隊については、第26次消防審議会の「東日本大震災を踏まえた今後の消防防災体制のあり方に関する答申」、「東日本大震災をはじめとした大規模・多様化する災害等への消防の広域的な対応のあり方に関する答申」の2つの答申において、緊急消防援助隊の出動体制・受援体制の整備等が提言されるとともに、緊急消防援助隊に関する第3期基本計画においては、緊急消防援助隊の平成30年度末までの登録目標数を6,000隊に大幅増隊することとしている。
地域の防災力については、「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」(平成25年12月13日法律第110号)により、地域防災力の充実強化を図ることが国及び地方公共団体の責務とされるとともに、消防団が地域防災力の中核と位置付けられたところである。こうした動きを踏まえ、消防庁に消防団充実強化対策本部が設置されるとともに、第27次消防審議会の「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する中間答申」において、消防団への加入の促進をはじめとする消防団の基盤の強化のうち取組が特に急がれる事項を中心として提言がなされたところであり、さらに平成27年中の最終答申取りまとめに向けて、地域防災に関する多様な主体の連携協力の推進などについて議論がなされている。
今後、消防庁としては、東日本大震災を含めた自然災害や火災事故における教訓をもとに、創設20周年を迎えた緊急消防援助隊の充実強化(特集1参照)、消防団を中核とした地域防災力の充実強化(特集2参照)など、消防防災体制の充実強化に努め、国民の命を守る消防防災行政を進めていくこととしている。

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