平成28年版 消防白書

第6節 震災対策

[地震災害の現況と最近の動向]

1.平成27年以降の主な地震災害

平成27年中に震度1以上が観測された地震は、1,842回(前年2,052回)で、このうち、震度4以上を記録した地震は44回(同55回)となっている(第1-6-1表)。

第1-6-1表 最大震度別地震発生状況の推移

また、平成27年1月から平成28年10月までに震度5強以上を記録した地震は、19回となっている(第1-6-2表)。

第1-6-2表 平成27年1月から平成28年10月までの国内の主な地震災害(震度5強以上)

平成27年以降の主な地震災害については、以下のとおり。
なお、平成28年(2016年)熊本地震による被害等の状況については、特集ページを参照のこと。

(1) 南海トラフ地震対策

南海トラフ*1沿いの地域では、ここを震源域として100年から150年間隔で大規模地震が繰り返し発生しており、近年では、昭和19年(1944年)に昭和東南海地震、昭和21年(1946年)に昭和南海地震が発生している。東海地震の領域は発生から160年が経過しており、切迫性が指摘され、また、東南海・南海地震については前回地震から、既に60年以上が経過していることから、今世紀前半にも発生することが懸念されている(第1-6-1図)*2

第1-6-1図 東海地震と東南海・南海地震

南海トラフ地震が発生した場合は著しい被害が発生する可能性があるため、「南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」に基づいて「南海トラフ地震防災対策推進地域」として1都2府26県707市町村(平成28年4月1日現在)が指定され、また、推進地域のうち、津波避難対策を特別に強化すべき地域を「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」として1都13県139市町村(平成28年4月1日現在)が指定され、地震防災対策の強化が図られている。
平成27年3月には、「南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画」が策定され、国が実施する応急対策に係る緊急輸送ルート、救助・救急、消火活動等、医療活動、物資調達、燃料供給及び防災拠点に関する活動内容が具体的に定められた。
これを受け消防庁では、発災直後から、被災府県内の消防を最大限動員するとともに、全国から最大勢力の緊急消防援助隊を可能な限り早く的確に投入するための初動期における派遣方針と具体的な手順等を定めている。

*1 南海トラフ:駿河湾から遠州灘、熊野灘、紀伊半島の南側の海域及び土佐湾を経て日向灘沖までのフィリピン海プレート及びユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域

*2 地震調査研究推進本部の地震調査委員会によると、マグニチュード8~マグニチュード9クラスの南海トラフの地震が今後30年以内に発生する確率は、70%程度となっている。また、最大クラスの地震の発生頻度は、100~200年の間隔で繰り返し起きている大地震に比べ、一桁以上低いとされている。

(2) 首都直下地震対策

首都地域は、人口や建築物が密集するとともに、我が国の経済・社会・行政等の諸中枢機能が高度に集積している地域であり、過去にもマグニチュード7クラスの地震や相模トラフ*3沿いのマグニチュード8クラスの大規模な地震が発生している*4(第1-6-2図)。こうした大規模な地震が発生した場合には、被害が甚大となり、かつ影響が広域に及ぶものとなるおそれがある。

第1-6-2図 この400年間における南関東の大きな地震

このため、「首都直下地震対策特別措置法」に基づき、首都直下地震により著しい被害が生じるおそれがあるため緊急に地震防災対策を推進する必要がある区域を「首都直下地震緊急対策区域」として1都9県309市区町村(平成28年3月31日時点)が指定されている。
さらに、同法に基づき、首都中枢機能の維持及び滞在者等の安全確保を図るべき地区を「首都中枢機能維持基盤整備等地区」として千代田区・中央区・港区・新宿区(平成28年4月時点)が指定されている。
平成27年3月には、同法に基づき策定された「緊急対策推進基本計画」について、今後10年間で達成すべき減災目標及び目標を達成するための施策の具体目標を設定する変更を行った。
また、平成28年3月には、「首都直下地震における具体的な応急対策活動に関する計画」が策定され、国が実施する応急対策に係る緊急輸送ルート、救助・救急、消火活動等、医療活動、物資調達、燃料供給、帰宅困難者対応及び防災拠点に関する活動内容が具体的に定められた。
消防庁では、防災拠点となる公共施設の耐震化、感震ブレーカー等の設置による電気に起因する出火の防止、石油コンビナート防災対策の充実等に取り組んでいる。

*3 相模トラフ:房総半島沖から相模湾にかけて海底に横たわる細長い凹地

*4 地震調査研究推進本部の地震調査委員会によると、南関東でのマグニチュード7程度の地震が今後30年以内に発生する確率は、70%程度となっている。

(3) 東海地震対策

東海地震については事前の予知の可能性があることから、昭和53年(1978年)12月に施行された大規模地震対策特別措置法により、東海地域を中心とする1都7県157市町村(平成28年4月1日現在)が地震防災対策強化地域として指定され、東海地震の予知情報が出された場合の地震防災体制を整備し、地震による被害の軽減を図ることとしている。
また、東海地震に関連する現象について調査が行われた場合に「東海地震に関連する調査情報(臨時)」が、観測された現象が東海地震の前兆現象である可能性が高まった場合に「東海地震注意情報」が、東海地震が発生するおそれがあると認められ、内閣総理大臣により警戒宣言が発せられた場合に、「東海地震予知情報」がそれぞれ発表されることとなっており、これらの情報が発表された場合には政府として防災対応を行うこととされている(第1-6-3図)。

第1-6-3図 東海地震に関連する情報と防災対応

消防庁においても「東海地震に関連する調査情報(臨時)」が発表された場合にはあらかじめ指定された職員が参集し災害対策室を設置するほか、「東海地震注意情報」及び「東海地震予知情報」が発表された場合には全職員が参集し災害対策本部を設置して災害応急対応に当たることとしている。

(4) 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策

日本海溝・千島海溝周辺では、過去において大津波を伴う地震が多数発生しており、東日本大震災もこの領域で発生している。地震防災対策を推進する必要がある地域を「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域」として1道4県117市町村(平成28年4月1日現在)が指定され、対策の強化が図られている。

(5) 中部圏・近畿圏直下地震対策

中部圏・近畿圏の内陸には多くの活断層があり、次の東南海・南海地震の発生に向けて、中部圏及び近畿圏を含む広い範囲で地震活動が活発化する可能性が高い活動期に入ったと考えられるとの指摘もある。この地域の市街地は府県境界を越えて広域化しており、大規模な地震が発生した場合、甚大かつ広範な被害が発生する可能性がある。
中部圏・近畿圏直下地震への防災対策については、平成21年4月にマスタープランとして「中部圏・近畿圏直下地震対策大綱」が中央防災会議で決定されたが、大規模地震対策を一体的に進めていくため、平成26年3月に首都直下地震対策大綱等とともに「大規模地震防災・減災対策大綱」に統合されている。

(6) その他
ア 防災基盤の整備と耐震化の推進

平成7年(1995年)1月に発生した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえて制定された「地震防災対策特別措置法」に基づき、全ての都道府県において「地震防災緊急事業五箇年計画」が作成され、同計画に基づき、避難地、避難路、消防用施設、緊急輸送道路の整備、社会福祉施設・公立小中学校等の耐震化及び老朽住宅密集市街地対策等が実施されてきている。
同計画は、第1次地震防災緊急事業五箇年計画(平成8年度(1996年度)~平成12年度(2000年度))から第4次地震防災緊急事業五箇年計画(平成23年度~平成27年度)と策定され、防災基盤の整備に向けた事業への積極的な取組が続けられている。
消防庁では、大規模地震発生時に、避難所や災害対策の拠点となる公共施設等について、地方単独事業として行われる耐震改修事業に対し、地方債と地方交付税による財政支援を行っている。また、地方公共団体が緊急に防災・減災に取り組む事業に対し、「緊急防災・減災事業」(起債充当率100%、交付税措置率70%)による財政支援を行っている。

イ 消防力の充実強化
(ア) 耐震性貯水槽の整備
大規模地震発生時には、地震動による配水管の破損、水道施設の機能喪失等により消火栓の使用不能状態が想定され、消火活動に大きな支障を生ずることが予測される。
このため、消防庁では、地震が発生しても消防水利が適切に確保されるよう、国庫補助による耐震性貯水槽の整備を進めているところであり、平成28年4月1日現在、全国で、11万707基が整備されている。
(イ) 震災対策のための消防用施設等の整備の強化
地震防災対策強化地域における防災施設等の整備や地震防災緊急事業五箇年計画に基づく防災施設等の整備については、国の財政上の特例措置が講じられている。また、地方単独事業についても地方債と地方交付税の措置により地方公共団体の財政負担の軽減が図られてきた。大規模地震発生後における防災活動が迅速かつ的確に行われ震災被害を最小限に抑えるためには、今後とも中・長期的な整備目標等に基づき、より一層の消防防災施設等の整備促進を図っていくことが必要である。
ウ 津波対策の推進

我が国においては、地震とそれに伴い発生する津波によって、過去に大きな被害が生じており、東日本大震災においても津波によって甚大な被害が発生した。
実効性のある津波避難対策を実施するためには、都道府県が津波浸水想定区域図を作成すること、それに基づき、市町村が避難対象地域の指定、緊急避難場所等の指定、避難指示等の情報伝達、避難誘導等を定める必要がある。
消防庁では、地方公共団体における津波避難の取組を推進するため、都道府県が作成すべき「市町村における津波避難計画策定指針」や市町村が住民と一緒になって行う「地域ごとの津波避難計画策定マニュアル」を示す「津波避難対策推進マニュアル検討会報告書」を地方公共団体に通知する(平成25年3月)など、市町村における津波避難対策を促進している。
さらに、地方公共団体が整備する津波避難タワーや、住民の避難経路となる避難路・避難階段、浸水想定区域内からの公共施設等の移転などに係る地方単独事業に要する経費について「緊急防災・減災事業」等の地方債と地方交付税による支援を行っている。

エ 地域防災計画(震災対策編等)の作成・見直しへの取組

地震災害は地震動による建築物の損壊のみならず、津波、火災、山崩れ等による二次的災害も含んだ複合的な災害であり、被害も広範囲に及ぶという特性を有するものであるため、地域防災計画において、他の災害とは区分して「震災対策編」等として独立した総合的な計画を作成しておく必要がある。
さらに、平成23年12月の防災基本計画の修正により、これまで震災対策編の一部とされていた津波災害対策について、新たに独立して「津波災害対策編」が設けられた(震災対策編は「地震災害対策編」とされた。)。
また、地域防災計画の作成・見直しにおいては、被害想定に基づく防災体制の見直しや、近隣地方公共団体における計画との整合性に留意するとともに、職員参集・配備基準をはじめ各種応急体制の整備・充実、災害時における職員の役割や関係機関等との連絡体制等を明確にするなど、地域防災計画の実効性の向上に努めることが重要である。

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