平成28年版 消防白書

特集3 消防団を中核とした地域防災力の充実強化

1.「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」の制定を受けた取組と最近の消防団等の活躍

(1) 消防団等充実強化法の成立

平成25年12月、議員立法により「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」(平成25年法律第110号)(以下「消防団等充実強化法」という。)が成立した。
この法律においては、〔1〕地域防災力の充実強化に関する計画の策定、〔2〕全ての市町村に置かれるようになり、将来にわたり地域防災力の中核として欠くことのできない代替性のない存在である消防団の強化、〔3〕国及び地方公共団体による消防団への加入の促進、〔4〕公務員の兼職の特例、〔5〕事業者・大学等の協力、〔6〕消防団員の処遇・装備・教育訓練の改善等の消防団の活動の充実強化、〔7〕地域における防災体制の強化について規定されている(特集3-1図)。

特集3-1表 消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律概要

消防団等充実強化法を受け、消防庁では、「消防団充実強化対策本部」を設置し、消防団への加入促進、消防団員の処遇改善、消防団の装備・教育訓練の充実等について、地方公共団体への支援・働き掛けを行っている。

(2) 消防団への加入促進

ア 総務大臣書簡の発出
平成25年11月8日、平成26年4月25日及び平成27年2月13日の三度にわたり、総務大臣から全ての都道府県知事及び市区町村長あてに書簡を送付し、地方公務員をはじめとした消防団員確保に向けた一層の取組のほか、消防団員の処遇改善などについて依頼した(特集3-2図)。
特集3-2図 総務大臣書簡(地方公共団体あて)

加えて、平成27年2月には、日本経済団体連合会などの経済団体あてにも書簡を送付し、消防団活動に対する事業者の理解と協力を呼び掛けた。

イ 事業者の協力
被雇用者団員の増加に伴い、消防団員を雇用する事業所の消防団活動への理解と協力を得ることが不可欠となっているため、平成18年度から導入を促進している「消防団協力事業所表示制度」の普及及び地方公共団体による事業所への支援策の導入促進を図っている(特集3-3図)。
特集3-3図 消防団協力事業所表示制度

特別の休暇制度を設けて勤務時間中の消防団活動に便宜を図ったり、従業員の入団を積極的に推進したりする等の協力は、地域防災力の充実強化に資すると同時に、事業所が地域社会の構成員として防災に貢献する取組であり、当該事業所の信頼の向上にもつながるものである。
また、平成25年12月13日、日本郵便株式会社に対し、消防団活動への参加促進を依頼するとともに、平成26年1月24日、各地方公共団体に対し、郵便局への働き掛けを依頼した。
加えて、平成27年9月8日、「総務省消防庁消防団協力事業所」のうち、従業員が消防団に多数加入している5つの事業所を対象として、総務大臣から感謝状を授与し、併せて、総務大臣と当該事業所及び5つの経済団体との意見交換会を実施した。

ウ 大学等の協力
平成25年12月19日、文部科学省と連携し、大学等に対し、大学生の加入促進、大学による適切な修学上の配慮等について働き掛けを依頼した。
また、文部科学省と協力し、全国国立大学学生指導担当副学長協議会に消防庁職員を派遣する等、機会を捉えて積極的な働き掛けを行うとともに、平成28年11月28日、文部科学省及び各国公私立大学長あてに、課外活動等の一つとして消防団活動を推奨し、また、学生が消防団活動に参加しやすい環境づくりに配慮するよう依頼した。
加えて、消防団加入促進キャンペーンの実施に併せて、大学構内向けデジタルサイネージによる消防団員募集広告の掲示やポスターの配布等により、学生への理解促進を図った。
エ 公務員の加入促進
消防団等充実強化法第10条において、公務員の消防団員との兼職に関する特例規定が設けられたところであるが、当該兼職の特例に関する政令が公布されたことを受けて、平成26年6月27日、国家公務員の消防団への加入を容易にする環境整備がなされたことを踏まえ、職員の消防団への加入を促進するよう、各府省庁に対し働き掛けを行った。
オ 学生消防団活動認証制度
消防団に所属する大学生、大学院生又は専門学校生に対する就職活動支援の一環として、真摯かつ継続的に消防団活動に取り組み、顕著な実績を収め、地域社会へ多大なる貢献をした大学生等について、市町村がその実績を認証することにより、当該消防団活動が積極的に評価されるよう、「学生消防団活動認証制度」の普及を図っている。平成28年4月1日現在、導入済又は導入予定としている地方公共団体は182団体となっており、引き続き導入に向けた働き掛けを行っている。
また、一般社団法人日本経済団体連合会等の経済団体に対し、当該団体会員企業の従業員に対する消防団への加入促進及び勤務の免除やボランティア休暇の取得等、消防団活動における配慮を行うよう依頼することとしている。
カ 加入促進のための先進的な取組の支援等
女性や若者をはじめとした消防団員を更に増加させるため、消防庁では、消防団加入促進支援事業など入団促進につながる施策を実施するとともに、女性消防団員のいない市町村に対しては、入団に向けた積極的な取組を求めている。
キ 地方公共団体に対する働き掛け
平成25年12月25日、消防団等充実強化法の成立に伴い、各地方公共団体に対し、地方公務員が消防団員となる意義、報酬の取扱い等を示した通知を発出し、地方公務員の加入促進について働き掛けた。
また、平成28年10月11日、各地方公共団体に対し、学生、女性、被用者及び公務員の消防団への加入促進について、それぞれの都道府県・市町村が取り組むべきことについて具体例とともに明示した通知を発出するとともに、首長が参加する会議に消防庁職員を派遣する等、機会を捉えて積極的な働き掛けを行った。
ク 先進事例の紹介
消防庁において、消防団への加入促進に係る地方公共団体や消防団における取組について情報収集を行い、インターネット等を通じて対外的な紹介を行った。
ケ 総務大臣からの感謝状の授与
平成27年7月15日、前年と比較して消防団員数が相当数増加した団体等22の消防団に対して、総務大臣から感謝状を授与した。

(3) 消防団員の処遇の改善

ア 退職報償金の引上げ
平成26年4月1日、「消防団員等公務災害補償等責任共済等に関する法律施行令の一部を改正する政令」(平成26年政令第56号)の施行に伴い、消防団員に支給される退職報償金を全階級一律5万円(最低支給額20万円)の引上げを行った。
イ 報酬及び出動手当の引上げ
消防団員の年額報酬及び出動手当について、活動内容に応じた適切な支給を地方公共団体に働き掛けるとともに、特に支給額の低い市町村に対して引上げを要請した。
その結果、平成27年4月1日現在で3団体あった無報酬団体については、平成27年度中に解消された。

(4) 装備等の充実強化

ア 装備の基準の改正
平成26年2月7日、東日本大震災等の教訓を踏まえ、「消防団の装備の基準」を改正し、ライフジャケット等の安全確保のための装備や救助活動用資機材の充実を図るとともに、平成27年度に引き続き平成28年度においても地方交付税措置を拡充した。
イ 救助資機材搭載消防ポンプ自動車等の整備
平成27年度当初・補正予算及び平成28年度当初・補正予算等により、消防団及び消防学校に対し、救助資機材を搭載した消防ポンプ自動車等を整備し、訓練を実施することとしている。
ウ 消防団拠点施設及び地域防災拠点施設の整備
消防庁では、地方公共団体が消防団拠点施設や地域防災拠点施設において標準的に備えることが必要な施設・機能(研修室、資機材の収納スペース、男女別の更衣室・トイレ等)を示し、地方財政措置等(緊急防災・減災事業債、国庫補助金)を活用しながら整備することを促進している。

(5) 教育・訓練の充実・標準化

平成26年3月28日、消防団の現場のリーダーの教育訓練の充実を図るため、「消防学校の教育訓練の基準」を改正し、消防団員に対する幹部教育のうち、中級幹部科を指揮幹部科(現場指揮課程及び分団指揮課程)として再編した(特集3-4図)。

特集3-4図 消防団員に対する教育訓練基準の見直し

全国に55ある消防学校において、現場指揮課程については平成28年度中に導入が完了し、分団指揮課程についても平成29年度中に導入が完了する予定となっている。
また、同基準の改正を踏まえ、火災防御、救助救命、避難誘導等における的確な現場指揮、安全管理の知識及び技術の向上や、自主防災組織等に対する指導・育成を行うに当たり必要な消防団員への教育を消防学校等において行うための教材を作成した。
さらに、消防学校に対し、救助資機材を搭載した消防ポンプ自動車等を計画的に整備することにより、消防団員の教育・訓練を支援することとしている。

(6) 消防審議会

消防庁は、平成26年1月に発足した第27次消防審議会に対して、「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方」について諮問し、平成27年12月22日に「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する答申」が出された(特集3-5図)。

特集3-5図 第27次消防審議会「消防団を中核とした地域防災力の充実強化の在り方に関する中間答申」について

この答申においては、国及び各地方公共団体その他の関係主体は、消防団への加入の促進、機能別団員・機能別分団制度の再評価、消防団員の処遇の改善、消防団の装備の改善及び消防団員の教育訓練の改善により消防団の強化を図るとともに、地域の防災に関する住民の理解を促進し、多様な主体の参画を得た議論を通じて、地域における防災体制の強化を図ることにより、消防団を中核とした地域防災力の充実強化に総合的・計画的に取り組むべきとされた。消防庁においては、最終答申を踏まえ、引き続き、消防団を中核とした地域防災力の充実強化について取り組むこととしている。

(7) 最近の消防団等の活躍

ア 平成28年熊本地震
平成28年4月14日に熊本県熊本地方を震源とする地震が発生し、益城町で震度7を観測した。さらに、4月16日にも熊本地方を震源とする地震が発生し、益城町で再び震度7を観測したほか、西原村でも震度7を観測した。一連の地震活動において震度7を2回も観測したことは史上初めてのことであった。
被災地の消防団は、自ら被災した団員がいたにもかかわらず、震災直後から昼夜を分かたず消火活動、安否確認、救助活動、避難誘導、警戒活動等を行うとともに、その後も避難所運営の支援を行うなど、地域の安全・安心を守るために幅広く活躍した。
八代市及び益城町では、消防職員とともに消火活動を実施したほか、倒壊家屋等からの救助活動においても、消防職員とともに、益城町で51人、西原村で15人、南阿蘇村で5人を、それぞれ救助した。
倒壊家屋の様子(益城町消防団提供)
支援物資の仕分けの様子(熊本市消防団提供)
イ 台風第10号
平成28年8月30日に台風第10号が上陸し、やがて温帯低気圧に変わったが、北海道及び東北地方では記録的な大雨となった。
北海道帯広市をはじめとするとかち広域消防事務組合管内では、8月30日から土のう積み、警戒活動、避難誘導、避難所支援活動等を実施した。また、31日以降は、消防職員とともにボートによる救助活動により10人を救助したほか、安否確認や捜索活動を実施した。
岩手県久慈市では、8月29日午後から土のう積みを実施するとともに、30日から水門点検、警戒活動、避難誘導等を実施した。また、床上浸水した家屋等から、消防職員とともにボートによる救助活動により6人を救助したほか、ポンプ車等を使った排水作業を実施した。加えて、31日以降は、安否確認、被害状況の調査、警戒活動、排水作業及び清掃作業を実施した。
岩泉町では、8月29日から警戒活動を開始し、30日には、土のう積み、避難誘導、水バケツによる消火活動等を実施し、増水した川の中で流された高齢者を助け上げ、消防職員とともに救助したほか、31日以降は、警戒活動や安否確認を実施した。また、30日及び31日には、消防職員とともに建物の2階に取り残された住民計5人を救助した。消防団員は自らも被災者でありながら、「自分たちの町は自分たちで守る」という郷土愛護の精神のもと、その後も常備消防をはじめとした関係機関とともに、不眠不休で行方不明者の捜索活動を行った。
行方不明者の捜索(御影消防団(北海道清水町)提供)

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