平成28年版 消防白書

2.引き続き実施すべき消防団の充実強化施策

(1) 消防団の現状

これまで、平成28年熊本地震や台風第10号による豪雨災害における活躍など、通常の火災出動に加え、全国各地で地震や風水害等の大規模災害が発生した際には、多くの消防団員が出動してきた。消防団員は、災害防御活動や住民の避難支援、被災者の救出・救助などの活動を行い、大きな成果を上げており、地域住民からも高い期待が寄せられている。
また、今後、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模地震の発生が懸念されており、消防団を中核とした地域の総合的な防災力の向上が求められている。さらに、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(平成16年法律第112号)においては、消防団は避難住民の誘導などの役割を担うこととされている。
このように、消防団は地域における消防防災体制の中核的存在として、地域住民の安全・安心の確保のために果たす役割はますます大きくなっているが、全国の多くの消防団では、社会環境の変化を受けて様々な課題を抱えている。

ア 消防団員数の減少

消防庁では、消防団等充実強化法等を踏まえ、様々な消防団員確保の全国的な運動を展開してきたが、消防団員数は年々減少しており、平成28年4月1日現在、消防団等充実強化法成立直後の平成26年4月1日現在の86万4,347人に比べ0.9%減少し、85万6,278人となっている。減少幅は年々縮小しているものの、消防団員の減少に歯止めをかけ、増加させる必要がある(特集3-6図)。

イ 消防団員の被雇用者化

消防団員に占める被雇用者団員の割合は、平成28年4月1日現在、消防団等充実強化法成立直後の平成26年4月1日現在の72.2%に比べ0.7ポイント増加し、72.9%となっており、消防団員の被雇用者の割合が高い水準で推移していることから、事業所の消防団活動への協力と理解を求めていく必要がある(特集3-6図)。

特集3-6図 消防団員の被雇用者化の推移

ウ 消防団員の平均年齢の上昇

消防団員の平均年齢は、平成28年4月1日現在、消防団等充実強化法成立直後の平成26年4月1日現在の39.9歳に比べ0.6歳上昇し、40.5歳となっており、毎年少しずつではあるが、消防団員の平均年齢の上昇が進んでいることから、大学生・専門学校生等若い世代の入団促進を図っていく必要がある(特集3-7図)。なお、平成28年4月1日現在の学生消防団員数は、消防団等充実強化法成立直後の平成26年4月1日現在の2,725人に比べ19%増えて、3,255人となっており、消防団員の総数が減少する中、その数は年々増加している。

特集3-7図 消防団員の年齢構成比率の推移

(2) 女性消防団員の更なる活躍の推進

ア 女性消防団員を取り巻く現状

女性消防団員数は、平成28年4月1日現在、消防団等充実強化法成立直後の平成26年4月1日現在の2万1,684人に比べ10.2%増えて、2万3,899人となっており、消防団員の総数が減少する中、その数は年々増加している(特集3-8図)。現在、女性消防団員がいる消防団は全消防団の66.9%となっている。

特集3-8図 女性消防団員数の推移

近年、地域の安全・安心の確保に対する住民の関心の高まりなどを背景に消防団活動も多様化しており、実災害での消火活動や後方支援活動などはもちろん、住宅用火災警報器の設置促進、火災予防の普及啓発、住民に対する防災教育・応急手当指導等、女性消防団員の活躍が多岐にわたって期待されている。
例えば、平成26年8月豪雨による広島市の土砂災害においては、広島市の女性消防団員が避難所の運営支援活動等に従事し、高い評価を受けた。
また、平成28年熊本地震においては、女性や高齢者に配慮した声掛けや荷物搬送の支援、避難所生活における要望等の聞取りなど、きめ細かな活動を実施した。
女性消防団員のいない消防団では、入団に向けた積極的な取組が必要である。

イ 女性消防団員の活躍推進に向けた取組

(ア) 消防団への加入促進
a 総務大臣書簡の発出
平成25年11月8日、平成26年4月25日及び平成27年2月13日の三度にわたり、総務大臣から全ての都道府県知事及び市区町村長あてに書簡を送付し、女性の消防団への加入促進に向けた積極的な取組について依頼した(特集3-2図)。
加えて、平成27年2月には、日本経済団体連合会などの経済団体あてにも書簡を送付し、女性従業員の消防団加入に対する事業者の理解と協力を呼び掛けた。
b 総務大臣からの感謝状の授与
平成27年7月15日、前年と比較して女性消防団員数が相当数増加した団体等22の消防団に対して、総務大臣から感謝状を授与した。
c 加入促進のための先進的な取組の支援等
女性消防団員を更に増加させるため、消防庁では、消防団加入促進支援事業など女性の入団促進につながる施策を実施するとともに、これらの取組の普及促進を図った。
(イ) 全国女性消防操法大会の開催
平成27年10月15日、女性消防団員等の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、横浜市消防訓練センターにおいて「第22回全国女性消防操法大会」を開催した。

全国女性消防操法大会

(ウ) 全国女性消防団員活性化大会の開催
全国の女性消防団員が一堂に会し、日頃の活動やその成果を紹介するとともに、意見交換を通じて連携を深めることにより、女性消防団員の活動をより一層、活性化させることを目的として、平成6年(1994年)から「全国女性消防団員活性化大会」を開催している。
平成28年6月3日、北海道札幌市において「第22回全国女性消防団員活性化北海道大会」を開催した。

全国女性消防団員活性化大会

(3) 機能別団員及び機能別分団など消防団組織・制度の多様化方策の導入

全ての災害・訓練に出動する消防団員を基本とする現在の制度を維持した上で、必要な消防団員の確保に苦慮している各市町村が実態に応じて選択できる制度として、次の多様化方策を講じている。なお、条例上の採用要件として年齢・居住地等を制限している場合は、条例を見直すことにより幅広い層の人材が入団できる環境の整備を図ることが必要である。

ア 機能別団員制度

入団時に決めた特定の活動・役割及び大規模災害対応等に参加する制度である。

イ 機能別分団制度

特定の活動・役割を実施する分団・部を設置し、所属団員は当該活動及び大規模災害対応等を実施する制度である。

ウ 休団制度

消防団員が出張、育児等で長期間にわたり活動することができない場合、消防団員の身分を保持したまま一定期間の活動休止を消防団長が承認する制度であり、休団中の大規模災害対応、休団期間の上限等について各消防団で規定することとしている。

(4) その他消防団の充実強化施策

ア 全国消防団員意見発表会・消防団等地域活動表彰の実施

地域における活動を推進するとともに、若手・中堅消防団員や女性消防団員の士気の高揚を図るため、平成28年3月に全国各地で活躍する若手・中堅消防団員や女性消防団員による意見発表会を開催し、優秀な発表を行った者を表彰するとともに、

  • 地域に密着した模範となる活動を行っている消防団
  • 消防団員の確保について特に力を入れている消防団
  • 大規模災害時等において顕著な活動を行った消防団

に対する表彰を実施し、その取組内容を取りまとめ、全国に発信している。

イ 消防団加入促進キャンペーンの全国展開

消防団員の退団が毎年3月末から4月にかけて多い状況を踏まえ、退団に伴う消防団員の確保の必要性があることから、毎年1月から3月までを「消防団加入促進キャンペーン」期間として位置付け、消防団員募集ポスターやリーフレットの作成・配布、駅や大学キャンパスに設置されたデジタルサイネージへの広告配信を行い、消防団員募集についての積極的な広報の全国的な展開を図っている。

消防団員募集ポスター
消防団員募集リーフレット

ウ 消防団活動のPR

(ア) 「消防団のホームページ」の運用
消防庁における最新施策や最新情報のほか、各消防団における取組事例等を掲載し、消防団活動や加入促進のPRに努めている。
(URL:http://www.fdma.go.jp/syobodan/

消防団のホームページ

(イ) 雑誌広告等の広報媒体の活用
特に女性や若者をターゲットとした雑誌広告やインターネットにおけるウェブ広告等の広報媒体を活用し、消防団活動への理解及び入団促進の広報に努めている

エ 消防団員確保アドバイザーの派遣

消防団員の減少に歯止めをかけるために、消防団員確保に必要な知識又は経験を有する消防職団員等を地方公共団体等に派遣し、消防団員の確保のための具体的な助言や情報提供等を行う「消防団員確保アドバイザー派遣制度」を平成19年4月から実施しており、平成28年10月末現在、30人のアドバイザー(うち女性11人)が全国で活躍している。

オ 全国消防操法大会の開催

平成28年10月14日、消防団員等の消防技術の向上と士気の高揚を図るため、南長野運動公園(長野県長野市)において、第25回全国消防操法大会を開催した。

カ 「地域防災力充実強化大会」の開催

地域防災力は、消防団をはじめ、住民、自主防災組織、女性(婦人)防火クラブ、少年消防クラブ等の多様な主体が適切に役割分担をしながら相互に連携協力することによって確保されるものであり、官民を挙げてその充実強化を図る必要がある。
このため、消防団等充実強化法の成立等を踏まえ、各界各層の幅広い参加を得て、平成28年8月に富山県で、10月に佐賀県で、それぞれ「地域防災力充実強化大会」を開催した。
今後も、こうした取組が各地域で展開されるよう、引き続き地域防災力の充実強化への気運を醸成していく。

関連リンク

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