平成29年版 消防白書

3.避難勧告等の発令・伝達

風水害による人的被害を軽減するためには、危険な状況になる前に安全な場所への避難が行われることが重要である。市町村はあらかじめ定めた避難勧告等の発令基準に基づき適時的確に避難勧告等を発令するとともに、住民においては避難勧告等の発令を迅速に把握し、又は、避難が必要であることを自ら察知し、災害発生前に迅速に避難することが必要である。

(1)避難勧告等の判断・伝達マニュアルの改定

市町村が適時的確に避難勧告等を発令できるよう、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」が平成17年3月に策定された。その後、東日本大震災や広島市の大規模な土砂災害等の教訓を踏まえ、平成26年4月及び平成27年8月に改定された後、平成29年1月には、それまでの内容を見直すとともに、市町村の避難勧告等の判断・伝達だけでなく、受け取る側も含めた総合的なガイドラインとして、名称が「避難勧告等に関するガイドライン」に改定された。

(ガイドライン(平成29年1月)の主な改定内容)
・ 住民等がとるべき避難行動、指定緊急避難場所の周知など
・ 避難勧告等の発令基準の考え方や関係機関の助言
・ 住民等への情報提供の在り方
・ 災害時における市町村の防災体制の構築など

また、本改定では、避難情報の名称が下記のとおり変更されている。

(変更前)           (変更後)
避難準備情報        → 避難指示
避難準備・高齢者等避難開始 → 避難指示(緊急)

なお、出水期前の平成29年5月には、中央防災会議会長から、都道府県防災会議会長に対し主に以下の点に留意して防災態勢の一層の強化を図ることを要請するとともに、管内市町村防災会議への周知を依頼した。

[1] 災害の発生を未然に防止するため、防災事務に従事する者の安全確保にも留意した上で、職員の参集や災害対策本部の設置等適切な災害即応態勢の確保を図り、関係機関との緊密な連携の下に、危険箇所等の巡視・点検の徹底、関係機関から市町村に対する助言、災害対策本部における機能の維持等の取組について万全を期すること。
[2] 市町村は、関係機関の支援を受けながら、的確な避難勧告等の発令基準や発令区域を設定し、事前に発令区域や発令のタイミング等を住民に周知すること。特に、土砂災害においては、予測することが困難で命を脅かすことが多いことから、土砂災害警戒情報が発表された場合は、土砂災害に関するメッシュ情報において、危険度が高まっているメッシュと重なった土砂災害警戒区域・危険箇所等に直ちに避難勧告を発令することを基本とすること。また、想定される災害の種別毎に指定緊急避難場所を速やかに指定すること。
[3] 避難勧告等に係る本庁と行政区・支所との間における責任区分や発令権者を明確化し、時機を逸することなく適切に避難勧告等を発令・伝達ができるよう万全の体制を確保すること。また、避難のためのリードタイムがなく、危険が切迫している状況にあっては、指定緊急避難場所等開設前であってもちゅうちょなく避難勧告等を発令すること。
[4] 市町村は、情報が伝わりにくい要配慮者に対しても避難勧告等の情報が確実に伝達されるよう適切な措置を講ずるとともに避難行動要支援者名簿の作成及び名簿情報の提供等を推進すること。さらに着実な情報伝達及び早い段階での避難の促進に努めること。
[5] 要配慮者の避難を考慮し、地方公共団体への防災情報の提供を早期に行うとともに、要配慮者利用施設管理者等へ災害計画の作成や避難訓練の実施を徹底すること。また、地方公共団体が避難訓練の実施状況について確認するとともに、情報伝達体制を定めておくこと。
[6] 市町村は、「防災・危機管理セルフチェック項目」等を活用し、災害対応の在り方について職員の理解を深めるとともに、自己点検を通じて災害対応能力の向上を図ること。

(2)情報伝達体制の整備

市町村に対し、避難勧告等の防災情報の伝達について、防災行政無線(同報系)、緊急速報メールを始め、マスメディアとの連携や広報車・インターネット(ホームページ、SNS等)・コミュニティ放送等を活用した多様な伝達手段を整備・点検し、対象地域の住民等の安全確保のため、早い段階からの確実な防災情報の伝達を図ること、また、住民等の避難行動の判断に活用しやすいよう、住民等の立場に立った分かりやすい情報提供に努めることを要請している。

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