平成29年版 消防白書

2.政府・消防庁・消防機関等の活動

(1)政府の活動

内閣官房は、情報の集約、内閣総理大臣等への報告、関係省庁との連絡調整を集中的に行うため、7月3日16時46分に総理大臣官邸に情報連絡室を設置した。7月5日17時51分に福岡県に大雨特別警報が発表され、予想されるその後の気象状況により、甚大な被害が発生するおそれがあったことから、18時46分に情報連絡室を官邸連絡室に改組した。18時56分には、総理大臣から、<1>早急に被害状況を把握すること、<2>地方公共団体とも緊密に連携し、人命を第一に、政府一体となって、被災者の救命・救助等の災害応急対策に全力で取り組むとともに、住民の避難支援等の被害の拡大防止の措置を徹底すること、<3>国民に対し、避難や大雨・河川・浸水の状況等に関する情報提供を適時的確に行うことの指示が発せられた。
同日19時15分に開催された関係省庁局長級会議を経て、19時41分には官邸連絡室から官邸対策室への改組が行われた。福岡県及び大分県において、河川の氾濫、土砂災害等が発生したことを受け、内閣危機管理監は、関係省庁等の局長級幹部で構成される緊急参集チームを招集し、20時08分から緊急参集チーム協議を実施した。
7月7日には、内閣府副大臣を団長とする政府調査団が福岡県へ、7月9日には内閣府特命担当大臣(防災)を団長とする政府調査団が大分県及び福岡県へ派遣されたほか、7月7日から28日までの間、福岡県庁に政府現地連絡調整室が設置され、被災地方公共団体及び関係省庁が一体となった災害応急対策が実施された。
また、7月5日から7月19日までの期間において、関係省庁災害対策会議が8回開催された。

(2)消防庁の対応

6月30日からの梅雨前線に伴う大雨に対し、7月3日に開催された関係省庁災害警戒会議に応急対策室長が出席した。同日15時08分には、全都道府県に対して「梅雨前線及び台風による大雨警戒情報」を発出し、警戒を呼びかけるとともに災害が発生した場合の適切な対応及び被害状況の報告を要請するなど、情報収集体制の強化を図った。
7月5日5時55分に島根県に大雨特別警報が発表されたことを契機として、同時刻、災害対策室を設置し(第1次応急体制)、情報収集体制のさらなる強化を図った。同日17時51分には、福岡県にも大雨特別警報が発表され、同時刻に災害対策室を国民保護・防災部長を長とする災害対策本部に改組した(第2次応急体制)。
被害状況に鑑み、福岡県及び大分県から緊急消防援助隊の派遣要請があることを想定し、7月5日19時55分以降、関係府県に対して緊急消防援助隊の出動可能隊数の報告及び出動準備を順次依頼した。21時12分に大分県知事から、翌6日0時00分に福岡県知事から、それぞれ消防応援の要請があり、関係府県の知事に対して緊急消防援助隊の出動を求めた。
なお、緊急消防援助隊の活動等の詳細については(4)ウで記載する。
また、同日、被災地における情報収集、現地活動支援等のため、福岡県及び大分県へそれぞれ6人の消防庁職員を派遣し、福岡県では7月25日まで、大分県では7月12日まで活動を実施した。7月6日8時00分には、全庁を挙げての対応が必要となったことから、消防庁長官を長とする災害対策本部へ改組し(第3次応急体制)、災害応急対策にあたった。17時00分には、政府調査団の一員として、地域防災室長を福岡県に派遣した。その後、7月9日には、既に現地派遣されていた震災対策専門官が大分県における政府調査団に参加した。
また、災害応急対応が長期化する中、7月12日には、総務大臣及び消防庁長官が、福岡県及び大分県の被災地を視察し、被災自治体との意見交換を行った。

特集1-1表 平成29年6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号の人的・物的被害

(平成29年11月2日現在)

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特集1-1表 平成29年6月30日からの梅雨前線に伴う大雨及び台風第3号の人的・物的被害の画像。詳細は、Excelファイル、CSVファイルに記載。

(備考) 消防庁とりまとめ報により作成

(3)被災自治体の対応

福岡県は、7月5日15時30分に災害対策本部を設置し、19時00分に自衛隊の災害派遣を要請するとともに、7月6日0時00分に緊急消防援助隊の応援を要請した。
大分県は、7月5日19時30分に災害対策本部を設置し、同時刻に自衛隊の災害派遣を要請するとともに、21時12分に緊急消防援助隊の応援を要請した。
朝倉市、東峰村及び日田市ほか被害が見込まれた市町村においては、避難勧告等を順次発令し、住民に対し避難を呼びかけた。
また、多数の者が生命又は身体に危害を受け、又は受けるおそれが生じていることから、福岡県は、朝倉市、東峰村及び添田町に対して、大分県は、日田市及び中津市に対して、災害救助法の適用を決定し、被災者の救助、保護等に当たった。

(4)消防機関の対応

ア 地元消防機関

福岡県では、甚大な被害が発生した朝倉市、東峰村からの119番通報が相次ぎ、近隣の消防本部で共同運用している筑後地域消防指令センターでは、全ての通報には対応できない状態が続いた。同地域を管轄する甘木・朝倉消防本部は総力を挙げた活動を実施したが、発災当初は、河川の氾濫、土砂災害等による道路の寸断等で災害現場に近づくことができず、保有する消防車両を効果的に運用できない状況もあり、被災住民の救助活動、避難誘導等は困難を極めた。
大分県で、甚大な被害が発生した日田市において119番通報が多数入電し、管轄する日田玖珠広域消防組合消防本部は、被災住民の救助活動、避難誘導等の対応に追われた。

イ 県内応援消防本部

大分県においては、緊急消防援助隊が到着するまでの間、県内の消防本部間で締結された協定に基づく消防応援が実施され、救助活動等を実施した。
福岡県においては、県内の消防本部間で締結された協定に基づく消防応援が実施され、救助活動等を実施した。なお、県内消防応援の活動は、8月4日まで継続して行われた。

ウ 緊急消防援助隊

(ア)大分県
7月5日に消防庁長官から出動の求めを受けた9県(愛知県、山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県及び宮崎県)の緊急消防援助隊は、中津市及び日田市に向け、迅速に出動した。
福岡市消防局指揮支援隊は、大分県庁に設置された消防応援活動調整本部に部隊長の属する指揮支援隊として参集し、大分県、大分県内消防本部及び消防庁派遣職員のほか、警察、自衛隊、海上保安庁、DMAT、気象庁、国土交通省等の関係機関とも連携し、被害情報の収集・整理、緊急消防援助隊の活動管理等を行った。また、二次災害の発生を防止するため、降雨による活動中止判断の基準を明確にし、指揮支援隊長を通じて各県大隊長に周知した。

消防応援活動調整本部の写真
消防応援活動調整本部
(大分県庁)

北九州市消防局指揮支援隊は、中津市消防本部に参集し、警察、自衛隊等の関係機関と連携を図り、被害状況の情報収集・整理、中津市に派遣された宮崎県大隊の活動管理等を行った。その後、7月7日には、中津市における緊急消防援助隊の活動がおおむね終了したため活動を終了した。
熊本市消防局指揮支援隊は、日田玖珠広域消防組合消防本部に参集し、警察、自衛隊等の関係機関と連携を図り、被害情報の収集・整理、日田市に派遣された佐賀県大隊及び熊本県大隊の活動管理等を行った。その後、7月10日には、日田市における緊急消防援助隊の活動がおおむね終了したため、消防庁長官からの部隊移動の求めを受け福岡県の甘木・朝倉消防本部へ出動した。
陸上隊は、当初、宮崎県大隊が中津市にて、佐賀県大隊、熊本県大隊及び愛知県大隊が日田市にて、捜索・救助活動を実施した。その後、7月7日には、中津市での活動がおおむね終了したため、宮崎県大隊は日田市に部隊移動した。7月9日には、日田市での捜索・救助活動の進捗を踏まえ、消防庁長官が部隊移動を求めたことから、佐賀県大隊及び愛知県大隊は、大分県から福岡県へ出動した。さらに、熊本県大隊及び宮崎県大隊も、日田市での捜索・救助活動がおおむね終了したため、活動を地元消防機関に引継ぎ、同日、熊本県大隊は、消防庁長官からの部隊移動の求めを受け福岡県へ出動し、宮崎県大隊は活動を終了した。
中津市や日田市においては、河川の氾濫や土砂崩れにより発生した孤立地域に、水陸両用バギーなども活用しながら進入し、安否確認を含め捜索・救助活動を広範囲に実施した。

水陸両用バギーによる捜索・救助活動の写真
水陸両用バギーによる捜索・救助活動
全地形対応車による孤立地域への進入の写真
全地形対応車による孤立地域への進入
指揮支援本部(朝倉市役所)の写真
ヘリコプターのホイストによる救助
(山口県消防防災航空隊提供)

さらに、愛知県大隊の全地形対応車が、土砂等が堆積した道路障害も乗り越え、孤立地域への効率的な進入を図った。
航空小隊は、ヘリコプターのホイスト等により、陸上からの救助が難しい孤立地域における住民の救助活動を行い、孤立した福祉施設での要救助者16人を救助するなど、派遣期間中に19人を救助した。また、消防庁ヘリ5号機(高知県消防防災航空隊運航)のヘリサットシステムを活用し、上空からの効果的な情報収集活動を実施した。
これらの懸命な活動の結果、陸上隊及び航空小隊を合わせて29人を救助した。
こうした緊急消防援助隊の活動は、7月5日から7月10日までの6日間にわたり行われ、出動隊の総数は、9県(愛知県、山口県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県及び宮崎県)延べ528隊、2,090人となった。また、活動のピークは、7月7日で、100隊、408人であった。
(イ)福岡県
7月6日に消防庁長官から出動の求めを受けた1府7県(大阪府、兵庫県、奈良県、岡山県、広島県、山口県、香川県及び長崎県)の緊急消防援助隊は、朝倉市及び東峰村に向け、迅速に出動した。
広島市消防局指揮支援隊は、部隊長の属する指揮支援隊として福岡県庁に設置された消防応援活動調整本部に参集し、福岡県、福岡県内消防本部及び消防庁派遣職員のほか、警察、自衛隊、海上保安庁、DMAT、気象庁、国土交通省等の関係機関とも連携し、被害情報の収集・整理、緊急消防援助隊の活動管理等を行った。また、二次災害の発生を防止するため、降雨による活動中止判断の基準を明確にし、指揮支援隊長を通じて各県大隊長に周知した。
岡山市消防局指揮支援隊は、朝倉市役所に参集し、被害情報の収集・整理、朝倉市及び東峰村に派遣された広島県大隊、山口県大隊及び長崎県大隊の活動管理等を行った。また、7月9日からは、大分県から福岡県に部隊移動した愛知県大隊及び佐賀県大隊の活動管理を行った。
熊本市消防局指揮支援隊は、7月10日に日田市から朝倉市に部隊移動し、被害情報の収集・整理、先に朝倉市に部隊移動していた愛知県大隊及び佐賀県大隊並びに7月10日に部隊移動した熊本県大隊の活動管理等を行った。

指揮支援本部(朝倉市役所)の写真
指揮支援本部(朝倉市役所)
(熊本市消防局提供)

陸上隊は、当初、広島県大隊、山口県大隊及び長崎県大隊が、東峰村にて、捜索・救助活動を実施した。その後、7月9日には東峰村の捜索・救助活動がおおむね終了したため、全ての県大隊は朝倉市へ部隊移動した。また、7月9日には愛知県大隊及び佐賀県大隊が、7月10日には熊本県大隊が大分県から部隊移動し、朝倉市にて捜索・救助活動を実施した。7月25日には、朝倉市での捜索・救助活動がほぼ終了したため、地元消防機関及び県内応援消防本部に引継ぎ、活動を終了した。
東峰村においては、内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)において研究開発されているドローンにより、孤立地域での安否確認作業等を行った。なお、ドローンで収集した被災地の映像は、消防庁をはじめ関係機関でも共有し、被害状況の把握に活用した。
朝倉市においては、河川の氾濫や土砂崩れにより大量に堆積したがれきや流木が流れ込んだ家屋などが多数あり、自衛隊、民間企業等の重機を使用して、がれきや流木を排除しながら捜索・救助活動を広範囲に実施した。
また、消防庁と独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との「消防防災における航空機の利用に関する技術協力の推進に係る取り決め」に基づき、消防庁がD-NET(災害救援航空機情報共有ネットワーク)を活用し、福岡県災害対策本部と行方不明者の検索場所等の共有を図った。

重機を使用した捜索・救助活動の写真
重機を使用した捜索・救助活動
(熊本市消防局提供)
D-NETの活用の写真
D-NETの活用
(岡山市消防局提供)
河川の一斉捜索の状況の写真
河川の一斉捜索の状況

また、筑後川流域や有明海においても、地元消防機関、警察及び自衛隊と連携し、大規模な一斉捜索を実施した。
航空小隊は、上空からの効果的な情報収集活動を実施するとともに、ヘリコプターのホイスト等により、陸上からの救助が難しい孤立地域における住民の救助活動を行った。朝倉市では、7月7日に複数のヘリコプターを機動的に活用し孤立地域から23人を救助するなど、派遣期間中に24人の救助を行った。また、陸上隊と航空小隊が連携し、進入困難な孤立地域や到着に長時間を要することが見込まれた地域において、ヘリコプターにより隊員を投入し、救助活動を行った。
これらの懸命な活動の結果、陸上隊及び航空小隊を合わせて30人を救助した。
こうした緊急消防援助隊の活動は、7月6日から7月25日までの20日間にわたり行われ、出動隊の総数は、1府11県(愛知県、大阪府、兵庫県、奈良県、岡山県、広島県、山口県、香川県、高知県、佐賀県、長崎県及び熊本県)延べ2,562隊、9,166人となった。また、活動のピークは、7月11日で、170隊、627人であった。

上空からの偵察活動の航空写真
上空からの偵察活動
(岡山県消防防災航空隊提供)

エ 消防団

被害のあった福岡県内及び大分県内では、各消防団が、住民の避難誘導や救助活動、安否確認をはじめ孤立集落の確認や巡回活動など、地域の安心・安全を守るための幅広い活動を実施した。
そのような中、日田市においては、巡回活動中の消防団員1人が崩土に巻き込まれて犠牲となった。
消防団の主な活動内容については、次のとおり。

  • 住民の避難誘導、救助活動、安否確認
  • 道路、河川や孤立集落の確認、巡回活動
  • 土砂災害警戒のためのブルーシート張り、がれき除去
  • 警戒活動、土のう積み
  • 行方不明者の捜索活動、土砂・流木の撤去、河川の捜索
  • ポンプ車による排水作業
  • 給水活動、孤立地域への食料の運搬 等
消防団の活動の写真
消防団の活動
(朝倉市消防団)

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