平成29年版 消防白書

3.豪雨災害を踏まえた今後の対応

消防庁では、内閣府をはじめ関係省庁とともに、被害の大きかった朝倉市、東峰村、日田市において、事前の備えにより適切な住民の避難行動等に繋がった事例等を収集するとともに、今後の風水害対策の参考とするため、住民の避難行動等に関する現地調査を行った。この現地調査を踏まえて10月に開催された「平成29年7月九州北部豪雨災害を踏まえた避難に関する検討会」において、今後の対応等が取りまとめられた。消防庁では、これらについて地方公共団体に対し取組を依頼する通知を発出するとともに、関係省庁と連携して地域の防災力向上に取り組んでいく。

(1)現地調査結果

ア 地域の防災力(自助・共助)の強化

  • 朝倉市、東峰村、日田市では、住民の防災意識が高く、今回の災害では、住民が自ら危険を判断したことや、近隣住民からの避難の呼び掛けがあったことなどにより避難行動が取られていた。
  • これは、平成24年九州北部豪雨の経験も踏まえ、行政と住民が日頃から取り組んできた防災・減災への取組により、地域の方々の防災への意識が高く、自ら行動することが出来たためと考えられ、今回の災害では、甚大な被害が生じているものの、これらの取組により一定程度、被害の軽減も図られたと考えられる。

イ 情報の提供・収集

  • 平成24年九州北部豪雨の経験に基づき水害の危険性を判断したため、その時大きな被災がなかった河川(今回被災した山地部の中小河川)の被災は想定していなかった。
  • 水位計等の現地情報を把握する手段が設置されていない河川では発災のおそれの把握が難しかった。
  • 流域雨量指数の予測値(洪水警報の危険度分布)が十分認知されておらず、災害対応へ生かされていなかった面もあった。
  • 河川管理者や気象台からのホットラインによる直接的な助言が有効だった。

ウ 避難勧告等の発令・伝達

  • 中小河川の一部について洪水の避難勧告等の発令基準が未策定又は定量的な基準ではなかった。
  • 避難勧告等を発令したタイミングでは、一部の河川の氾濫が発生しており、避難行動が困難であったおそれがあった。
  • 土砂崩れや落雷・停電に伴う通信障害等により不通となる伝達手段があり、これらの伝達手段による情報の伝達ができなかった時間帯・エリアもあったが、複数の伝達手段を整備していたことから避難勧告等の伝達手段を確保できていた。
  • 防災行政無線(屋外拡声子局)は、豪雨の中では十分な伝達を期待できないおそれがあった。また、ショッピングセンターや旅館等の自宅以外の滞在者に対しては、防災行政無線(屋外拡声子局)や、緊急速報メールの手段によらざるを得ない状況だった。

エ 防災体制

  • 災害対策マニュアルや地域防災計画に基づき、災害発生の切迫度に応じ、段階的に拡充する体制が整備されていた。
  • 避難勧告等の発令の訓練を経験したことにより、ちゅうちょなく発令できたとの意見があった。
  • 元防災担当職員が機動的に災害対応に従事している事例がみられ、災害対応に効果的だった。
  • 災害時の役割分担が一部で明確ではなく、膨大な電話対応に追われ、大量の情報を俯瞰しながら確認し、必要な情報を見極めることが難しい場面もあったなど、災害対応に混乱がみられた事例もあった。
  • 庁舎内に災害対応用の事務室や大型モニター等の設備がなく情報共有に苦慮したなど、災害対応の設備が十分でなかった事例もあった。

(2)今後の対応

今回の災害での教訓を踏まえ、避難勧告等に関するガイドラインの内容を研修等を通じて周知するとともに、以下について取り組んでいく。

ア 地域の防災力(自助・共助)の強化

  • 住民が自ら水害・土砂災害から身を守るための手引書により、自助・共助の取組を促進する。その際、今回の現地調査を通じて得られた、自助・共助を強化する各自治体の取組についても参考事例として記載し、地域の災害の危険性の理解促進に向けた平時からの取組の重要性についても周知する。
  • 水害・土砂災害時に適切に避難行動がとれるよう、地域の実情に応じた防災訓練の実施を促進する。

イ 情報の提供・収集

  • 避難勧告等の早期発令に向けた水位情報等の迅速な把握のための水位計・監視カメラ等の設置を促進する。

ウ 避難勧告等の発令・伝達

  • 中小河川における避難勧告等の発令基準の策定を促進する。
  • 情報伝達手段の多重化等を促進する。

エ 防災体制

  • 災害対策本部機能等の強化を促進する。

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