平成29年版 消防白書

4.安全衛生体制の整備

(1)安全衛生体制

消防は、労働安全衛生法に規定する安全管理者及び安全委員会の設置が義務付けられていないものの、消防庁においては、公務災害の発生を可能な限り防止するとともに、消防活動を確実かつ効果的に遂行するため、消防本部における安全管理体制の整備について、「消防における安全管理に関する規程」、「訓練時における安全管理に関する要綱」、「訓練時における安全管理マニュアル」及び「警防活動時等における安全管理マニュアル」をそれぞれ示し、体制整備の促進及び事故防止の徹底を図ってきた。
また、近年、各種災害の態様が複雑多様化・大規模化の様相を強めているとともに、警防活動時及び訓練時などでの公務による死傷事案も依然として発生している状況を改善するため、平成22年度から平成23年度にかけて開催した、「警防活動時及び訓練時における安全管理に係る検討会」等における検討結果を踏まえ、両マニュアルの見直しを行った。
さらに、東日本大震災により多くの消防職団員が犠牲になるなど、改めて消防本部及び消防団の安全管理のあり方が問われることになったことから、警防活動時等における安全管理マニュアルについて、「東日本大震災を踏まえた大規模災害時における消防団活動のあり方等に関する検討会」や「大規模災害発生時における消防本部の効果的な初動活動のあり方検討会」等における安全管理に関する検討結果を踏まえ、特に津波災害時における消防職団員の警防活動時における安全管理について検証を行い、平成25年度に見直しを行った。
平成27年6月には、消防庁に安全管理に関する常設の検討会を設置し、消防職団員が死傷する重大な事故が発生した場合に再発防止対策を速やかに検討し、関係者と共有することとした。
平成28年3月には「警防活動時等における安全管理マニュアル」及び「訓練時における安全管理マニュアル」の一部改正を行った。同改正では、平成26年度救助技術の高度化等検討会(土砂災害時の救助活動のあり方)における検討結果を踏まえて、「風水害」の項目を更新したほか、訓練時における安全管理の基本的な考え方を追記した。
また、消防職員の衛生管理についても、「消防における衛生管理に関する規程」を示すなどの対応を行っている。

(2)消防団員の安全対策

東日本大震災において、被災地の消防団員は、自らも被災者であったにもかかわらず、郷土愛護の精神に基づき、水門等の閉鎖、住民の避難誘導、救助、消火、避難所の運営支援、行方不明者の捜索、発見されたご遺体の搬送・安置、さらには信号機が機能しない中での交通整理、夜間の見回りまで、実に様々な活動に献身的に従事した。
一方で、254人にも上る消防団員が犠牲となったことを受けて、消防庁では、平成23年11月から、「東日本大震災を踏まえた大規模災害時における消防団活動のあり方等に関する検討会」を開催し、その報告を踏まえ、津波災害時の消防団員の安全確保対策について、平成24年3月9日付け消防災第100号「津波災害時の消防団員の安全確保対策について(通知)」を発出し、「津波災害時の消防団活動・安全管理マニュアル」の作成を促進してきた。
同マニュアルの策定状況等について、平成26年度に引き続き、海岸を有する市町村及び津波の遡上による被害が想定されている市町村に対し調査を行った(第2-3-3図)。

第2-3-3図 安全管理マニュアル策定状況(平成29年4月1日現在)

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

第2-3-3図 安全管理マニュアル策定状況(平成29年4月1日現在)の画像。市町村数664のうち、安全管理マニュアル作成済みは629市町村で94.7%、策定中は33市町村で5.0%などとなっている。

※海岸を有する市町村及び津波の遡上による被害が想定されている市町村664市町村を対象に調査を実施

調査結果によると、平成29年4月1日現在、94.7%の市町村において安全管理マニュアルが策定済みであり、昨年10月1日現在に比べて2.9ポイントの増加がみられた一方で、5.3%の市町村においては未策定という状況であった。消防庁としては、全ての関係市町村において早急に安全管理マニュアルが策定されるよう引き続き働き掛けを行うこととしている。

(3)惨事ストレス対策

消防職団員は、火災等の災害現場などで、悲惨な体験や恐怖を伴う体験をすると、精神的ショックやストレスを受けることがあり、これにより、身体、精神、情動又は行動に様々な障害が発生するおそれがある。このような問題に対して、消防機関においても対策を講じる必要があり、消防庁では、消防職団員への強い心理的影響が危惧される大規模災害等が発生した場合、現地の消防本部等の求めに応じて、精神科医等の専門家を派遣し、必要な支援を行う「緊急時メンタルサポートチーム」を平成15年に創設した。これまでに、平成29年10月1日現在62件の派遣実績がある。
なお、東日本大震災においては、凄惨な現場も多く、活動に当たった多くの消防職団員に惨事ストレスの発生が危惧されたことから、消防庁では、平成23年度に被災地の延べ8消防本部、8消防団に、平成24年度には4消防団に、「緊急時メンタルサポートチーム」を派遣するとともに、平成23年度には、岩手県、宮城県及び福島県をはじめ、全国主要都市において、惨事ストレスセミナー及び個別相談会を9回開催し、惨事ストレスに対するケアを行った。
平成24年度には、東日本大震災における消防職団員の惨事ストレスの状況やこれまでの惨事ストレス対策の実施状況を踏まえつつ、より効果的な惨事ストレス対策の充実強化を図るために設置した「大規模災害時等に係る惨事ストレス対策研究会」において、消防本部及び消防団における惨事ストレス対策に関する実態調査及び分析を行い、その結果を報告書として取りまとめた。
この検討結果を踏まえ、消防庁では消防職団員に対する惨事ストレス対策に関する教育、普及・啓発、おおむね都道府県域を範囲とした広域的な体制整備、消防職団員の家族への惨事ストレスの周知・理解の促進、緊急時メンタルサポートチームの充実強化などの取組を進めている。

関連リンク

平成29年版 消防白書(PDF版)
平成29年版 消防白書(PDF版) 平成29年版 消防白書(一式)  はじめに  特集1 平成29年7月九州北部豪雨の被害と対応  特集2 糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方  特集3 埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた対応  特集4 消防の...
はじめに
はじめに 昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする我が国の自治体消防制度が誕生してから、平成30年3月には70年を迎えます。この間、関係者の努力の積重ねにより消防制度や施策、消防防災施設等の充実強化が図られ、火災予防・消火、救急、救助はもとより、自然災害への対応や国民保護まで広範囲に...
1.災害の概要
特集1 平成29年7月九州北部豪雨の被害と対応 1.災害の概要 (1)気象の状況 平成29年6月30日から7月4日にかけて、梅雨前線が北陸地方や東北地方に停滞し、その後ゆっくり南下して、7月5日から10日にかけては朝鮮半島付近から西日本に停滞した。 また、7月2日9時に沖縄の南で発生した台風第3号は...
2.政府・消防庁・消防機関等の活動
2.政府・消防庁・消防機関等の活動 (1)政府の活動 内閣官房は、情報の集約、内閣総理大臣等への報告、関係省庁との連絡調整を集中的に行うため、7月3日16時46分に総理大臣官邸に情報連絡室を設置した。7月5日17時51分に福岡県に大雨特別警報が発表され、予想されるその後の気象状況により、甚大な被害が...