平成29年版 消防白書

5.主な課題と取組等

(1)Jアラートによる迅速な情報伝達

ア 全国瞬時警報システム(Jアラート)

武力攻撃等の際に住民が適切な避難を速やかに行うためには、住民に正確な情報を迅速に伝達することが重要となることから、消防庁では、地方公共団体と連携してJアラート(第3-1-2図)の整備を推進している。

第3-1-2図 Jアラートの概要

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第3-1-2図 Jアラートの概要の画像。内閣官房からの武力攻撃情報、及び気象庁からの緊急地震速報・津波情報等は、それぞれ消防庁の送信システムを経由して、地方公共団体に送信される。また、携帯電話会社を経由して携帯電話にも送信される。

Jアラートとは、弾道ミサイル攻撃に関する情報や緊急地震速報、津波警報、気象警報などの緊急情報を、人工衛星及び地上回線を通じて送信し、市町村防災行政無線(同報系)等を自動起動することにより、人手を介さず瞬時に住民等に伝達することが可能なシステムである。弾道ミサイル攻撃に関する情報など国民保護に関する情報は内閣官房から、緊急地震速報、津波警報、気象警報などの防災気象情報は気象庁から、消防庁の送信設備を経由して全国の都道府県、市町村等に送信される。
Jアラートは平成19年2月に4市町で運用を開始し、以降もシステムの改修・高度化を行っている。平成23年度にはJアラートの送信機能を多重化するため、平成23年度補正予算(第3号)を活用して消防庁に設置しているJアラートの主局(関東局)と同等の送信・管理機能を有するバックアップ局(関西局)を整備し、平成25年5月から運用を開始しており、これによって災害に強いシステムへと強化された。また、気象業務法改正により平成25年8月から新たに創設された気象等の特別警報について、Jアラートで市町村の情報伝達手段を自動起動し、瞬時に住民への伝達ができるよう、気象庁と連携してJアラートの改修を行い、平成26年4月から運用を開始した。さらに、住民や登山者に火山が噴火したことを端的にいち早く伝えることにより、身を守る行動がとれるよう、気象庁が平成27年8月に配信を開始した「噴火速報」についても、平成28年3月から、Jアラートによる運用を開始したところである。

イ Jアラートの整備状況

各市町村のJアラートの整備状況については、Jアラート受信機は平成25年度までに、Jアラートによる自動起動装置は平成28年度までに全ての市町村において整備が完了した。今後は、市町村防災行政無線(同報系)のほか、音声告知端末、コミュニティ放送やケーブルテレビ、登録制メール等とJアラートとの連携を進め、Jアラートによる情報伝達手段の多重化を進めることが必要である(第3-1-3図)。

第3-1-3図 Jアラートによる自動起動が可能な情報伝達手段の保有状況(手段数別)

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第3-1-3図 Jアラートによる自動起動が可能な情報伝達手段の保有状況(手段数別)の画像。1,741市町村のうち、3手段以上が820市町村で47.1%、2手段が671市町村で38.5%、1手段が250市町村で14.4%。

なお、消防庁においても、国民にリアルタイムで緊急情報を提供するために、平成25年12月から「Lアラート(平成26年8月に「公共情報コモンズ」の新たな名称として導入)」へ、Jアラートで配信される弾道ミサイル情報等の配信を開始した。その後、平成26年2月からはLアラート経由で、ヤフー株式会社が運営する「Yahoo!防災速報」においてもJアラートの弾道ミサイル情報等が提供されることとなった。さらに、Jアラートの弾道ミサイル情報等については、平成26年4月から、緊急速報メールによって国から直接、携帯電話利用者へ配信することとしたところである。

ウ Jアラートの訓練

消防庁では、Jアラートによる住民への情報伝達に万全を期すため、関係省庁と連携しながら、全てのJアラート情報受信機関を対象とした導通試験を毎月実施し、地方公共団体の任意で訓練用の緊急地震速報を自動放送することができる機会を年2回設けているほか、Jアラートを運用する全ての地方公共団体を対象とした全国一斉の情報伝達訓練を年1回実施している。平成28年11月29日に実施した全国一斉情報伝達訓練では、各地方公共団体のJアラートの運用状況に応じて情報伝達手段を起動させる等の訓練を実施し、47都道府県及び1,738市町村が参加した。このうち、市町村防災行政無線(同報系)の自動起動訓練の実施は1,225団体、音声告知端末については264団体、コミュニティ放送については81団体、CATV放送については41団体であった(第3-1-4図)。訓練の結果、Jアラート機器(受信機又は自動起動装置)に不具合のあった団体は9団体、Jアラート機器以外(市町村防災行政無線(同報系)など)に不具合のあった団体は15団体であった。この訓練で不具合があった団体及び自動起動訓練を実施しなかった団体を対象に平成29年2月21日に再訓練を実施、175団体が参加した。不具合のあった団体については、その原因を調査し、早急に改善を図るとともに、今後も引き続き訓練等の充実を図り、Jアラートによる情報伝達が確実に実施されるよう取り組んでいくこととしている。

第3-1-4図 Jアラートの全国一斉情報伝達訓練において自動起動訓練を行った情報伝達手段の状況

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第3-1-4図 Jアラートの全国一斉情報伝達訓練において自動起動訓練を行った情報伝達手段の状況の画像。同報系防災行政無線が1,225市町村、無線(屋外スピーカ)が78市町村、有線(屋外スピーカ)が95市町村、コミュニティ放送が81市町村、CATV放送が41市町村、音声告知端末が264市町村、登録制メールが218市町村。

(2)市町村における避難実施要領のパターンの作成

国民保護法では、市町村長は、住民に対して避難の指示があったときは、避難実施要領を定めなければならないと規定されている。この避難実施要領は、避難の経路、避難の手段等を定めるものであり、極めて迅速に作成しなければならないものであることから、その作成を容易にするため、基本指針では、市町村は複数の避難実施要領のパターンをあらかじめ作成しておくよう努めることとされている。
しかしながら、避難実施要領のパターンを作成済みの市町村は平成29年4月1日現在で45%にとどまっており、作成率の向上に向けた一層の取組が求められる。このため、消防庁としては、平成23年度に「「避難実施要領のパターン」作成の手引き」を作成し地方公共団体に配付するなど、都道府県と連携しながら作成の支援を行っている。

(3)安否情報システムの運用

武力攻撃等により住民が避難した場合などにおいては、家族等の安否を確認できるようにすることが重要である。国民保護法では、総務大臣及び地方公共団体の長は、武力攻撃事態等において、避難住民及び死亡又は負傷した住民の安否に関する情報を収集・整理し、国民からの照会に対し、速やかに回答することとされている。
このため、消防庁では、地方公共団体の職員等が避難所や病院などで収集した安否情報*4を、パソコンを使って入力でき、さらに全国データとして検索可能な形にできる「安否情報システム」を導入し、平成20年4月から運用を開始した(第3-1-5図)。平成22年3月には、情報入力や検索をより効率的に行えるようにするため、あいまい検索の機能等を付加した。また、平成25年3月には、システム開発後初めてのシステム更改を行い、入力の簡素化を図るとともに、データ出力機能を付加した。システム更改に伴い「安否情報システムを利用した安否情報事務処理ガイドライン」(消防庁ホームページURL:http://www.fdma.go.jp/html/intro/form/pdf/kokuminhogo_unyou/kokuminhogo_unyou_main/anpi_Gaido.pdf参照)及び「操作説明書」も改正した。平成29年4月から災害対策基本法への対応等のため、2度目となるシステム更改を行い、平成30年3月中に新システムの運用を開始する予定である。

第3-1-5図 安否情報の流れ(関係機関相関イメージ)

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第3-1-5図 安否情報の流れ(関係機関相関イメージ)の画像。市町村が避難所・病院・警察署から取集し、都道府県へ整理・報告する。また、都道府県は総務省(消防庁)に整理・報告する。国民は、市町村・都道府県・総務省(消防庁)へ照会し、回答を得る。

安否情報システムは自然災害でも活用できる仕様となっており、平成23年の東日本大震災においても使用されたところであるが、これが現実の災害で安否情報システムが使用された初の事例となった。
迅速・的確な安否情報の収集及び提供のためには、今後とも地方公共団体が安否情報を入力するための運用体制の強化を図ることが重要であり、消防庁では、警察・医療機関等の関係機関との協力体制の構築などの支援に取り組んでいる。
また、平成23年度から地方公共団体職員のシステムに対する理解促進・操作習熟を目的に、全国一斉の操作訓練を実施しており、平成27年4月からは、随時訓練を実施できるように環境を整備している。今後も定期的な訓練を実施するとともに、引き続きシステム効率化の検討を行う。

*4 安否情報:氏名、出生の年月日、男女の別、住所、国籍、個人を識別するための情報等をいう。

(4)訓練

国民保護計画等を実効性のあるものとするためには平素から様々な事態を想定した実践的な訓練を行い、国民保護措置に関する対処能力の向上や関係機関との連携強化を図ることが重要である。
国民保護法においても、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長等並びに指定公共機関及び指定地方公共機関は、それぞれの国民保護計画又は国民保護業務計画で定めるところにより、それぞれ又は他の指定行政機関の長等と共同して、国民保護措置についての訓練を行うよう努めなければならないとされている。
このため、消防庁では、内閣官房等の関係機関と連携し、国と地方公共団体が共同で行う国民保護共同訓練の実施を促進するとともに、訓練を通じて国民保護法等に基づく対応を確認し、その実効性の向上に努めている。
平成29年度の国民保護共同訓練は、28団体が実働訓練又は図上訓練を実施する(第3-1-1表)ほか、今般の我が国を取り巻く環境が非常に厳しいことを踏まえ、弾道ミサイルが我が国に落下する可能性がある場合における対処について、より一層国民の理解を促進するため、平成29年3月から国と地方公共団体の共同訓練として、我が国への弾道ミサイルの飛来を想定した住民避難訓練を実施することとしている(第3-1-2表)。今後も新たな要素を加味するなどしながら、訓練の充実強化に努めていくこととしている。

第3-1-1表 平成29年度国民保護共同訓練(予定)

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第3-1-1表 平成29年度国民保護共同訓練(予定)の画像。

第3-1-2表 平成29年弾道ミサイルを想定した住民避難訓練の実施実績(平成29年10月31日現在)

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第3-1-2表 平成29年弾道ミサイルを想定した住民避難訓練の実施実績(平成29年10月31日現在)の画像。
列車内で身を守る住民の写真
列車内で身を守る住民
物陰に身を隠す住民の写真
物陰に身を隠す住民

(5)地方公共団体職員の研修・普及啓発

地方公共団体は、前述のとおり、国民保護措置のうち、警報の通知・伝達、避難の指示、避難住民の誘導や救援など住民の安全を直接確保する重要な措置を実施する責務を有している。これらの措置は関係機関との密接な連携の下で行う必要があり、職員には、制度全般を十分理解していることが求められる。
このため、職員に対する適切な研修等が重要であり、消防大学校においては、地方公共団体の一般行政職員や消防職員が危機管理や国民保護に関する専門的な知識を修得するためのカリキュラムとして危機管理・国民保護コースを設けている。また、消防庁においては、地方公共団体の防災・危機管理担当職員を対象とした防災・危機管理研修会を、全国各地において開催し、参加者が国民保護を含めた防災・危機管理の基礎知識等を速やかに習得できるよう取り組んでいる。都道府県の自治研修所や消防学校においても、国民保護に関するカリキュラムの創設等に積極的に取り組むことが望まれる。
また、地震・風水害等の自然災害を含めた危機管理事案の発生時において、陣頭指揮をとる市町村長のリーダーシップが極めて重要であることを踏まえ、消防庁では、市町村長を対象とした防災・危機管理トップセミナーを実施している。平成29年6月7日には、全国より約200人の市長等の参加の下、内閣府とともに全国防災・危機管理トップセミナーを開催し、過去の災害に際し、陣頭指揮に当たった経験を持つ市長等を招き、講演を行った。また、都道府県においても、区域内の市町村長を対象とした都道府県防災・危機管理トップセミナーを順次開催している。
さらに、国民保護措置を円滑に行うためには、消防団や自主防災組織をはじめとして、住民に対しても国民保護法の仕組みや国民保護措置の内容、避難方法等について、広く普及啓発し、理解を深めていただくことが大切である。
このため、消防庁では、啓発資料等として、これまでに、地方公共団体の担当職員や消防団・自主防災組織のリーダー向けに国民保護の基本的な仕組み、消防の役割、訓練のあり方等について、分かりやすく示した冊子やDVD等を作成し、地方公共団体が行う普及啓発活動に活用できるようにしている。

(6)地方公共団体における体制整備

都道府県知事及び市町村長は、国民保護計画で定めるところにより、それぞれの区域に係る国民保護措置を的確かつ迅速に実施するために、夜間・休日等を問わずに起きる事案に対応可能な体制を備えた組織を整備することが求められる。一方、地震等の自然災害や新たな感染症など、住民の安心・安全を脅かす様々な危機管理事案に対しても、同様の対応が強く求められている。
このため消防庁では、平成18年度より「地方公共団体の危機管理に関する懇談会」を開催し、危機管理について知識・経験を有する有識者からの意見・助言を頂き、施策への反映に努めている。このほか、地方財政措置として、平成29年度も引き続き、国民保護対策に要する経費を交付税算定上、基準財政需要額に計上するなど、地方公共団体の体制強化の支援に当たっている。

(7)特殊標章等

指定行政機関の長、地方公共団体の長等は、武力攻撃事態等においては、指定行政機関や地方公共団体の職員で国民保護措置に係る職務を行う者又は国民保護措置の実施に必要な援助について協力をする者に対し、ジュネーヴ諸条約の追加議定書*5に規定する国際的な特殊標章及び身分証明書(以下「特殊標章等」という。)を交付し、又は使用させることができる。これは、国民保護措置に係る職務を行う者等及び国民保護措置に係る職務のために使用される場所等を識別させるためのものである。この特殊標章等については、国民保護法上、みだりに使用してはならないこととされており、各交付権者においては、それぞれ交付対象者に特殊標章等を交付する際の取扱要領を定め、交付台帳を作成すること等により、特殊標章等の適正使用を担保することが必要である(第3-1-6図)。

第3-1-6図 特殊標章

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第3-1-6図 特殊標章の画像。国民保護措置に係る職務等を行う者や、国民保護措置のために使用される場所、車両、船舶、航空機などに使用する。

特殊標章(識別対象)
・国民保護措置に係る職務等を行う者
・国民保護措置のために使用される場所、車両、船舶、航空機など

消防庁においては、関係省庁間の申合せ等を踏まえ、消防庁特殊標章交付要綱を作成し、地方公共団体や消防機関に対して、各交付権者が作成することとなっている交付要綱の例を通知するなど、特殊標章等が適正に取り扱われるよう取り組んでいる。

*5 ジュネーヴ諸条約の追加議定書:1949年(昭和24年)8月12日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書Ⅰ)第66条3

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