平成29年版 消防白書

特集3 埼玉県三芳町倉庫火災を踏まえた対応

1.埼玉県三芳町倉庫火災

(1)火災の概要

平成29年2月16日、埼玉県三芳町の大規模倉庫において、焼損床面積約45,000m²(調査中)、発生から鎮火に至るまでに約12日間を要するという大規模倉庫火災が発生した。
この火災では、在館者全員が屋外に避難したが、初期消火の際に、このうち2人が負傷した。
本火災の出火場所は、1階の端材室(倉庫内各所から専用のコンベヤにより運ばれてきた廃段ボールが開口部(2階部分)から落とされ、集積される場所)であり、火災の原因については、調査中である。

火災時の建物の状況(2月16日12時頃)の写真
火災時の建物の状況(2月16日12時頃)
(埼玉県防災航空隊提供)

(2)出火建物の概要

出火建物は、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造の地上3階建てで、建物全体の幅が約240m、奥行きが約109m、延べ面積が71,891.59m²の大規模な物流倉庫である。
建物内部には、商品の保管や仕分け等を行うエリアがあり、商品等を運ぶためのコンベヤが多数設置され、商品の搬入・仕分け・発送等に係る従業員が多数勤務していた。
また、建物内部には、建築基準法に基づき、面積区画として床面積1,500m²(1階のスプリンクラー設備設置場所は3,000m²)以下ごとに防火壁と防火シャッターで形成される防火区画が設けられ、竪穴区画として階段室、エレベーター室のほか、一部のコンベヤ等の床貫通部において防火区画が設けられていた。
建物外周は、物品の搬入・搬出のためのトラックヤード以外は屋外への開口部が少ない構造となっている。
出火建物には、消防法の技術基準に従い、消火器、屋内消火栓設備、スプリンクラー設備(一部)、屋外消火栓設備、自動火災報知設備、誘導灯、消防用水及び総合操作盤が設置されていた。

(3)初動対応の状況

2月16日9時ごろから端材室で作業に当たっていた協力会社社員が、端材室内で炎が上がっているのを発見した。発見者は消火器で消火を試みたが、消火できなかった。
自動火災報知設備の地区音響装置が9時07分ごろに鳴動し、火災の発見者と複数の従業員で消火器による消火を試みたが、火勢が強く消火には至らなかった。
端材室で初期消火に当たっていた従業員が、9時14分に携帯電話で119番通報を行った。
火勢が強いため、従業員が最寄りの屋外消火栓設備(2基)からホースを延長し、バルブを開放したが、ポンプ起動ボタンを押さなかったため、規定の水圧、水量が得られなかった。
消防隊が9時21分に到着し、消火活動を引き継いだ。この時点で端材室内は一面が炎に包まれた状態であったが、早期に火勢を鎮圧し、1階のほかの部分への延焼は生じなかった。

(4)延焼拡大の状況

2階で作業をしていた従業員が2月16日9時8分ごろに焦げくさい臭いを感じ、その後、端材室上部の開口部(2階部分)付近から火炎が出ているところを発見しており、出火から短時間のうちに1階端材室にある廃段ボールは急激に燃焼し、端材室上部の開口部(2階部分)から強い火炎が2階に回ったものと推測される。
火元の1階端材室から2階に回った火炎は、端材室上部の開口部(2階部分)付近の可燃物を燃焼させ、2階水平方向へ延焼していったものと考えられる。端材室上部の開口部(2階部分)の周囲に防火シャッターが設けられていたが、コンベヤに接触して閉鎖障害が生じていた。同様に、防火シャッターの不作動やコンベヤ等による閉鎖障害が2階及び3階において多数確認されており、火災初期の延焼経路となったものと推測される。

特集3-1図 出火箇所(1階端材室)

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特集3-1図 出火箇所(1階端材室)の画像。出火箇所は、消火器や屋外消火栓はあるものの、スプリンクラーの設置範囲からは外れている。
1階端材室内部の状態の写真
1階端材室内部の状態

(5)消防活動の状況

2月16日、倉庫1階端材室から出火(出火時刻調査中)、入間東部地区消防組合消防本部は9時14分、火元関係者からの119番通報(携帯電話)により覚知した。
第1出場で、指揮隊1隊、消防隊5隊(タンク車3台、ポンプ車2台)、救助隊1隊及び救急隊1隊の計8隊が出場した。
早期に放水活動体制を確立するとともに、出火室である倉庫1階端材室を早期に制圧したが、既に2階へ延焼拡大しており、2階は最盛期であった。
9時30分に第2出場を要請し、消防隊2隊(タンク車1台、ポンプ車1台)が出場した。また、埼玉県下消防相互応援協定に基づき、埼玉西部消防局から先行調査として指揮隊1隊及び消防隊1隊が到着した。延焼速度が早く消防力が劣勢で、消火に時間を要すると判断し、第3出場を要請するとともに県下応援第2ブロック内応援を要請した。さらに埼玉県知事に対し埼玉県下応援を要請し、県下及び埼玉県特別機動援助隊(埼玉SMART)が出場するなど、出火当日の早期に複数の部隊により消火活動を実施した。
早期の第3出場及び県内応援により、建物四方を包囲したが、出火倉庫には収容物が多く、また、2階に開口部が少なかったことから、内部進入及び注水が困難であった。
さらには、出火当日に爆発的燃焼が発生するなど、退避を余儀なくされる場面もあったが、体制を整えながら消火活動を実施した。
なお、従業員は出火後40分以内に安全に避難したことが確認されており、また、他の建物へ延焼拡大する危険性はなかった。
火災発生日の翌日以降、民間大型重機による外壁の破壊作業と放水活動を継続し、2月22日9時30分、延焼拡大の危険がなくなったことから、入間東部地区消防組合消防本部は、火災の鎮圧を判断した。
その後、残火処理や警戒活動に当たり、2月28日17時00分、入間東部地区消防組合消防本部は、鎮火を判断した。

開口部破壊状況(17日17時13分頃)の写真1

開口部破壊状況(17日17時13分頃)
(入間東部地区消防組合消防本部提供)
西面延焼状況(19日0時15分頃)の写真
西面延焼状況(19日0時15分頃)
(入間東部地区消防組合消防本部提供)

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