令和元年版 消防白書

3.これまでの取組

(1)平成6年からの取組

消防庁では、平成6年(1994年)に消防庁長官通知を発出し、都道府県に消防広域化基本計画の策定を要請して、消防の広域化を推進してきたが、市町村合併以外の要因による広域化は十分進んだとは言いがたい状況にあった。
平成18年には、消防審議会(消防庁長官の諮問機関)から、全国的・広域的な見地から消防庁が消防体制のあり方の方向性を示すとともに、都道府県の広域的な役割をより明確にすることが必要であることなどを内容とする答申がなされた。

(2)消防組織法の改正(平成18年)

消防審議会の答申などを踏まえ、平成18年に消防組織法の改正が行われ、[1]消防の広域化の理念及び定義、[2]広域化後の消防の円滑な運営を確保するための基本的な指針、[3]推進計画及び都道府県知事の関与等、[4]広域消防運営計画、[5]国の援助等が法律に規定された(第2-2-2図)。

第2-2-2図 消防組織法による消防の広域化の推進スキーム

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

第2-2-2図 消防組織法による消防の広域化の推進スキーム

(3)広域化基本指針の制定(平成18年)

消防庁では、改正後の消防組織法第32条第1項に基づき、平成18年7月に「市町村の消防の広域化に関する基本指針」(平成18年消防庁告示第33号。以下「広域化基本指針」という。)を定めた。この中で、広域化を推進する期間については、平成19年度中には都道府県において推進計画*1を定め、推進計画策定後5年度以内(平成24年度まで)を目途に広域化を実現することとされた。

*1 平成23年5月に「地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律」が施行され、都道府県による推進計画の策定は努力義務化された。

(4)広域化基本指針の改正(平成25年)

東日本大震災での教訓や類例をみない大規模災害等の発生、また、今後の災害リスクの高まり、さらに日本の総人口が減少していることを踏まえると、国、都道府県及び市町村が一体となった消防の広域化の推進による小規模な消防本部の体制強化がこれまで以上に必要となることから、平成25年4月1日に広域化基本指針を改正し、広域化を着実に推進することとした。主な改正項目は次のとおりである。

  • 広域化の推進期限を平成30年4月1日まで延長
  • 管轄人口30万以上の規模を一つの目標とすることが適当であるとされていたが、当該規模目標には必ずしも捉われず、地域の事情を十分に考慮する必要があること
  • 自主的な消防の広域化を着実に推進するために、消防広域化重点地域の枠組みを設け、国の施策や都道府県における措置を、他の消防の広域化の対象となる市町村よりも先行して集中的に実施すること

なお、従前は、指定都市の消防長が消防司監の階級*2を用いることができることとしていたが、広域化により指定都市と同等以上の規模を有する消防本部が新設されることから、平成25年4月1日に消防吏員の階級の基準(昭和37年消防庁告示第6号)を改正し、管轄人口70万以上の市町村(消防の事務を処理する一部事務組合等を含む。)の消防長についても消防司監の階級を用いることができることとした。

*2 消防吏員の階級は、消防総監、消防司監、消防正監、消防監、消防司令長、消防司令、消防司令補、消防士長及び消防士である(市町村によっては、消防士を消防副士長と消防士に区分している。)。

(5)連携・協力基本指針の制定(平成29年)

平成29年には、消防審議会から、人口減少や災害の多様化等社会環境の変化に対応し、必要となる消防力を維持していくための消防体制のあり方等について「消防の広域化及び消防の連携・協力に関する答申」が示され、消防の広域化は消防力の確保・充実のための方策として極めて有効な手段であり、今後とも、消防体制の整備・確立の手段として、最も有効なものとして推進していくことが重要であるとされたほか、直ちに広域化を進めることが困難な地域においても必要となる消防力を確保・充実していくため、消防事務の性質に応じて事務の一部について連携・協力を推進することが必要であると提言された。連携・協力の具体例としては、指令の共同運用、消防用車両の共同整備、境界付近における消防署所の共同設置、高度・専門的な違反処理や特殊な火災原因調査等の予防業務における消防の連携・協力、専門的な人材育成の推進、応援計画の見直し等による消防力の強化が挙げられている。
これを受けて、消防庁では、「消防の連携・協力の推進について」(平成29年4月1日付け消防消第59号消防庁長官通知)を発出し、その中で「市町村の消防の連携・協力に関する基本指針」(以下「連携・協力基本指針」という。)を示した。また、全国の都道府県及び市町村に対しては、引き続き、消防の広域化を推進するとともに、連携・協力基本指針を踏まえ、地域の実情に応じて、消防の連携・協力を推進するよう依頼した。なお、推進期限については、令和5年4月1日までとした。

(6)広域化基本指針の改正(平成30年)

消防庁では、平成29年の消防審議会の答申等も踏まえ、平成30年4月1日に広域化基本指針を改正した。主な改正項目は次のとおりである。

  • 広域化の推進期限を令和6年4月1日まで延長(連携・協力基本指針も併せて改正し、その推進期限も同日に延長。)
  • 広域化の推進に当たっては、消防組織法が改正された平成18年以降の取組を振り返った上で、今一度原点に立ち返り、推進計画を再策定する必要があること
  • その際、都道府県は、市町村が行った自らの消防本部を取り巻く状況と自らの消防力の分析を生かしつつ、積極的にリーダーシップを取り、都道府県内の消防体制のあり方を再度議論していく必要があること
  • 都道府県が推進する必要があると認める自主的な消防の連携・協力の対象となる市町村についても、推進計画に定めることとしたこと

なお、令和6年前後は、消防指令センターの更新時期がピークに差し掛かるため、これを契機とした広域化を後押しすることも見据えて推進期限を設定した。
また、連携・協力のうち、指令の共同運用については、[1]現場に最先着できる隊に自動で出動指令を行ういわゆる「直近指令」や、出動可能な隊がなくなった場合に指令の共同運用をしている他消防本部の隊に自動で出動指令を行ういわゆる「ゼロ隊運用」などの高度な運用により、区域内の消防力を向上させる効果が大きいこと、[2]その運用に際して人事交流が生まれるなど消防本部間の垣根を低くする効果もあり、消防の広域化につながる効果が特に大きいことから、広域化の推進と併せて、積極的に検討することとしている。

(7)これまでの取組の成果

全国の消防本部数は、平成6年(1994年)4月1日現在で931本部であったが、消防の広域化の推進や市町村合併の進展とともに減少し、平成18年4月1日現在で811本部となった。
平成18年の消防組織法の改正以降では、これまでに54地域で広域化が実現し、管轄人口10万未満の小規模な消防本部は、487本部から55本部減少して432本部(全体の約6割)となり、消防本部や消防署を設置していない非常備町村は、40町村のうち11町村が解消された(附属資料Ⅴ)。
また、連携・協力の具体例として挙げられる指令の共同運用については、47地域(192本部、12非常備町村)で行われている。平成31年4月1日現在、消防本部数は726本部(第2-2-3図)、非常備町村は29町村である。29の非常備町村は7都県に存在するが、地理的な要因から非常備である地域が多く、1都3県の21町村(非常備町村全体の72.4%)は島しょ地域である(附属資料Ⅵ)。

第2-2-3図 消防本部数と常備化率

画像をクリック(タップ)すると拡大表示します

第2-2-3図 消防本部数と常備化率

(各年4月1日現在の数値。ただし、昭和55,60年の小規模消防本部数については、各年10月1日の数値。)
(昭和24,28年は、組合と単独の合計値。)

関連リンク

令和元年版 消防白書(PDF版)
令和元年版 消防白書(PDF版) 令和元年版 消防白書 (一式)  令和元年版 消防白書 (概要版)  はじめに  特集1 最近の大規模自然災害への対応及び消防防災体制の整備  特集2 G20大阪サミット及びラグビーワールドカップ2019における消防特別警戒等...
はじめに
はじめに 昨年は、令和元年8月の前線に伴う大雨や、台風第15号、台風第19号等の幾多の自然災害に見舞われ、また、7月には京都市伏見区で爆発火災が、10月には那覇市で首里城火災が発生するなど、多くの人的・物的被害が生じました。 振り返れば、平成は、阪神淡路大震災(平成7年)や東日本大震災(平成23年)...
1.令和元年8月の前線に伴う大雨の被害と対応
特集1 最近の大規模自然災害への対応及び消防防災体制の整備 1.令和元年8月の前線に伴う大雨の被害と対応 (1)災害の概要 ア 気象の状況 令和元年8月26日に華中から九州南部を通って日本の南にのびていた前線は、27日に北上し、29日にかけて対馬海峡付近から東日本に停滞した。また、この前線に向かっ...
2.台風第15号に伴う被害と対応
2.台風第15号に伴う被害と対応 (1)災害の概要 ア 気象の状況 令和元年9月5日3時に南鳥島近海で発生した台風第15号は、発達しながら小笠原諸島を北西に進み、非常に強い勢力となって伊豆諸島南部へと進んだ。 台風は、強い勢力を保ったまま、同月9日3時前に三浦半島付近を通過し、5時前に千葉市付近に上...