令和元年版 消防白書

2.火災原因調査等及び災害・事故への対応

(1)火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査等

ア 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査等の実施

消防防災の科学技術に関する専門的知見及び試験研究施設を有する消防研究センターは、消防庁長官の火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査(消防法第35条の3の2及び第16条の3の2)を実施することとされており、大規模あるいは特異な火災・危険物流出等の事故を中心に、全国各地においてその原因調査を実施している。また、消防本部への技術支援として、原因究明のための鑑識*4、鑑定*5、現地調査を消防本部の依頼を受け、共同で実施している。
平成29年度から令和元年度*6までに実施した主な火災原因調査は第6-2表のとおりである。また、平成30年度に行った鑑識は72件、鑑定は72件である。

第6-2表 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の現地調査実施事案一覧(平成29年度から令和元年度*6までの調査実施分)

第6-2表 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の現地調査実施事案一覧(平成29年度から令和元年度までの調査実施分)

イ 火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査の高度化に向けた取組

近年の火災・爆発事故は、グループホームや個室ビデオ店のような新しい使用形態の施設での火災や、ごみをリサイクルして燃料を製造する施設での火災、あるいは、機器の洗浄を行う等の非定常作業時の火災、燃焼機器、自動車等の製品の火災といったように、複雑・多様化している。また、石油類等を貯蔵し、取り扱う危険物施設での危険物流出等の事故や火災発生件数は増加傾向にあり、危険物施設の安全対策上問題となっている。
このような火災・事故を詳細に調査し、原因を究明することは、火災・事故の予防対策を考える上で必要不可欠であり、そのためには、調査用資機材の高度化や科学技術の高度利用が必要である。
このため消防研究センターでは、走査型電子顕微鏡、デジタルマイクロスコープ、X線透過装置、ガスクロマトグラフ質量分析計、フーリエ変換型赤外分光光度計、X線回折装置等の調査用の分析機器をはじめとして、研究用の分析機器も含めて、観察する試料や状況に応じて使用する機器を選択し、火災や危険物流出等事故の原因調査を行っている。さらに、従来の研究や、調査から得られた知見を取り入れ、さらなる原因調査の高度化に向けた取り組みを行っている。
また、消防法改正により、平成25年4月から、消防本部は火災の原因調査のため火災の原因であると疑われる製品の製造業者等に対して、資料提出等を命ずることができることとなった。消防本部の依頼を受け、消防研究センターで実施する鑑識・鑑定では、電気用品、燃焼機器、自動車等の製品に関するものが増えている。これらの火災原因調査に関する消防本部からの問合せにも随時対応しており、消防本部の火災原因調査の支援のため、設備や体制の整備を図っていくこととしている。
さらに、消防研究センターでは、高度な分析機器を積載した機動鑑識車を整備しており、火災や危険物流出等事故の現場において迅速に高度な調査活動を可能とするとともに、鑑識・鑑定の支援においても活用している。令和元年6月に大阪市で開催されたG20(金融・世界経済に関する首脳会合)には、高性能分析機器を搭載した機動鑑識車と職員4人を現地警戒本部に派遣し、関連施設での火災発生時に速やかに原因調査業務に着手できるよう警戒活動を実施した。

機動鑑識車
機動鑑識車

*4 鑑識:火災の原因判定のため具体的な事実関係を明らかにすること
*5 鑑定:科学的手法により、必要な試験及び実験を行い、火災の原因判定のための資料を得ること
*6 令和元年度:令和元年度分は、令和元年12月27日現在

(2)災害・事故への対応

消防研究センターでは、火災原因調査及び危険物流出等の事故原因調査に加え、災害・事故における消防活動において専門的知識が必要となった場合には、職員を現地に派遣し、必要に応じて助言を行う等の消防活動に対する技術的支援も行っている。また、消防防災の施策や研究開発の実施・推進にとって重要な災害・事故が発生した際にも、現地に職員を派遣し、被害調査や情報収集等を行っている。
災害・事故における消防活動に対する主な技術的支援としては、平成30年9月に北海道胆振東部地震に伴い厚真町で発生した土砂災害現場に職員を派遣し、消防活動に関する技術的助言を行った。また、平成29年5月に発生し2年間燻(くすぶ)りながら燃え続けていた佐賀県多久市ボタ山火災については、平成31年2月職員を現場に派遣し、消火に関する技術的助言を行った。さらに、2019年台風第19号においても相模原市で発生した土砂災害現場に職員を派遣し、救助活動の安全確保などの技術的支援を行っている。
研究開発に係る災害・事故の調査としては、平成30年7月豪雨による土砂災害現場の現地調査を実施し、土砂災害における消防救助活動技術の研究開発にその結果を活用している。

関連リンク

令和元年版 消防白書(PDF版)
令和元年版 消防白書(PDF版) 令和元年版 消防白書 (一式)  令和元年版 消防白書 (概要版)  はじめに  特集1 最近の大規模自然災害への対応及び消防防災体制の整備  特集2 G20大阪サミット及びラグビーワールドカップ2019における消防特別警戒等...
はじめに
はじめに 昨年は、令和元年8月の前線に伴う大雨や、台風第15号、台風第19号等の幾多の自然災害に見舞われ、また、7月には京都市伏見区で爆発火災が、10月には那覇市で首里城火災が発生するなど、多くの人的・物的被害が生じました。 振り返れば、平成は、阪神淡路大震災(平成7年)や東日本大震災(平成23年)...
1.令和元年8月の前線に伴う大雨の被害と対応
特集1 最近の大規模自然災害への対応及び消防防災体制の整備 1.令和元年8月の前線に伴う大雨の被害と対応 (1)災害の概要 ア 気象の状況 令和元年8月26日に華中から九州南部を通って日本の南にのびていた前線は、27日に北上し、29日にかけて対馬海峡付近から東日本に停滞した。また、この前線に向かっ...
2.台風第15号に伴う被害と対応
2.台風第15号に伴う被害と対応 (1)災害の概要 ア 気象の状況 令和元年9月5日3時に南鳥島近海で発生した台風第15号は、発達しながら小笠原諸島を北西に進み、非常に強い勢力となって伊豆諸島南部へと進んだ。 台風は、強い勢力を保ったまま、同月9日3時前に三浦半島付近を通過し、5時前に千葉市付近に上...