特集6 消防防災ヘリコプターの安全運航体制の強化
1.消防防災ヘリコプターの墜落事故の概要
平成21年以降、4件の消防防災ヘリコプターの墜落事故が相次いで発生し、26人の消防職員等が殉職する極めて憂慮すべき事態となっている。4件の墜落事故については一人操縦士体制で運航していたことなど、根本的な事故原因の検証と解決策の実施はもちろんのこと、日常の安全対策においても改善の余地がある点については確実に対応策を講じることで、消防防災ヘリコプターの運航の安全性向上に常に努め、今後の航空消防防災体制の充実強化に全力を挙げる必要がある。

(愛知県防災航空隊提供)
(1)群馬県防災ヘリコプター墜落事故
平成30年8月10日9時13分に群馬ヘリポートを離陸した群馬県防災ヘリコプターは、10時45分の着陸予定時刻を過ぎてもヘリポートに着陸せず、12時24分に群馬県から消防庁に対して、行方不明になっている旨の連絡があった。12時57分には消防庁長官から栃木県知事、埼玉県知事、東京都知事及び新潟県知事に対して、広域航空消防応援による出動要請を行い、各都県の消防防災航空隊が群馬県に向けて出動した。14時30分に埼玉県防災航空隊が機体の一部を群馬県吾妻郡中之条町横手山付近で発見し、同機の墜落が確認され、その後、消防、警察、自衛隊等の関係機関による捜索活動が行われたが、搭乗していた9人全員の死亡が確認された。群馬県防災ヘリコプターは、「ぐんま県境稜線トレイル」の全面開通に伴う山岳遭難の発生に備えた危険箇所の確認等の地形習熟訓練を目的として飛行しており、当日の気象は、晴れのち曇り、南の風1メートル(草津町付近8時現在)であった。令和元年12月1日現在、国土交通省運輸安全委員会において、事故原因等を調査中である。
(2)長野県消防防災ヘリコプター墜落事故
平成29年3月5日13時33分に松本空港を離陸し、訓練予定場所へ向けて飛行中であった長野県消防防災ヘリコプターは、予定時刻になっても着陸連絡がなく、15時12分に長野県警のヘリコプターが、機体の一部を長野県鉢伏山付近(松本市と岡谷市の境界付近)で発見し、墜落が確認された。その後の関係機関による捜索活動の結果、搭乗していた9人全員の死亡が確認された。当日の気象は良好であり、北の風2メートルのち北西から北東の風2メートル、視程10キロメートル以上(松本空港付近13時現在)であった。国土交通省運輸安全委員会は、平成30年10月25日に事故調査報告書を公表し、原因は「山地を飛行中、地上に接近しても回避操作が行われなかったため、樹木に衝突し墜落したものと推定される。同機が地上に接近しても回避操作が行われなかったことについては、機長の覚醒水準が低下した状態となっていたことにより危険な状況を認識できなかったことによる可能性が考えられるが、実際にそのような状態に陥っていたかどうかは明らかにすることができなかった。」とされた。
(3)岐阜県及び埼玉県防災ヘリコプター墜落事故
平成21年9月、岐阜県の北アルプスで救助活動中の岐阜県防災ヘリコプターが墜落し、搭乗していた3人が死亡する事故が発生した。また、平成22年7月には、埼玉県秩父市の山中で救助活動中の埼玉県防災ヘリコプターが墜落し、搭乗していた5人が死亡する事故が発生した。いずれも、標高1,000メートルを超える山岳地帯において、ホバリング中に機体の一部を岩壁又は樹木に接触させたことが原因であった。
なお、以上4件の墜落事故において、消防庁では、消防職員の惨事ストレスケアを行うため、「緊急時メンタルサポートチーム」を派遣した。