平成20年版 消防白書

8 津波対策の推進

平成15年5月26日に発生した宮城県沖を震源とする地震においては、津波の怖さを認識しているにもかかわらず、地震の発生あるいは避難勧告等の発令があっても避難しないといった住民の行動が多く見受けられた。また、同年9月26日に発生した平成15年(2003年)十勝沖地震においては、市町村による津波避難勧告が適切に発令されなかった事例等が見受けられた。
さらに、平成16年9月5日に発生した東海道沖を震源とする地震においても、気象庁から津波警報が発せられた42市町村のうち、30市町村で避難勧告が発せられなかった。
津波被害軽減の基本は「避難すること」であり、海岸線等を有する市町村においては、地域防災計画上の規定の見直しや発災時の迅速な避難勧告等、的確な津波避難対応に努めることが必要であり、住民も受け取った情報を自分自身の問題として捉え、実際に避難行動を起こす必要がある。
 実効性のある津波避難対策を実施する上で、海岸線等を有する市町村においては、津波シミュレーション結果や過去の地震時における津波被害の記録等から想定される最大規模の津波を対象とした津波浸水予測図を作成し、これに基づき、避難対象地域、避難場所及び避難路の指定、避難勧告・指示の情報伝達、避難誘導等を定めた津波避難計画を策定する必要がある。
消防庁では、市町村がこの津波避難計画を策定する際の指針及び地域住民の参画による地域ごとの津波避難計画を策定する際のマニュアルを示すとともに、モデル地域における津波避難計画を策定する事業に取り組んでいる。
一方で、避難を円滑に実施するための避難場所や避難路、情報通信機器、津波による浸水を防止する防潮堤、津波水門等の津波防災施設などのハード面の整備を促進するとともに、津波に強い土地利用の推進や施設の安全性向上を図る必要がある。
消防庁としても、平成14年4月の東海地震対策強化地域の拡大、平成15年12月の東南海・南海地震対策推進地域の指定により、全国的に津波対策が喫緊の課題となったことを受け、津波避難タワーの設置について、平成17年度から地方債と地方交付税による財政支援を行っている。
また、消防庁では、平成18年11月と平成19年1月の千島列島を震源とする地震で津波警報等が発表され、避難指示等が発令された市町村を対象とした避難状況等の調査を行い、その結果を踏まえ、地方公共団体に対し、避難の実効性を上げるため、適切な対応を要請したところである。
また、消防庁において、平成16年度に「防災のための図記号に関する調査検討委員会」を開催し、津波避難に係る標準的図記号として、「津波注意」、「津波避難場所」、「津波避難ビル」の3種の図記号を決定した。さらに、国際的な津波防災対策の重要性が叫ばれる中で、これら図記号について、ISO(国際標準化機構)規格化に向けて提案を行ってきたところ、平成20年7月1日付けで国際規格化が決定した。

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