5 消防団の充実強化・活性化対策の推進
(1)消防団の現状と課題
全国各地で地震や風水害等の大規模災害が相次いで発生し、多くの消防団員が出動している。消防団員は、災害防ぎょ活動や住民の避難誘導、被災者の救出・救助などの活動を行い、大きな成果を上げており、地域住民からも高い期待が寄せられている。
また、東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震などの大規模地震の発生が危惧されており、さらに、平成16年6月に成立した国民保護法では、消防団は避難住民の誘導などの役割を担うことが規定された。
このように、消防団は地域における消防防災体制の中核的存在として、地域住民の安心・安全の確保のために果たす役割はますます大きくなっているが、全国の多くの消防団では、社会環境の変化を受けて様々な課題を抱えている。
ア 消防団員数の減少
消防団員数は年々減少しており、10年前の平成10年4月1日現在の962,625人に比べ73,725人7.7%減少し、888,900人となっている(第2-1-1図)。

イ 消防団員の被雇用者化
消防団員に占める被雇用者団員の割合は、10年前の平成10年4月1日現在の67.3%に比べ2.7ポイント増加し、70.0%となっており、団員の被雇用者の割合が高くなっている(第2-1―10図)。

ウ 消防団員の平均年齢の上昇
消防団員の平均年齢は、10年前の平成10年4月1日現在に比べ1.9歳上昇しており、毎年少しずつではあるが、団員の平均年齢の上昇が進んでいる(第2-1―11図)。

エ 女性の採用
女性消防団員数は、10年前の平成10年4月1日現在の8,485人に比べ8,214人増えて16,699人となっており、団員数が減少する中、年々増加している(第2-1―12図)。しかしながら、女性を採用している消防団は全消防団の46.4%にとどまっており、未採用の消防団では今後積極的に採用していくことが期待されている。

(2)消防団員確保のための消防庁の取組
消防庁では、平成15年12月の消防審議会答申を踏まえ、消防団員数を全国で100万人以上(うち女性消防団員数10万人以上)確保することを目標としており、また、消防団員確保の全国的な運動を展開してきたところであるが、平成20年4月1日現在、消防団員数は89万人を割るという厳しい状況となっているため、平成20年9月8日付消防災第234号により、消防庁長官名において「消防団員確保の更なる推進について」を通知し、各都道府県知事及び各指定都市市長あてに地域住民の方々の生命・身体・財産を守る防災の重要性の認識、消防団員確保への取組、地域の防災力の向上を優先課題として取り組んでいただくよう更に一層の喚起を図った。
また、消防団が抱える様々な課題を解消し、消防団の充実強化・活性化を推進するため、以下のような施策を実施している。
ア 地域総合防災力の充実方策に関する小委員会
(ア)目的
災害が多様化・大規模化し、国民の安心・安全ニーズが高まる中、常備消防の充実強化はもとより、地域防災の要である消防団や自主防災組織等のさらなる育成、活用を図り、併せて地域の防災を支える人づくりを進めることで、市民レベルの活動を含めた地域の総合的な防災基盤を確立させる視点から、今後の中長期的な消防防災行政のあり方を検討するため、消防審議会に消防防災関係者や学識経験者等からなる小委員会を設置。
(イ)検討期間 平成19年9月~平成20年11月
(ウ)主な検討内容
消防を基点としながら、消防機関による消防防災力だけではない「地域総合防災力」の整備・向上にまで視野を広げ、人づくりや民間防災組織の活動促進など国民の安心・安全を確保するための方策を検討した。
イ 検討会の開催
消防団の充実強化・活性化を一層推進するため、各種検討会を開催又は検討会に委員として参画し、検討・議論された提言を取りまとめ、施策に反映している。最近における主な検討会は第2-1-11表のとおりである。

ウ 各種施策の実施
消防団活動への参加促進や消防団の活動環境の整備を図るため、以下の施策を実施している。
(ア)消防団の装備・施設の充実強化
消防車両・無線機器等の消防団に必要な設備や、消防団の活動拠点となる施設の整備については、「防災基盤整備事業」及び「施設整備事業(一般財源化分)」の対象とし、地方債と地方交付税で支援している。
(イ)消防団員の処遇の改善
消防団員の年額報酬や出動手当等に対する地方財政措置、退職報償金制度について、その充実を図っている。
(ウ)消防団への理解及び参加の促進
消防団PRビデオ・DVDと併せ、消防団啓発ポスターや社会人・女性・学生といった全国の幅広い層をそれぞれ対象としたパンフレット等の作成・配布を行い、消防団への理解及び参加の呼びかけに努めている。


(エ)事業所の理解と協力
被雇用者団員の増加に伴い、消防団員を雇用する事業所の消防団活動への理解と協力を得ることが不可欠であるため、平成18年度より、勤務時間中の消防団活動への便宜や従業員の入団促進など、事業所としての消防団への協力が、地域における社会貢献として賞揚されるとともに、地域の防災体制が一層強化される仕組みである「消防団協力事業所表示制度」を導入し、全国への普及を図っている。平成20年4月1日現在、44都道府県の344市町村で本制度を導入済みであり、消防団協力事業所数は1,210事業所となっている(囲み記事「「総務省消防庁消防団協力事業所表示証」を交付された事業所」参照)。また、
・ 消防団員である住民を多く雇用し、消防団活動に特に深い理解があり、協力度の高い事業所に対する表彰
・ 経済団体への働きかけ
・ 事業所に向けた消防団参加促進パンフレットの作成・配布
などを実施し、事業所の消防団活動に対する理解・協力を求めている。
(オ)女性の入団推奨
地域の安心・安全に積極的に取り組む女性の入団を推奨している。
(カ)学生の入団推奨
若い力を消防団活動に発揮してもらうため、大学生や専門学校生の入団を推奨している。
(キ)公務員等の入団推奨
国家公務員や地方公務員(主に公立学校の教職員)のほか農業協同組合・漁業協同組合・森林組合等の公共的団体職員等の入団を推奨している。
(ク)全国消防団員意見発表会・消防団等地域活動表彰の実施
地域における活動を推進するとともに、若手・中堅団員や女性団員の士気の高揚を図るため、全国各地で活躍する若手・中堅団員や女性団員による意見発表会を開催し、併せて、
・ 地域に密着した模範となる活動を行っている消防団
・ 団員である住民を雇用し、消防団活動を支援する事業所
・ 団員の確保について特に力を入れている消防団、地方自治体及び事業所
・ 大規模災害時等において顕著な活動を行った消防団
に対する表彰などを実施し、その内容を取りまとめ、全国に提供している。
(ケ)消防団員入団促進キャンペーンの全国展開
消防団員の退団が毎年3月末から4月にかけて多い状況を踏まえ、退団に伴う消防団員の確保の必要性があることから、退団時期の前の1月から3月中を「消防団員入団促進キャンペーン」として位置づけ、消防団員募集についての積極的な広報の全国的な展開を図っている。また、関係団体の協力を得て「消防団員入団促進キャンペーンイベント」を開催している。

(コ)消防団活動のPR
a 「消防団のホームページ」の運用
消防庁における最新施策や最新情報等を掲載し、消防団活動のPRに努めている。

b 新聞を活用した広報
全国的に幅広く国民の目に留まる「新聞広告」を活用し、消防団への理解促進及び入団促進の広報に努めている。

(サ)機能別団員及び機能別分団など消防団組織・制度の多様化方策の導入
昼夜間を問わず、すべての災害・訓練に出動する消防団員(以下、「基本団員」という。)を基本とした現在の制度を維持した上で、必要な団員の確保に苦慮している各市町村が実態に応じて選択できる制度として、下記の多様化方策を導入した(第2-1-13図、囲み記事「機能別団員・分団と女性団員の活躍」参照)。

a 機能別団員(特定の活動、役割のみに参加する団員)
入団時に決めた特定の活動・役割及び大規模災害対応等に参加する制度。
b 機能別分団(特定の活動、役割を実施する分団)
特定の役割、活動を実施する分団・部を設置し、所属団員は当該活動及び大規模災害対応等を実施する制度。
c 休団制度
団員が長期出張、育児等で長期間に渡り、活動することができない場合、団員の身分を保持したまま一定期間の活動休止を消防団長が承認する制度。休団中の大規模災害対応、休団期間の上限は各消防団で規定し、休団中は報酬の不支給、退職報償金の在職年数不算入が可能。
d 多彩な人材を採用・活用できる制度
条例上の採用要件として性別・年齢・居住地等を制限している例があるので、条例の見直しにより幅広い層の住民が入団できる環境の整備や年間を通じての募集・採用の実施。
(シ)団員確保の支援体制の構築
消防団員の減少に歯止めを掛けるために、団員確保に必要な知識又は経験を有する消防職団員等を地方公共団体に派遣し、団員の確保の具体的な助言、情報提供等を行う「消防団員確保アドバイザー派遣制度」を平成19年4月から運用している。

「総務省消防庁消防団協力事業所表示証」を交付された事業所
◎事業所のコメント
・埼玉県小鹿野町
株式会社 秩父富士
町内や周辺に火災が起こった場合、消防団と連携を図り、消防団員の従業員には勤務時間内でも出動の許可を与えています。
また、社内においても自衛消防隊を組織し、定期的な予防運動や消防活動訓練を行っています。
「自分たちの町は自分たちで守る」という理念を抱き続け、「消防団協力事業所」として、これからも地域社会に貢献していきます。

・新潟県糸魚川市
電気化学工業株式会社 青梅工場
当工場は化学製品の製造を行っており、多数の危険物、可燃性ガス等を大量に取り扱っております。工場では職場単位での防災訓練はもちろん、消防署、消防団、工場と一体となった総合防災訓練を毎年継続し万が一の不測の事態に備えております。
また、工場従業員の111名は地域の消防団に加入しており、地域の消防防災活動に貢献しております。

・山口県周南市
日本精ッ株式会社 徳山工場
私たちの会社は、最寄りの消防署から約12km離れた位置にあり、常日頃より、社内保安防災活動や自衛消防隊訓練を積極的に取組むと共に、地域火災では市消防本部の要請を受けて初期消火にもあたっています。
また、従業員の地域消防団への入団にも力を入れています。これからも認定事業所の誇りを持ち、地域と共に保安防災に努めたいと思います。

・福岡県北九州市
医療法人 医和基会
地域社会への貢献を目的として、いわき福祉会消防団員規定を定めており、従業員が消防団活動を積極的に取組める環境が整っています。
また、消防団活動で得た技術・知識を法人の消防訓練等にも活かしています。これからも私たちは「自分のまちは自分で守る」ために、地域防災活動や福祉ボランティア活動等でも地域のリーダー的な存在を担えるように努力してまいります。

機能別団員・分団と女性団員の活躍
岐阜県飛騨市消防団では、近年の消防団員数減少や団員の被雇用者化が進む中で、平日昼間帯の消防力を補うために機能別団員として「災害支援団員」制度を導入しています。「災害支援団員」は、10年以上の経験を有する消防職団員OBが任命され、平日昼間帯の火災対応などに即戦力として現在67名が活動しています(平成20年4月現在)。

「災害支援団員」制度の導入後に発生した2件の建物火災では、いち早く災害支援団員が現場に駆け付け、迅速な消火活動に従事し延焼拡大を阻止した実績があります。今後も地域防災力の即戦力として活躍が期待されています。
また、消防団の組織の活性化及び地域のニーズに応える方策として、女性消防団員を採用しようという動きが全国的に広まっています。また、男女共同参画の流れを受けて、女性の消防団への参加意欲も高まっています。
消防団員数が減少する一方で、女性消防団員数は年々増加しています。平成20年4月1日現在、16,699人(全体の1.9%)、女性消防団員を採用する消防団は1,104団(全体の46.4%)で全都道府県に及んでいます。
長野県池田町消防団でも、平日昼間帯の消防力を補うために、町内の企業に従事する女性で構成された女性隊(女性消防団員18名)を平成19年4月11日に結成しました。

活動としては、紙芝居を通した幼年期における防火思想の向上などの予防活動や、消火栓を使用した実戦型の消火訓練を行うなど幅広い消防団活動を行っています。
このように、全国各地で機能別団員・分団制度の採用が検討され、女性消防団員の活躍の場も広がっています。引き続き、多くの地域住民の方が消防団に参加しやすいように、このような地域防災力の充実強化に向けた積極的な取組が、全国に広がっていくことが期待されます。