平成20年版 消防白書

2 緊急消防援助隊

(1)緊急消防援助隊の概要と消防組織法改正による法制化

ア 緊急消防援助隊の概要

緊急消防援助隊は、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、国内で発生した地震等の大規模災害時における人命救助活動等をより効果的かつ迅速に実施し得るよう、全国の消防機関相互による援助体制を構築するため、全国の消防本部の協力を得て、平成7年6月に創設された。
この緊急消防援助隊は、平常時においては、それぞれの地域における消防の責任の遂行に全力を挙げる一方、いったん、我が国のどこかにおいて大規模災害が発生した場合には、全国から当該災害に対応できるだけの消防部隊が被災地に集中的に出動し、人命救助等の消防活動を実施するというシステムである。
緊急消防援助隊創設当初は要綱に基づく体制でスタートし、その部隊は、全国の消防本部から登録された指揮支援部隊、都道府県隊指揮隊、消火部隊、救助部隊、救急部隊、後方支援部隊、航空部隊、水上部隊、特殊災害部隊及び特殊装備部隊から構成され、大規模災害発生に際し、消防組織法第44条に規定する消防庁長官の要請(同法改正後は指示も含む。)により、被災地に出動し、被災市町村長の指揮の下に活動することを任務としている。

イ 消防組織法改正による法制化

近年、東海地震をはじめとして、東南海・南海地震、首都直下地震等の切迫性やNBCテロ災害等の危険性が指摘されており、こうした災害に対しては、被災地の市町村はもとより当該都道府県内の消防力のみでは、迅速・的確な対応が困難な場合が想定される。そこで、全国的な観点から緊急対応体制の充実・強化を図るため、消防庁長官に所要の権限を付与することとし、併せて、国の財政措置を規定する等を内容とする、消防組織法の改正案が平成15年の通常国会に提出された。同法案は、衆・参両院において、それぞれ全会一致で可決成立、同年6月18日公布(平成15年法律第84号)後、平成16年4月1日より施行された。

法改正の主な内容は、緊急消防援助隊の法律上への明確な位置付けと消防庁長官の出動の指示権の創設、緊急消防援助隊に係る基本計画の策定及び国の財政措置となっている。

創設以来要綱に基づき運用がなされてきた緊急消防援助隊であるが、この法改正により、消防組織法上の組織として明確に位置付けるとともに、併せて、東海地震等大規模な災害で二以上の都道府県に及ぶもの、毒性物質の発散等により生ずる特殊な災害(NBC災害)等の発生時には、消防庁長官は、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置を「指示」することができるものとされた。この指示権の創設は、まさに国家的な見地から対応すべき大規模災害等に対し、緊急消防援助隊の出動指示という形で、被災地への消防力の投入責任を国に負わせることとするものである。

法律上位置付けられた緊急消防援助隊として必要な部隊や装備をどのように配備・充足するかについては、総務大臣が「緊急消防援助隊の編成及び施設の整備等に係る基本的な事項に関する計画」(以下、「基本計画」という。)を策定することとしている。この基本計画は、平成16年2月に策定され、緊急消防援助隊を構成する部隊の編成と装備の基準、出動計画及び必要な施設の整備目標などを規定している。策定当初は、緊急消防援助隊の部隊を平成20年度までに3,000隊登録とすることを目標としていたが、大規模災害等への対応力を一層強化するため、平成18年2月に同計画を変更し、平成20年度末までの登録目標を4,000隊規模に拡大し、緊急消防援助隊の体制強化を図ることとした。

消防庁長官の指示を受けた場合には、緊急消防援助隊の出動が法律上義務付けられることから、出動に伴い新たに必要となる経費については、地方財政法第10条の国庫負担金として、国が全額負担することとしている。
また、基本計画に基づく施設の整備についても、「国が補助するものとする」と法律上明記されるとともに、対象施設及び補助率(2分の1)については政令で規定されている(第2-7-2表)。

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ウ 平成20年消防組織法改正による機動力の強化

切迫性が指摘されている東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の大規模地震に対する消防・防災体制の更なる強化をはかるため、緊急消防援助隊の機動力の強化等を内容とする消防組織法の改正案が平成20年の通常国会に提出された。同法案は、衆・参両院において、それぞれ全会一致で可決成立、同年5月28日公布(平成20年法律第41号)後、平成20年8月27日より施行された。

法改正の主な内容は、災害発生市町村において既に行動している緊急消防援助隊に対する都道府県知事の出動指示権の創設、消防応援活動調整本部の設置及び消防庁長官の緊急消防援助隊の出動に係る指示の要件の見直しとなっている(第2-7-1図)。

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都道府県の区域内に災害発生市町村が二以上ある場合において、緊急消防援助隊行動市町村以外の災害発生市町村の消防の応援等に関し緊急の必要があると認めるときは、都道府県知事は、緊急消防援助隊行動市町村において行動している緊急消防援助隊に対し、出動することを指示することができるものとされた。これは、平成16年新潟県中越地震や平成16年新潟・福島豪雨災害において、県内において市町村をまたぐ部隊の移動が行われたことなどを踏まえ、制度を整備したものである。なお、都道府県をまたぐ場合は、二以上の都道府県に及ぶ調整となることから消防庁長官が行うこととされた(第2-7-2図)。

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前(イ)の都道府県知事の指示が円滑に行われるよう、緊急消防援助隊が消防の応援等のために出動したときは、都道府県知事は、消防の応援等の措置の総合調整等を行う消防応援活動調整本部(以下「調整本部」という。)を設置するものとされた。調整本部は、都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村が実施する消防の応援等のための措置の総合調整に関する事務及びこの総合調整の事務を円滑に実施するための自衛隊、警察等の関係機関との連絡に関する事務をつかさどることとされた(第2-7-2図)。

今日、活断層等により局地的に甚大な被害をもたらす地震の危険性が指摘されており、大規模な災害が一つの都道府県に限られる場合であっても、当該災害に対処するために特別の必要があると認められるときは、消防庁長官は、災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事又は当該都道府県内の市町村の長に対し、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置をとることを指示することができるものとされた。

(2)緊急消防援助隊の体制及び装備

ア 緊急消防援助隊の体制

緊急消防援助隊の部隊編成については、発足当初、救助部隊、救急部隊等の全国的な消防の応援を実施する消防庁登録部隊が376隊(交替要員を含めると約4,000人規模)、消火部隊等の近隣都道府県間において活動する県外応援部隊が891隊(約1万3,000人規模)、合計で1,267隊(約1万7,000人規模)であった。平成13年1月には、緊急消防援助隊の出動体制及び各種災害への対応能力の強化を行うため、消火部隊についても登録制を導入し、救助隊・救急隊とともにその登録部隊数が大きく増加し、さらに、複雑・多様化する災害に対応するため、石油・化学災害、毒劇物・放射性物質災害等の特殊災害への対応能力を有する特殊災害部隊、消防防災ヘリコプターによる航空部隊及び消防艇による水上部隊を新設し、8部隊、1,785隊(約2万6,000人規模)とした。
平成16年4月1日からの法律上の位置付けの明確化に伴い、法律に基づく登録を行った結果、指揮支援部隊をはじめとする10部隊で編成され、全国812消防本部から2,821隊が登録され(約3万5,000人規模)、同年4月14日には、総務省講堂において全国の緊急消防援助隊指揮支援部隊、都道府県隊指揮隊、都道府県航空隊の隊長等の参集による緊急消防援助隊発足式が挙行された。平成20年4月1日現在では全国789消防本部(全国の消防本部の98%)から3,960隊が登録され、人員規模としては、約4万6,000人規模となっている(第2-7-3図、第2-7-4図、第2-7-3表)。

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イ 緊急消防援助隊の装備等

緊急消防援助隊の装備については、これまでも、消防庁において基準を策定するとともに、平成16年度からは、基本計画に基づき、その施設等の整備を図ってきた。平成18年度から緊急消防援助隊設備整備費補助金を新設、国庫補助措置を講じることにより、災害対応特殊消防ポンプ自動車、救助工作車、災害対応特殊救急自動車等及び、活動部隊が被災地で自己完結的に活動するために必要な支援車並びにファイバースコープ等の高度救助用資機材等の整備を推進している。
また、緊急消防援助隊出動車両の位置及び動態を把握し、部隊運用を効果的に支援するため、緊急消防援助隊動態情報システムを指揮支援隊が所属する消防機関及び全国の代表消防機関に配備している。
平成16年新潟県中越地震の活動を教訓として、消防庁の機動力強化を図るため、消防庁ヘリコプター及び消防庁車両(指揮車、人員搬送車)を平成16年度補正予算及び平成17年度当初予算により整備した。
さらに、平成18年度の事業として、大量の送風能力を用いて陽圧換気やミクロ噴霧放水を行う大型ブロアー車、研磨剤を混入した高圧の水流で火花を出さずに物質を切断するウォーターカッター車及びNBC災害などにより化学剤等に汚染された人が多数発生した場合に、その原因物質を早急に取り除く大きな除染能力を有する大型除染システム車を、消防組織法第50条の無償使用制度により、主要な大都市圏の消防本部(札幌・東京・名古屋・大阪・福岡)に配備した。
引き続き消防庁では、緊急消防援助隊の効果的な活動を実施するため、計画的な施設等の充実強化を図ることとしている(第2-7-5図、第2-7-6図)。

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(3)緊急消防援助隊の活動

ア 平成7年から平成16年4月(法制化)まで

緊急消防援助隊の活動については、平成8年12月に、新潟県・長野県の県境付近で発生した蒲原沢土石流災害において、東京消防庁及び名古屋市消防局の救助部隊による高度救助用資機材を用いた活動が行われ、平成10年9月に発生した岩手県内陸を震源とする地震(最大震度6弱)では、仙台市消防局及び東京消防庁の指揮支援部隊による情報収集活動が行われた。
また、平成12年3月に発生した有珠山噴火災害においては、札幌市消防局及び仙台市消防局から指揮支援部隊、東京消防庁、横浜市消防局及び川崎市消防局から救助部隊及び消火部隊が出動し、地元消防本部の応援活動を実施した。同年10月に発生した鳥取県西部地震(最大震度6強)においては、広島市消防局及び神戸市消防局の指揮支援部隊がヘリコプターによる情報収集活動を行った。
さらに、平成13年3月に発生した安芸灘を震源とする芸予地震(最大震度6弱)においては、大阪市消防局、神戸市消防局及び福岡市消防局の指揮支援部隊が各航空部隊のヘリコプターに同乗し、また、鳥取県、岡山市消防局及び北九州市消防局の航空部隊が情報収集活動を行った。
平成15年には、7月の宮城県北部を震源とする地震(最大震度6弱、6強、6弱が1日に連続して発生)において、札幌市消防局の指揮支援部隊、航空部隊及び茨城県の航空部隊が情報収集活動を行った。8月の三重県ごみ固形燃料発電所火災では、名古屋市消防局の指揮支援部隊、特殊災害部隊等が、9月の栃木県黒磯市タイヤ工場火災においては、東京消防庁の指揮支援部隊、特殊災害部隊等が出動し、消火活動等を行った。
さらに、9月の平成15年十勝沖地震(最大震度6弱が2回発生)においては、札幌市消防局及び仙台市消防局の指揮支援部隊、航空部隊及び青森県の航空部隊が情報集活動を行った。また、この地震により損傷した出光興産株式会社北海道製油所のオイルタンクから発災した火災の消火活動及び鎮火後の火災警戒活動のため、札幌市消防局の指揮支援部隊のほか、10都県15消防本部の特殊災害部隊等が出動し、応援活動を実施した。これらに加えて、消火に必要な泡消火薬剤の確保のため、全国的な広域応援を実施し、自衛隊航空機による輸送支援及び在日米軍からの泡消火薬剤の提供を受けた。

イ 平成16年4月以降

平成16年7月13日からの新潟・福島豪雨災害では、法制化以後初めて緊急消防援助隊が出動し、大規模な堤防決壊により浸水した地域及び道路寸断等により孤立した山間部等において、救助活動等に従事した。新潟県には宮城県、山形県、栃木県、群馬県、埼玉県、東京都、神奈川県、富山県、石川県、山梨県、長野県及び岐阜県の1都11県から延べ171隊、693人が出動し、3日間の活動に従事、住宅等に孤立した住民を救命ボート及びヘリコプターにより、状況を踏まえた県内移動を行い、三条市1,652人、見附市106人、中之島町(現長岡市)97人の総数1,855人を救助した。
続く7月18日の福井豪雨災害では、神奈川県、富山県、石川県、長野県、愛知県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、鳥取県及び島根県の2府10県から延べ159隊、679人が出動し、2日間の活動に従事、住宅等に孤立した住民を救命ボート及びヘリコプターにより、福井市266人、鯖江市45人及び美山町77人の総数388人を救助した。
10月、平成に入って最大級の被害をもたらした台風第23号災害においては、豪雨による堤防の決壊等のため多大な被害を受けた兵庫県に出動し、浸水家屋の戸別調査及び救助活動等に従事した。10月21日、兵庫県豊岡市に、愛知県、滋賀県、大阪府及び岡山県の1府3県から延べ70隊、284人が2日間の活動に従事し、2,000世帯を超える戸別調査を行うとともに住宅等に孤立した住民127人を救命ボート等により救助した。
10月23日17時56分頃、新潟県中越地方を中心にマグニチュード6.8、最大震度7となる新潟県中越地震が発生した。最初の地震発生後も短時間の内に最大震度6強の地震が頻発し、また最大震度6弱の余震も発生するなど、新潟県の内陸部・山間部に家屋倒壊、土砂崩れ等により甚大な被害をもたらした。
緊急消防援助隊については、地震発生直後の23日18時25分、消防組織法第44条第2項及び第4項に基づき、埼玉県及び仙台市に対し、消防庁長官が直接航空部隊及び指揮支援部隊の出動要請を行うとともに、19時20分の新潟県知事からの派遣要請を受けて、直ちに山形県、富山県、福島県及び東京都に対して出動を要請したところである。その後も引き続き各県に出動要請を行った結果、1都14県(宮城県、山形県、福島県、栃木県、茨城県、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、群馬県、長野県、山梨県、富山県、石川県、愛知県)から累計で、480隊(うち、ヘリコプター20機)、2,121人、と、これまでで最大規模の出動となった。
活動状況は、主に小千谷市、長岡市及び山古志村(現長岡市)において、孤立住民等の安否確認、救助、救急活動に従事するとともに、余震等に備えた警戒活動に従事した。特に10月25日全村避難指示が発令された山古志村(現長岡市)においては、自衛隊、警察及び海上保安庁と連携して消防防災ヘリコプターにより集中的に救助活動を実施し、さらに27日には、長岡市妙見堰の土砂崩れによる乗用車転落事故現場において、地元長岡市、新潟県内応援隊及び東京消防庁ハイパーレスキュー隊を中核とした緊急消防援助隊との合同の救助活動を実施し、2歳男児とその母親の2人を地震発生以来4日ぶりに救助(母親は病院搬送後死亡確認)するなど、11月1日の活動終了までの10日間で453人を救助した。

平成17年3月20日には、福岡県西方沖を震源とする地震(最大震度6弱)が発生、大阪府及び熊本県から3隊12人が出動し、情報収集活動を行った。
続く4月25日には、兵庫県尼崎市においてJR西日本福知山線列車事故が発生、107人が死亡する大惨事となった。午前9時03分JR宝塚駅を出発した、7両編成の上り快速列車が、同9時18分頃尼崎市久々知3丁目付近において脱線、沿線のマンションに衝突し、先頭車両がマンション1階の駐車場にくい込むという事態となった。そのため、狭隘な空間の上、駐車場の自動車からガソリンが漏れ、エンジンカッター等の火花が発生する救助資機材が使用できないということもあり、救助活動に時間を要することとなった。緊急消防援助隊としては、大阪府、京都府及び岡山県の2府1県から累計で74隊、270人が4日間にわたり救助、救急活動に従事し、地元尼崎市消防局及び兵庫県内消防本部の県内応援隊と協力し、消防機関として240人(緊急消防援助隊の救助人員42人)を救助した。

平成19年1月30日には、奈良県吉野郡上北山村の国道169号において、土砂崩れにより走行中の乗用車が埋没し、3名が生き埋めになる災害が発生し、京都府、大阪府、三重県、和歌山県の2府2県から7隊30人が出動、情報収集活動を実施するとともに、救助活動及び航空部隊による救急搬送を行った。
また、3月25日には、能登半島地震(最大震度6強)が発生、京都府、大阪府及び東京都の指揮支援隊をはじめ、兵庫県、滋賀県、福井県、富山県の1都2府4県から、87隊349人が出動、平成16年新潟中越地震災害以来の大規模な出動になり、2日間にわたり倒壊建物等における検索活動及び情報収集活動を行った。
4月15日には、三重県中部を震源とする地震(最大震度5強)が発生、愛知県から航空部隊等3隊12人が出動し情報収集活動を行った。
さらに、7月16日10時13分頃、新潟県中越沖地震(最大震度6強)が発生し、最大震度6弱以上の余震も発生するなど、家屋倒壊、土砂崩れ等により甚大な被害をもたらした。16日10時40分、新潟県知事からの要請を受け、消防庁長官が1都1府8県に対して緊急消防援助隊の出動要請を行い、航空部隊を中心として15隊110人が出動し、7月23日の活動終了までの8日間に、述べ59隊286人が情報収集、救急及び人員搬送等の活動を行った。

平成20年6月14日午前8時43分頃、岩手県内陸南部地方を中心にマグニチュード7.2、最大震度6強の岩手・宮城内陸地震が発生した。岩手、宮城両県の内陸部・山間部に家屋倒壊、土砂崩れ等により甚大な被害をもたらした。14日9時23分、岩手県知事からの要請を受け、消防庁長官が、岩手県一関市、奥州市を応援先として緊急消防援助隊の出動を求めた。その後、同日11時38分、宮城県知事からの要請を受け、動態情報システムを活用し岩手県へ出動途上の3県隊(山形県、千葉県、埼玉県)の応援先を宮城県栗原市に変更した。また、15日には、すでに岩手県内で活動中の1都2県隊(東京都、秋田県、福島県)について宮城県栗原市への部隊配備を行った。今回の緊急援助隊の活動では、岩手・宮城両県を合わせて、1都1道15県(北海道、青森県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、富山県、石川県、山梨県)から6日間で、211隊1,025人が出動し、救助活動、情報収集活動等を行った。
また、今回の出動は緊急消防援助隊発足後、初めて二つの県にまたがって活動を行った。
7月24日午前0時26分頃、岩手県沿岸北部を震源としてマグニチュード6.8、最大震度6弱の地震が発生した。大規模地震における緊急消防援助隊の迅速出動に関する実施要綱に基づき、地震発生と同時に指揮支援部隊長(仙台市消防局)及び航空部隊(茨城県及び栃木県)に出動要請。その後、岩手県知事から応援要請を受け、最終的に1都7県(秋田県、宮城県(仙台市)、山形県、福島県、栃木県、茨城県、埼玉県、東京都)に対して出動を要請した。同日14時30分の応援要請解除までに、99隊379人が出動し、情報収集活動等を行った(第2-7-4表)。救助事案は発生しなかったが、逡巡せずに部隊出動が行われた事例となった。
以上のような緊急消防援助隊の活動に要した経費については、昭和62年度に創設された消防広域応援交付金制度に基づき、応援市町村に対し広域応援交付金が財団法人全国市町村振興協会から交付されている(第2-7-4表)。

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(4)緊急消防援助隊の運用

緊急消防援助隊の編成及び出動計画等については、総務大臣が定める基本計画に定められているが、その概要は以下のとおりである。

ア 緊急消防援助隊の編成

緊急消防援助隊の部隊は、全国を8つのブロックに分けた災害発生地域別に、14の政令指定都市等の消防本部により編成される指揮支援部隊と応援都道府県内の消防本部の消火部隊、救助部隊、救急部隊等から編成される都道府県隊に大別される。
緊急消防援助隊は、被災地の市町村長(又は委任を受けた消防長。以下同じ。)の指揮の下に活動することとなるが、指揮支援部隊は、大規模災害の発生に際し、ヘリコプター等で速やかに被災地に赴き、被害情報の収集等にあたるとともに、当該市町村長の指揮を支援し、被災地における緊急消防援助隊の活動が円滑に行われるよう支援活動を行う。
都道府県隊は、当該都道府県内の消防本部において登録されている消火部隊、救助部隊、救急部隊、後方支援部隊、航空部隊、水上部隊、特殊災害部隊及び特殊装備部隊並びに当該都道府県の航空部隊のうち、被災地への応援に必要な部隊をもって編成される。
こうした部隊編成に基づき、緊急消防援助隊は、被災地の市町村長→指揮支援部隊長→都道府県隊長→各部隊長という指揮命令系統により、活動することとなる。

イ 出動計画

大規模災害等の発災に際し、消防庁長官は、情報収集に努めるとともに、被災都道府県知事等との密接な連携を図り、緊急消防援助隊の出動の有無を判断し、消防組織法第44条の規定に基づき、出動の要請又は指示の措置をとることとされている。この場合において迅速かつ的確な出動が可能となるよう、あらかじめ出動計画が定められている。
具体的には、災害発生都道府県ごとに、その隣接都道府県を中心に、原則として第一次的に応援出動する都道府県隊を第一次出動都道府県隊と災害の規模によりさらに応援が必要となる場合に出動準備を行う都道府県隊を出動準備都道府県隊として指定している。

東海地震、東南海・南海地震、首都直下地震等の大規模地震については、二以上の都道府県に及ぶ著しい地震被害が想定され、第一次出動都道府県隊及び出動準備都道府県隊だけでは、消防力が不足すると考えられることから、全国的規模での緊急消防援助隊の出動を行うこととしている。
そのため、東海地震、東南海・南海地震及び首都直下地震を想定して、中央防災会議における対応方針も踏まえ、それぞれの発災時における、緊急消防援助隊運用方針及びアクションプランを策定しており、例えば東海地震の場合、強化地域に指定されている8都県以外の全道府県の陸上部隊の出動順位、応援先都県、出動ルート等をあらかじめ定めるとともに、航空部隊についても全国的な運用を行うこととしている(第2-7-7図)。こうした出動計画がある事案については、基本パターンを了知しつつ、状況に応じた柔軟な対応が求められる。

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大規模地震時には、通信インフラ等の障害発生や全体の被害状況把握に相当の時間を要することなどを踏まえ、緊急消防援助隊が被災地に迅速に出動して、消火・救助・救急活動等により人命救助を効果的に行うことができる運用を強化する必要がある。
このため「消防組織法第44条に基づく緊急消防援助隊の出動の求め」の準備行為を、消防庁長官が全国の都道府県知事及び市町村長に予め行っておき、大規模地震の発生と同時に出動が可能な運用の導入を図ることとし、「大規模地震における緊急消防援助隊の迅速出動に関する実施要綱」を策定して、指揮支援部隊及び航空部隊については平成20年7月14日から、消火・救助・救急部隊等の陸上部隊については応援等実施計画の整備を踏まえて同年8月27日から運用を開始した。

緊急消防援助隊は、それぞれの管轄区域を離れて活動することから、迅速かつ効果的な活動を行うためには、速やかな集結及び被災地域への出動とともに、被災地域における各部隊の具体的な活動場所及び部隊配備等を、被害状況を踏まえて適時的確に決定する必要がある。
そのため、従来は緊急消防援助隊運用要綱により、緊急消防援助隊調整本部を設置して、必要な調整を行うこととしていたが、平成20年通常国会で消防組織法が改正され、都道府県内の区域内に災害発生市町村が2以上ある場合において、緊急消防援助隊が消防の応援のために出動した時は、都道府県知事は、消防の応援等の措置の総合調整等を行う消防応援活動調整本部(以下「調整本部」という。)を設置するものとされた。
調整本部は、災害発生市町村の消防の応援等のため都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村が実施する措置の総合調整に関する事務及び当該事務を円滑に実施するための自衛隊、警察等の被災地で災害対応にあたる関係機関との連絡に関する事務をつかさどることとなっている。
また、消防応援活動調整本部長(以下「調整本部長」という。)は、都道府県知事をもって充てることとされ、調整本部の事務を統括することとなっている。
各都道府県は、自らが被災地となる場合を想定して、平時からこうした調整本部の運営方法をはじめ、進出拠点、燃料補給基地等、緊急消防援助隊の受け入れに当たって必要な事項を都道府県内の消防機関と協議のうえ、「緊急消防援助隊受援計画」として定めておかなければならない。
なお、平成20年4月1日現在、全ての都道府県が緊急消防援助隊受援計画を策定している(第2-7-8図)。

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(5)緊急消防援助隊の訓練

大規模災害時における緊急消防援助隊の出動及び活動を的確かつ迅速に行うためには、全国各地からそれぞれの管轄区域を離れて活動に従事するという緊急消防援助隊の特殊性を考慮し、指揮・連携能力の向上を図るなど、平時からの緊急消防援助隊としての教育訓練が重要となる。
緊急消防援助隊の訓練については、緊急消防援助隊が発足した平成7年11月28・29日に、東京都江東区豊洲において、天皇陛下の行幸を賜り、98消防本部、約1,500人の隊員による全国合同訓練が行われたのをはじめ、平成12年10月23・24日には、第2回目の全国合同訓練を東京都江東区有明において実施した。
第3回全国合同訓練は、緊急消防援助隊法制化後、初の全国訓練として、基本計画に基づき、平成17年6月10日・11日の両日、静岡県静岡市において「東海地震における緊急消防援助隊アクションプラン」の検証を兼ね実施し、参集及び活動体制について総合的な検証を行った。
また、隊員の技術向上と部隊間の連携強化を目的に、平成8年度から毎年全国を6つのブロックに区分してブロックごとに合同訓練が行われており、平成16年4月の緊急消防援助隊の法制化以降は、基本計画において、「緊急消防援助隊の技術の向上及び連携活動能力の向上を図るため、都道府県及び市町村の協力を得て、複数の都道府県を単位とした合同訓練を定期的に実施するものとする。」として、消防庁主催としての位置付けを明確にするとともに、訓練実施経費も国費として確保し、全国の自治体及び消防機関の協力のもと、この地域ブロック合同訓練を実施している。消防大学校における教育訓練と併せて、引き続き緊急消防援助隊のより実戦的な教育訓練の充実を図ることとしている(第2-7-5表)。

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今後は、夜間訓練の充実、自衛隊等他部隊との連携、部隊移動とセットの図上訓練等、より実戦的な訓練に構成していくことが求められる。

(6)今後の課題

緊急消防援助隊の活動能力を更に高めていくためには、それを構成する陸上部隊・航空部隊等の増強等を図るなど広域消防応援体制の更なる強化が求められていることから、下記の課題に引き続き取り組んでいく必要がある。

ア 消防庁オペレーション機能の強化

消防庁においては、消防庁長官の指示権が創設されたことも踏まえると、大規模災害・特殊災害等発生時に、消防庁自体の初動対応がこれまで以上に重要となり、迅速かつ的確な情報収集等に努め、できる限り災害の規模、被害状況等を把握して、緊急消防援助隊の派遣等必要な措置を即座に講じなければならない。また図上訓練等の実施により日頃から体制の点検も行いながら、緊急消防援助隊の出動の要否、派遣地域、必要な部隊規模・種類の判断等オペレーション機能の強化を引き続き図っていく必要がある。

イ 消防防災ヘリコプターの夜間運航体制の充実

夜間の災害対応のため、乗員全てが基地で常時夜間待機している航空隊は、埼玉県・仙台市消防局・東京消防庁の3団体のみである。夜間の災害に備えるための体制は、全国的に見れば不十分であり、現在、「365日・24時間運航体制」のあり方について検討を実施しているが、今後、夜間の災害に即応できる航空隊を、各都道府県内に少なくとも1隊以上配置していくという目標に向って努力していく必要がある。

ウ 緊急消防援助隊の後方支援体制等の充実強化

大規模災害時等において迅速かつ継続的な緊急消防援助隊活動を行うためには、被害状況や消防部隊の活動状況等の映像情報の早期収集体制(可搬型ヘリテレ受信機及び可搬型衛星地球局の全国的な配備)及び活動が長期間に渡ることを想定した燃料補給体制など後方支援体制の充実を図っていく必要がある。

エ 部隊の増強・施設等の充実強化

緊急消防援助隊の活動規模の増大や、公表された東海地震、東南海・南海地震や首都直下地震等の被害想定を念頭に置き、登録部隊の計画的な増強及び車両、航空機、資機材等各種の施設・設備の整備の推進を図るとともに、緊急消防援助隊の活動を機動的に行うために重要となる航空部隊についても、陸上部隊との連携活動など、より安全かつ効果的な運用要領やその体制強化についての検討を行う必要がある。

オ 訓練の実施

緊急消防援助隊が迅速かつ効果的に活動するためには、速やかに応援部隊を編成して被災地に出動し、各部隊が一元的な指揮体制のもとに連携した活動を実施する必要がある。このため消防庁ではより実践的な全国合同訓練及び地域ブロック合同訓練を実施するとともに、各都道府県及び各消防機関においても平時より、各種防災訓練等の機会も活かしながら、消防応援活動調整本部運営訓練や大規模な参集・集結訓練など、緊急消防援助隊の活動に即した教育訓練を行う必要がある。

カ アクションプランの策定

いつ起きてもおかしくないといわれる東海地震、東南海・南海地震や首都直下地震等に備えるためには、発生時における緊急消防援助隊の活動方針を更に具体化していく必要がある。このため今後も東海地震、首都直下地震に係るアクションプラン及び平成19年5月に策定した東南海・南海地震に係るアクションプランについて、緊急消防援助隊の合同訓練等を通して随時検証するとともに、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震など様々な事案を想定した運用体制の構築を図っていく必要がある。

キ 特殊災害対応への備え

NBC災害等特殊災害の場合においては、大規模自然災害の場合とは出動部隊、活動内容等も大きく異なってくることから、これらの事案の特殊性を踏まえた具体的な対応方策について、合同訓練等を通してその検証を進めていく必要がある。

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