平成20年版 消防白書

4 情報化の今後の展開

(1)消防防災通信ネットワークの充実強化

消防庁では、ICT(情報通信技術)を積極的に活用することにより消防防災力の一層の強化を図っており、次の事項に重点をおいて消防防災通信ネットワークの充実強化を推進することにより、地方公共団体と一体となって国民の安心と安全をより一層確かなものとすることとしている。

ア 消防救急無線のデジタル化の推進

消防救急無線は、従来、アナログ方式により整備・運用されてきたが、画像・文字等のデータ通信や秘話性の向上による利用高度化及び電波の有効活用を図る観点から、平成28年5月末までにデジタル方式に移行することとされている。
そこで、消防の広域化と歩調を合わせ、消防救急デジタル無線のデジタル化が円滑に行われるよう、平成19年度に消防庁は、消防機関の協力を得つつ、無線機の価格の低廉化や実運用に即した全国共通の消防救急デジタル無線の仕様を策定したところである。今後も、地方財政措置や技術アドバイザーの派遣等のデジタル化が円滑に行われるための支援策を推進していく。

イ 市町村防災行政無線(同報系)の整備促進

豪雨や津波等の災害時においては、一刻も早く住民に警報等の防災情報を伝達し警戒を呼び掛けることが、住民の安全を守る上で極めて重要となる。市町村防災行政無線(同報系)は、市町村庁舎と公園や学校等に設置されたスピーカーや各世帯に設置された戸別受信機の間の無線通信により、市町村庁舎等から住民に対し一斉に情報を迅速かつ確実に伝達することができるものであり、その整備は重要である。国民保護法の制定を受け、市町村防災行政無線(同報系)は、災害対策のみならず国民保護の観点からも非常に重要なものとなっているが、その整備率は75.5%(平成20年3月末現在)にとどまっていることから、早急に整備率の向上を図る必要がある(囲み記事「一刻も早い住民への防災情報伝達について」参照)。
なお、災害時等における住民への情報伝達の方法については、他にMCA無線システム(Multi Channel Access System)やデジタル移動通信システムを利用した方式が提唱されており、市町村防災行政無線(同報系)に代替する設備としてこれと同様の財政支援措置を受けられるものとなっている。

ウ ヘリコプターテレビ電送システムの整備促進

災害現場の映像情報は、被害規模及び概要を的確に把握し災害応急対策等を立案する際に非常に有効である。このため、消防庁や一部の都道府県及び消防機関においては、被災地の映像を現地から送信するための衛星車載局車を整備しているところである。
最近では、平成19年3月の能登半島沖を震源とする地震、同年7月の新潟県中越沖を震源とする地震及び平成20年6月の岩手県・宮城県内陸を震源とする地震などにおいて、現地の被災状況を消防防災ヘリコプターに搭載する映像伝送システム(ヘリコプターテレビ電送システム等)を用いて消防本部や消防庁へ伝達することにより迅速な被災地情報の収集が行われたところである。
しかしながら、ヘリコプターテレビ電送システムは、導入団体が増加しているものの、その映像受信範囲は全国をカバーするには至っていない状況にある(第2-9-5図)。

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こうした状況を踏まえ、消防庁においては、消防組織法第50条の無償使用制度による可搬型ヘリコプターテレビ受信装置等の全国的配備を進めるとともに、平成17年度に開催された「初動時における被災地情報収集のあり方に関する検討会」の提言を受け、ヘリコプターから衛星に直接電波を送信する方法により、地上受信局に伝送できない地域でも被災地情報をリアルタイムで伝送するシステムの実用化に向け取り組んでいる(囲み記事「ヘリコプターによる被災地情報収集の充実に向けて」参照)。

エ 緊急災害現地対策本部における通信設備の整備

東海地震、東南海・南海地震又は首都直下地震が発生した場合には、被災地における災害応急対策の調整や被災情報の取りまとめを迅速かつ的確に実施するため、現地に政府の緊急災害現地対策本部が設置されることとなっている。
このため、消防庁では、平成17年度に静岡県庁、平成19年度に東京都に地域衛星通信ネットワークを活用した通信設備を整備したところであり、引き続き、他の政府現地対策本部設置予定地についても整備を進めていくこととしている。

オ 防災行政無線のデジタル化

近年、携帯電話、テレビ放送等様々な無線通信・放送分野においてデジタル化が進展し、データ伝送等による利用高度化が図られてきているところである。消防防災分野における防災行政無線についても、これまではアナログ通信方式による音声及びファクシミリ主体の運用が行われてきたものであるが、今後はICT(情報通信技術)を積極的に活用し、安心・安全な社会を実現するために文字情報や静止画像について双方向通信可能なデジタル方式に移行することで、高度化・高機能化を図ることが必要となってきている(第2-9-6図)。

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一刻も早い住民への防災情報伝達について

豪雨や津波等の災害時においては、状況に応じ適切な避難勧告等を一刻も早く住民に伝達することが、住民の迅速な避難を実現し、被害を最小化する観点から極めて重要です。
住民への防災情報伝達手段としては、広報車による巡回等による方法もありますが、この場合、市町村管内の巡回に時間を要することから、速やかな情報伝達が困難です。他方、市町村防災行政無線(同報系)は、市町村庁舎と公園や学校等に設置されたスピーカーや各世帯に設置された戸別受信機の間の無線通信により、市町村庁舎等から住民に対し一斉に、災害時において情報を迅速かつ確実に伝達することができます。これまでも、豪雨等の発生の際に防災行政無線(同報系)が未整備であった市町村において、住民に対する情報伝達が遅れる等の問題が生じてきたところであり、その整備は非常に重要なものとなっています。
現在、その整備率は、市町村単位で、全国平均75.5%(平成20年3月末)となっているところですが、地域によって大きな差があり、千葉県、静岡県、鳥取県のように全ての市町村で整備している都道府県もあれば、整備済みの市町村が30%程度に留まる都道府県もあります。
また、最近、消防庁では、国民保護法の施行を背景として、J-ALERT(全国瞬時警報システム)の整備を推進しています。これは、津波警報、弾道ミサイル攻撃等の対処に時間的余裕がない事態が発生した場合に、消防庁より人工衛星を用いて情報を送信し、防災行政無線(同報系)を自動起動することにより、住民に緊急情報を瞬時に伝達するもので、防災行政無線(同報系)は、災害対応のみならず、国民保護の観点からも、重要な役割を担うものとなっています。
このため、未整備市町村においては、MCA無線システムやデジタル移動通信システムによる代替設備も視野に入れ、早急に整備を図ることが求められています。デジタル化の効果として、双方向通信が可能となることから、電話やテレメーターとして使用できるなど機能強化が図られます。

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ヘリコプターによる被災地情報収集の充実に向けて

災害発生時に広範な被害状況を迅速に把握するためには、ヘリコプターによる上空からの映像を活用した情報収集が大変有効です。現在実用化されているシステムは、ヘリコプターから撮影した映像について、一旦地上の受信装置で受信し、これを経由して通信衛星に向けて伝送、さらにこれを地上で映像として受信する仕組みになっています。
このため、リアルタイムで映像を見るためには、受信装置がヘリコプターからの無線を受信可能な範囲内に設置されていることが不可欠ですが、固定して設置される受信装置については現在のところ全国を網羅する形で設置されていないため、これらカバーされていない地域においては中継車や可搬型受信装置を持ち込む必要があり、消防庁では当該受信装置を無償使用制度により配備し、受信可能エリアの拡大に努めています。
また、平成19年3月に発生した能登半島地震の時のように、大規模災害により陸路が寸断されると、中継車や可搬型受信装置を持ち込めず、リアルタイムでは映像が見られません。それを解消するための技術が、平成16年度に開発されたヘリコプター衛星通信(ヘリサット)システムです。このシステムは、ヘリコプターの上部で回転するブレードの隙間を狙って直接静止衛星へ送信し、ヘリコプターと衛星とが直接通信することにより、地上受信局の有無にかかわらず映像情報を送信できることが特徴です。

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(2)消防防災業務の業務・システムの最適化

消防庁においては、自治体消防を支える組織として、消防制度、基準の企画・立案、都道府県・市町村への消防に関する助言・指導等を所管事務として担ってきたところであるが、近年は、発生が懸念される大地震や大規模・特殊災害における緊急対応の必要性など、全国的な視点での総合的な消防防災体制の確立が新たに重要な課題となっている。最近では、大規模災害発生時の緊急消防援助隊のオペレーションや武力攻撃・大規模テロなどの緊急事態に対応するための計画の策定、情報収集なども新たな業務として担っており、これらの消防防災業務を効率的・効果的に遂行するため、現在、多くのシステムを整備・運用しているところであるが、阪神・淡路大震災をはじめ、その後も発生した各種災害ごとにきめ細かく対応してきた結果、システムの多様化、機能の重複等が課題となっている。
一方、情報システムの構築に関しては、電子政府構築計画(2003年7月17日各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)に基づき、業務・システムの最適化を実施することが求められており、そのため、情報システムのセキュリティや個人情報保護に留意しつつ、その時点で利用可能なICT(情報通信技術)を最大限に活用することにより、情報システムの簡素化、効率化、合理化、高度化及び透明性の向上を図ることを目的に、消防庁防災業務の業務・システムの最適化に取り組んでいる。

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