平成20年版 消防白書

3 緊急消防援助隊の効果的な運用

(1)広域消防応援制度に関する現状と課題

緊急消防援助隊は、平成7年の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、迅速で効果的な消防の広域応援のため同年に創設された仕組みである。平成15年6月の消防組織法の改正により法制化され、平成16年4月から法律に基づく部隊として位置づけられている。
その後、複数の豪雨災害や地震、平成17年4月に発生した列車脱線事故、さらに、平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震においても出動し、人命救助活動等に大きな成果を上げている。
このように、緊急消防援助隊の活動実績が積み上げられてきたところであるが、緊急消防援助隊の運用に関して次のような課題も指摘されるようになってきた。
大規模災害時に出動できる緊急消防援助隊には限りがあるため、既に災害発生市町村において行動している緊急消防援助隊を他の災害発生市町村に移動させる必要の生じる場合があるが、これまでは、緊急消防援助隊の部隊配備に係る都道府県知事の法律上の権限・役割が明確でないことから、出動後の状況変化に応じて部隊を他の災害発生市町村に移動させるには支障があった。このことは、災害の現場において迅速に活動することが求められる緊急消防援助隊の機動力の観点から問題があるとされていた。
また、消防庁長官が緊急消防援助隊の出動に係る指示を出すことができる場合は、大規模な災害で2以上の都道府県の区域に及ぶもの又は毒性物質発散等の特殊な災害に限られていたが、今日、活断層等により局地的に甚大な被害をもたらす地震の危険性が指摘され、1の都道府県内で大規模な被害が発生する場合も想定されているところであり、消防庁長官による緊急消防援助隊の出動指示の要件を見直す必要があった。
そこで、第169回国会(平成20年通常国会)において、緊急消防援助隊の部隊移動に関する規定を整備するとともに、消防庁長官による緊急消防援助隊の出動指示の要件の見直し等により、緊急消防援助隊の機動力の強化等を図るための消防組織法の改正が行われた。

h200020.gif

(2)緊急消防援助隊の機動力の強化等のための消防組織法の改正

ア 都道府県知事による災害発生市町村において既に行動している緊急消防援助隊に対する出動の指示権の創設等

都道府県の区域内に災害発生市町村が2以上ある場合において、緊急消防援助隊が行動している災害発生市町村(以下「緊急消防援助隊行動市町村」という。)以外の災害発生市町村の消防の応援等に関し緊急の必要があると認めるときは、都道府県知事は、当該緊急消防援助隊に対し、当該都道府県内の他の災害発生市町村への移動の指示をすることができることとされた。

イ 消防応援活動調整本部の設置

都道府県の区域内に災害発生市町村が2以上ある場合において、緊急消防援助隊が消防の応援等のために出動したときは、都道府県知事は、消防の応援等の措置の総合調整等を行う消防応援活動調整本部を設置することとされた。消防応援活動調整本部は、〔1〕災害発生市町村の消防の応援等のため都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村が実施する措置の総合調整に関する事務及び〔2〕この総合調整の事務を円滑に実施するための自衛隊、警察等の被災地で災害対応にあたる関係機関との連絡に関する事務をつかさどることとされた。通常、緊急消防援助隊が出動している都道府県においては、都道府県の航空消防隊による消防の支援、都道府県内の市町村による消防の応援等が行われていることが想定されるが、消防応援活動調整本部により、このような都道府県内での消防の応援等が統一的に行われるとともに、上記アの都道府県知事の指示が円滑に行われることが期待されている。

ウ 消防庁長官による災害発生市町村において既に行動している緊急消防援助隊に対する出動の指示等の規定の整備

災害発生市町村において行動している緊急消防援助隊は、緊急消防援助隊行動市町村の長の指揮の下に行動しているが、このことは緊急消防援助隊の隊員の属する市町村の長が、消防庁長官の指示等に基づき、当該緊急消防援助隊に対し、緊急消防援助隊行動市町村以外の災害発生市町村への移動を命ずることを妨げるものではないとされた。

エ 消防庁長官による緊急消防援助隊の出動に係る指示の要件の見直し

大規模な災害の発生が1の都道府県内に限られる場合であっても、当該災害に対処するために特別の必要があると認められるときは、消防庁長官は、災害発生市町村の属する都道府県以外の都道府県の知事又は当該都道府県内の市町村の長に対し、緊急消防援助隊の出動のため必要な措置を指示することができることとされた。

関連リンク

はじめに
はじめに 昭和23年3月7日に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする我が国の自治体消防制度が誕生してから、本年で60周年を迎えました。これを記念して、本年3月7日の消防記念日には、自治体消防制度60周年記念式典を開催し、我が国における消防の発展を回顧するとともに国民から消防に課せられた使命の重...
1 地域総合防災力の強化の必要性
特集 地域総合防災力の強化~消防と住民が連携した活動の重要性~ 1 地域総合防災力の強化の必要性 (1)切迫する大規模災害 我が国では平成20年度も、岩手・宮城内陸地震や相次ぐ水害など、全国各地で大規模な自然災害による被害が発生している。 集中豪雨が頻発していることや、東海地震、東南海・南海地震、首...
2 地域防災の中核的存在である消防団の充実強化
2 地域防災の中核的存在である消防団の充実強化 (1)消防団の役割~連携のつなぎ役~ 地域総合防災力の強化を考える上では、以下の点から消防団の役割が極めて重要となる。 第一に、消防団は「自らの地域は自らで守る」という精神に基づき、住民の自発的な参加により組織された住民に身近な存在であるという点である...
3 自主防災組織などの活動
3 自主防災組織などの活動 (1)自主防災組織 防災体制の強化については、公的な防災関係機関による体制整備が必要であることはいうまでもないが、地域住民が連帯し、地域ぐるみの防災体制を確立することも重要である。 特に、大規模災害時には、電話が不通となり、道路、橋りょう等は損壊し、電気、ガス、水道等のラ...