平成22年版 消防白書

3 防火管理制度

(1)防火管理者

消防法では、多数の人を収容する防火対象物の管理権原者に対して、自主防火管理体制の中核となる防火管理者*5を選任し、消火、通報及び避難訓練の実施等を定めた防火管理に係る消防計画*6の作成等、防火管理上必要な業務を行わせることを義務付けている。

*5 防火管理者:防火に関する講習会の課程を修了した者等一定の資格を有し、かつ、防火対象物において防火上必要な業務を適切に遂行できる地位を有する者で、管理権原者から防火上の管理を行う者として選任された者
*6 防火管理に係る消防計画:防火上必要な事項を定めた計画書であり、防火管理者は当該計画を作成するとともに、本計画に基づいて防火管理業務を遂行するものである。

平成22年3月31日現在、法令により防火管理体制を確立し防火管理者を選任しなければならない防火対象物は、全国に103万9,030件あり、そのうち77.5%に当たる80万5,342件について防火管理者が選任され、その旨が消防機関に届け出されている。しかしながら、23万3,688件の防火対象物は防火管理者が未選任の状況であり、これらの防火対象物の管理権原者に対して、消防機関が指導・命令を行い、是正に努めている。また、防火管理者が自らの事業所等の適正な防火管理業務を遂行するために防火管理に係る消防計画を作成し、その旨を消防機関へ届け出ている防火対象物は73万1,703件で全体の70.4%となっている(第1―1―27表)。

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(2)共同防火管理

消防法では、高層建築物(高さ31mを超える建築物)、地下街、準地下街(建築物の地階で連続して地下道に面して設けられたものと当該地下道を合わせたもの)、一定規模以上の特定防火対象物*7等で、その管理権原が分かれているものについては、当該防火対象物の管理権原者のうち主要な者を代表者とする共同防火管理協議会を設け、統括防火管理者の選任、防火対象物全体にわたる防火管理に係る消防計画の作成、消火、通報及び避難訓練の実施等について協議し、防火対象物全体の防火安全を図ることを各管理権原者に対して義務付けている。

*7 特定防火対象物:百貨店、飲食店などの多数の者が出入りするものや病院、老人福祉施設、幼稚園など災害時要援護者が利用するもの等の一定の防火対象物

平成22年3月31日現在の共同防火管理協議事項の届出率は、68.7%(前年度65.3%)となっている(第1―1―28表)。

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(3)防火対象物定期点検報告制度

火災の発生を防止し、火災による被害を軽減するためには、消防機関のみならず防火対象物の関係者による防火対象物の火災予防上の維持管理及び消防法令への適合が重要である。
そのため、消防法では、一定の用途、構造等を有する防火対象物の管理権原者に対して、火災の予防に関して専門的知識を有する者による点検及び点検結果の消防長又は消防署長への報告を義務付けている。
この防火対象物点検資格者は、消防用設備等の工事等について3年以上の実務経験を有する消防設備士*8や、防火管理者として3年以上の実務経験を有する者など、火災予防に関し一定の知識を有する者であって、総務大臣の登録を受けた法人が行う講習の課程を修了し、防火対象物の点検に関し必要な知識及び技能を修得したことを証する書類の交付を受けた者である。

*8 消防設備士:消防用設備等に関して専門的知識を有する者として、消防設備士免状の交付を受けている者

防火対象物点検資格者は、新しい知識及び技能を習得する必要があるため、5年ごとに再講習を受講することを義務付けられている。
平成22年3月31日現在、防火対象物点検資格者の数は2万3,240人となっている。
また、定期点検報告が義務となる防火対象物のうち、管理を開始してから3年間以上継続しているものは、当該防火対象物の管理権原者の申請に基づく消防機関の行う検査により、消防法令の基準の遵守状況が優良なものとして認定された場合には3年間点検・報告の義務が免除される。

(4)消防法に基づく講習のカリキュラム基準の見直し

消防法に基づく各種の講習については、平成22年5月に開催された行政刷新会議における公益法人事業仕分けにおいて、「講習料等の引下げなどの見直しを行う」と判定され、講習事業の受け手、内容等が適正かどうか不断の見直しを行うとともに、再講習の必要性について検討し負担の軽減努力をするべきであるとの指摘を受けたところである。
この指摘を踏まえ、消防庁では、必要な防火・防災性能の確保に留意しつつ、これらの講習のカリキュラム基準を見直すこととし、<1>防火管理講習及び防災管理講習は、講習科目の大くくり化等により効率化を図り、標準時間数を縮減する、<2>防火対象物点検資格者講習、自衛消防業務講習などは、他の講習と類似する内容を共通科目化し、他講習既修者に対する科目免除を大幅に拡大する、<3>再講習についても、その内容を最近の制度改正等の習得に限定し、標準時間数を縮減する旨の改正を行うこととした。
これらについては、新たなカリキュラムでの講習が平成23年4月から実施されるよう、平成22年中の消防法施行規則等の一部改正が予定されている。

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