平成22年版 消防白書

3 消防庁の対応

消防庁では、平成22年2月27日にチリ中部沿岸を震源とする地震の発生後、直ちに関係職員が参集し、情報収集体制の確保・強化を図るとともに、翌28日に津波警報(大津波)、津波警報(津波)及び津波注意報の発表後は、全職員が参集し、消防庁長官を本部長とする災害対策本部を設置した。同本部においては、津波警報(大津波)が発表された青森県、岩手県、宮城県の災害対策本部に各1名の消防庁職員を派遣するとともに、秋田県、山形県、群馬県、栃木県、新潟県に緊急消防援助隊の出動準備を要請するなど、被害を最小限にするための対策に万全を期した。
また、地震が発生した2月27日から、津波注意報が解除される3月1日までの間に8回、津波到達予測情報や、迅速な住民の避難支援のための広報・連絡体制の確保等を、地方公共団体に対し要請した。
今回の津波警報等は、「全国瞬時警報システム」(J‐ALERT:ジェイ・アラート)を通じても、住民に伝達された。J‐ALERTは、緊急情報を国から人工衛星を用いて市町村に送信し、市町村の防災行政無線等を自動的に起動することが可能なシステムで、全国の市町村で順次導入が進められているものである。地震発生の段階で既に配備済の団体のうち関係する93の市町村において、津波警報等の発表とほぼ同時に自動的に放送がなされ、住民への迅速な情報伝達に役立った。
一方で、一部団体において津波注意報の解除の際に誤って発表が放送されたほか、新たな警報・注意報が発表されるごとに、既に警報等が発表されて変更のない区域でも繰り返し放送され、混乱を招く事態となったため、消防庁では、受信ソフトウェアの改修を行ったほか、平成22年度内に行うJ‐ALERTの高度化を進める中で改善策を講じることとしている(J‐ALERTについての詳細は第3章5(1)参照)。
その後、今回の津波について住民避難の対応を検証するため、海岸線を有するなど津波被害が想定される全国の市町村に対し「津波避難勧告等にかかる具体的な発令基準の策定状況調査」を実施した。その結果、具体的な発令基準を策定済みの市町村は58.9%であった。この割合は、水害の46.0%、土砂災害の41.4%、高潮災害の31.7%に比較すると高いものであった(図3)が、津波に係る発令基準を未だ定めていない市町村にあっては、発令基準を速やかに作成すること、また、既に発令基準を定めている市町村にあっては、あらかじめ定めた基準に基づいて適正な運用を行うとともに、現在の発令基準について再点検を行うことが必要である。

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あわせて、今回の津波に関し、津波警報(大津波)及び津波警報(津波)が発表された地域の市町村(407市町村)のうち、避難指示・勧告を発令しなかった214市町村に対し「避難指示・勧告を発令しなかった理由に関するアンケート調査」を実施した。この調査の結果、これら全ての市町村において職員参集が行われ、自主避難の呼びかけや、沿岸域のパトロール等が実施されていたことが明らかとなった。なお、避難指示・勧告を発令しなかった理由について、回答の多かったものから順に整理したものが図4のグラフである。

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「到達時刻の早い地域の津波高を見て」、「事前に水門閉鎖や情報提供が出来た」や「防潮堤や離岸堤などのハードが整備されている」等の理由から避難指示・勧告を行わなかったことが判明した。
また、2(3)の住民に対するアンケートの結果、避難しなかった人の半数以上が「高台など、津波により浸水するおそれのない地域にいると思った」と回答している。これは、津波ハザードマップを作成している市町村の多くでは、明治三陸地震津波など過去最大級の津波を想定した浸水予想地域を設定しており、これを基にした避難指示等の発令は、今回の高さ3mの津波警報(大津波)に対しては対象地域が広すぎたためと考えられ、市町村が津波警報で予想される津波の高さに応じて適切に避難指示等を発令することができるよう、数段階の避難対象地域を示した津波ハザードマップの作成、住民への周知の徹底等の取組に向けた検討が必要と考えられる。
これらの調査結果から浮き彫りとなった問題点等については、今後、中央防災会議において有識者を交えた検討を行うこととしている。

参考

1960年チリ地震津波

昭和35年(1960年)5月23日午前4時11分(日本時間)チリ沖を震源とするマグニチュード9.5の地震が発生した。この地震により翌日の午前2時33分から津波が日本の各地に押し寄せ、岩手県、宮城県を中心に死者、行方不明者139名の被害を出した。
青森県八戸市、宮城県女川町ではおよそ3メートル、岩手県久慈市ではおよそ2.5メートルの津波が観測された。
津波は太平洋全域に伝わったが、最大津波高(検潮所での記録)は日本で3メートル、ハワイで3.4メートル、オーストラリアで0.7メートルと津波の高さは震源から最も離れた日本でも非常に高かった。これはチリ沖から発進した津波が太平洋の中央で一旦発散しても、日本近くで収れんして強くなったからであると考えられる。
この津波により、いずれも細長い湾に面していた岩手県大船渡市と宮城県志津川町で特に大きな被害が出た。
なお、津波警報は発表されたが、当時は、日本での津波の高さを的確に予測できなかったことと、ハワイに津波が襲来し被害が出たという情報が伝わらず、日本に影響するほどの津波は発生していないと判断したことから、結果として津波の到達時間に間に合っておらず、これを機として、太平洋における津波警報に関する国際的な協力体制が確立された。

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