平成22年版 消防白書

3 消防学校における教育訓練

(1)消防学校の設置状況

都道府県は、「財政上の事情その他特別の事情のある場合を除くほか、単独に又は共同して」消防学校を設置しなければならず、また、指定都市は、「単独に又は都道府県と共同して」消防学校を設置することができることとされている(消防組織法第51条)。
平成22年4月1日現在、消防学校は、全国47都道府県と指定都市である札幌市、千葉市、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市の8市並びに東京消防庁に設置されており、全国に56校ある(東京都では、東京都消防訓練所及び東京消防庁消防学校の2校が併設されている)。
消防学校を設置、運営する場合の基準としては「消防学校の施設、人員及び運営の基準」がある。

(2)教育訓練の種類

消防学校における教育訓練の基準として、「消防学校の教育訓練の基準」(平成16年4月1日施行)が定められている。各消防学校では、この中で定められている「到達目標」を尊重した上で、「標準的な教科目及び時間数」を参考指針として活用し、具体のカリキュラムを定めている。教育訓練の種類には、消防職員に対する初任教育、専科教育、幹部教育及び特別教育と、消防団員に対する基礎教育(従来の普通教育)、専科教育、幹部教育及び特別教育がある。
・「初任教育」とは、新たに採用されたすべての消防職員を対象に行う基礎的な教育訓練をいい、基準上の教育時間は800時間とされている。
・「基礎教育」とは、消防団員として入団後、経験期間が短く、知識・技能の修得が必要な者を対象に行う基礎的な教育訓練をいい、基準上の教育時間は24時間とされている。
・「専科教育」とは、現任の消防職員及び一定期間の活動経験を有する消防団員を対象に行う特定の分野に関する専門的な教育訓練をいう。
・「幹部教育」とは、幹部及び幹部昇進予定者を対象に行う消防幹部として一般的に必要な教育訓練をいう。
・「特別教育」とは、上記に掲げる以外の教育訓練で、特別の目的のために行うものをいう。

(3)教育訓練の実施状況

消防職員については、平成21年度では延べ2万9,315人が消防学校における教育訓練を受講している(第2―3―1表)。

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新規採用者の初任教育受講状況をみると、平成21年度における新規採用者のうち、初任教育の受講者は6,090人で、前年度に比べ134人減少している。
消防団員については、平成21年度では延べ5万7,110人が消防学校において又は消防学校から教員の派遣を受けて教育訓練を受講している(第2―3―2表)。

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消防団員にあっては、それぞれ自分の職業を持っているため、消防学校での教育訓練が十分実施し難いと認められる場合には、消防学校の教員を現地に派遣して、教育訓練を行うことができるものとされており、多くの消防学校でこの方法が採用されている。
また、消防学校では、消防職団員の教育訓練に支障のない範囲で消防職団員以外の者に対する教育訓練も行われており、平成21年度においては、地方公共団体職員、地域の自主防災組織、婦人(女性)防火クラブ、企業の自衛消防隊等延べ1万4,640人に対し教育訓練が行われている。

(4)教職員の状況

平成22年4月1日現在、消防学校の教員566人のうち消防本部からの派遣の教員は239人であり、これは、消防活動や立入検査等の専門的な知識及び技能を必要とする教員を、直接消防活動に携わっている市町村の消防職員の中から迎えているためである(第2―3―3表)。

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今後とも消防学校の教職員については、消防大学校での研修や都道府県の他の部局、市町村消防機関との交流等を行うなどして、中長期的観点からその育成と確保を行っていく必要がある。

消防活動等の知識・技術の伝承について

全国の消防本部では、災害現場で効果的な消防活動等を実施するための知識や技術をいかに伝承していくかが重要な課題になっています。この背景には、今後10年間において全国の消防職員の約3分の1が退職を迎えるという状況があります。今後退職を迎えるこれらの消防職員は、多くの災害現場を経験しており、当該職員の大量退職により消火活動能力が一時的に低下することが懸念されています。
消防庁では、こうした現状を踏まえ、消火活動を中心とした消防活動等の知識・技術を新任職員等に伝承する取組について、調査検討を行うため、「消防活動等の知識・技術伝承に関する調査検討会」を開催しました。
【検討会概要】
消防活動等の知識・技術の伝承のあり方の検討を目的とし、現地調査等を含め、全4回にわたり検討会を開催しました。
【調査概要】
全国の消防本部に対し、知識・技術の伝承の取組等に関するアンケート調査を実施しました。
【調査結果】
「現在大量退職期に直面している」又は「これから大量退職期を迎える」と回答した全国の7割強の消防本部のうち、9割近くの消防本部がベテラン職員の大量退職期に組織運営や部隊活動に関し何らかの懸念を抱いており、特に「消火活動に関する事項」が最も多くを占めていました。
この調査結果から、消防本部が取り組まなければならない課題をまとめると、次の2点が挙げられます。
(1)現場の知恵の伝承
長年の経験により培ってきた現場でのノウハウ等の現場の知恵を後進に伝えること。
(2)若年職員の技術力向上
ベテラン職員の大量退職により、技術・技能レベルが低下するおそれがあるため、それに代わる新規職員等の若年職員の技術力を向上させること。
【課題への対応方策の例】
(1)現場の知恵の伝承方策
<1>閲覧システムを構築している例
職員から募集した体験談をまとめ、庁内ネットワークを活用して閲覧できるシステムを構築しています(日高広域消防事務組合消防本部)

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<2>講演会を実施している例
職員に対する災害経験談の伝承を目的として、歴史に残る災害を経験したOB の方々を講師に招き、講演会を実施しています(東京消防庁)。

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(2)若年職員の技術力向上のための方策
<1>指導者を養成して対象者を指導する制度を設けている例
研修を実施して指導者を養成し、指導者が新任職員にマンツーマン体制により、1年間の指導を実施しています(四日市市消防本部)。

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<2>対象者の活動技能を確認する制度を構築している例
災害現場活動の技術・技能レベルの維持と底上げを図るため、活動技能確認制度を定めています(京都市消防局)。

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消防職員が実施する消防活動は、地域住民の負託に応え、火災現場での人命の救助や財産を保護するという崇高な職務です。大量退職期にその活動能力を低下させることは許されず、状況に応じた適切かつ早急な対応が不可欠です。
消防本部は、自らの状況を把握し、取組事例等を参考にしながら、計画的に対策を講じる必要があります。
組織としてこれまで培ってきた知識・技術を伝承する環境を整え、職員ひとりひとりが高い意識を持ち、円滑な世代交代が行われ、消防活動能力を維持向上させることが必要です。

本報告書については、各都道府県消防学校及び各消防本部に配布しました。また、消防庁ホームページ(http://www.fdma.go.jp/)にも公表しており、ダウンロードが可能です。

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