平成22年版 消防白書

4 消防大学校における教育訓練及び技術的援助

消防大学校は、国及び都道府県の消防事務に従事する職員又は市町村の消防職団員に対し、幹部として必要な高度な教育訓練を行うとともに、都道府県等の消防学校又は消防訓練機関に対し、教育訓練に関する必要な技術的援助を行っている。

(1)施設・設備

消防大学校には、教育訓練施設として、本館、第2本館、火災防ぎょ訓練施設及び寄宿舎がある。
本館には250人収容の大教室、3つの教室、視聴覚教室、理化学燃焼実験室、図書館等のほか、様々な災害現場を模擬体験して指揮者の情報収集整理・判断・指揮命令能力を養成する災害対応訓練室を設けている。
第2本館には、300人収容の講堂のほか、救急訓練室、特別教室、屋内訓練場が設けられている。
火災防ぎょ訓練施設は、スチームとスモークマシンを併用し、濃煙熱気の環境下での訓練が可能な屋内火災防ぎょ訓練棟及び地下1階、地上11階の高層訓練塔を有しており、複雑な建物内を想定した、より実戦的な消火・救助訓練を行うことができる。
寄宿舎には、172人収容の南寮と52人収容の北寮がある。
教育訓練車両として、指揮隊車、普通ポンプ車、水槽付きポンプ車、救助工作車、特殊災害対応化学車、災害支援車及び高規格の救急自動車を保有している。

(2)教育訓練の実施状況

消防大学校では、創設以来、平成21年度までに延べ4万8,339人の卒業生を送り出しており、平成22年度の定員は1,804人としている(第2―3―4表)。

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消防大学校の教育訓練は、総合教育及び専科教育の2部11学科で年間1,188名の教育訓練を行っているほか、さらに実務講習を実施している。
学科については、平成18年度に大幅な再編を行い、その後も適宜見直している。平成21年度現在は、年間に21の学科と10の短期コースを開講している。具体的に例示すると、かつての本科(入校期間約半年)と幹部研修科(約2か月)を統合し、幹部科(約2か月)として、年に5回(平成22年度まで。その後は4回を予定)開講している。これは、消防幹部が大量に退職することに対応するためのものである。幹部科は、入校期間を短縮したが、インターネットを使った事前学習(e‐ラーニング)を56時間行っている。入校予定学生は、職場または自宅のパソコンを使い、録画された授業を受け、大学校での集合教育に備える。
各課程の教育訓練内容(授業科目)も新しい課題に対応するため、住民や部下への説得技法、メンタルヘルスや惨事ストレス、事故や不祥事の際の危機管理や広報、訴訟対応といった科目も取り入れている。指揮隊実技訓練、学生企画救助訓練、模擬記者会見など、訓練と演習も増やしている。コンピュータを活用して、火災時指揮シミュレーション訓練、大規模地震の際の受援シミュレーション訓練などの工夫もしている(P.159囲み記事を参照)。

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(3)消防学校等に対する技術的援助

自然災害や火災・事故等の態様の多様化・大規模化に伴い、都道府県等の消防学校等における教育訓練も高度な内容が求められており、その円滑な実施のため、次のような技術的援助を行っている。

ア 消防学校教官等に対する教育訓練

消防大学校の教育訓練では、新任消防長・学校長科において消防学校長に対する新任教育を、新任教官科において消防学校教官に対する新任教育を行っている。
新任教官科では、教育技法の習得を中心に教育を実施するとともに、実際に講義を行う演習を取り入れ、消防学校における教育指導者養成を行っている。
また、新任教官科以外の専科教育の各学科では、教育指導者養成も目的の一つとしており、教育技法の学習や講義演習を実施している。

イ 特別研究生の受入れ

消防大学校では、都道府県等の消防学校からの要望に応じ、消防学校の教官を特別研究生として受け入れ、消防学校における効果的な教育訓練について調査研究する機会を提供している。

ウ 講師の派遣

都道府県等の消防学校等における教育内容の充実のため、消防学校等からの要請により、警防、予防、救急、救助等の消防行政・消防技術について講師の派遣を行っている。平成21年度は、延べ107回の講師の派遣を実施した。

エ 消防教科書の作成

都道府県等の消防学校において使用する初任者用教科書の編集を行っており、平成22年4月現在21種類が発行されている。

(4)自主防災組織に関する調査・研究

自主防災組織の教育訓練の内容及び教育形態について調査研究を行い、その成果の普及を目的として、自主防災組織指導者が活用するための教本を作成するとともに、自主防災組織の育成指導に当たる地方公共団体職員を対象として短期講習会を全国各地で開催している。

消防大学校大規模災害対応訓練システム
~さらなる総合的な災害対応能力向上に向けて~

消防大学校では、地震災害・大規模街区火災等における「消防本部」等の指揮・連携能力の向上を目的とし、「大規模災害対応訓練システム」を用いた指揮シミュレーション訓練を行っています。
この「大規模災害訓練システム」は、大規模火災等の発生時を想定し、消防本部と被災地の現地指揮本部における指揮活動を模擬体験できるシステムです。消防大学校の学生は、システムに組み込んだ映像、図面及び文字情報により現場の状況や想定を把握し、指揮者としての状況判断、決断指示、効果の確認、実態把握等の能力を磨きます。
この指揮シミュレーション訓練は、屋外における実動訓練と異なり、システムにより災害現場の状況の推移を画面上に映像及び図面で再現し、繰り返し実施することができるので、災害対応能力の向上に大きな効果があります。
しかし、当初の訓練装置は、平成13年度(2001年度)の導入から8年もの期間が経過し、<1>機器の老朽化、<2>更に複雑・多様化する災害に対応する新たなプログラム(ソフトウエア)の必要性、<3>緊急消防援助隊法制化などの新たな法令改正への対応の必要性が生じ、これらを踏まえ平成21年度に訓練装置の全面改修を行いました。
この改修では、訓練室に作り付けであった訓練装置を、ワイヤレス通信システムの導入により、訓練内容や訓練人数に応じて自由にレイアウトが変更できるよう、様々な訓練想定に対応できるものとしました。
また、従来のシステムは、訓練シナリオの変更が難しく、数パターンの訓練しか行うことができませんでしたが、今回の全面改修により、教官が必要に応じて様々な災害を想定した訓練シナリオを作成することができるようになりました。
さらに、情報の伝達手段として、電話及びファクシミリを訓練ユニットとして組むことにより、臨場感の高いシステムとなっています。
このシステムは、限られた人数の教官で、より多くの学生に対する訓練を行うことができます。消防大学校では、今後更に訓練の想定を増やし、様々な災害に対応できる有能な指揮者の育成に努めていきます。
なお、消防大学校の現在の教育内容や施設整備を紹介するため、インターネットのホームページを充実しています。大学校の紹介ビデオなどを含め、ご覧ください(URL:http://fdmc.fdma.go.jp)。

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