平成22年版 消防白書

3 消防と医療の連携推進

(1)救急搬送における医療機関の受入状況の実態

全国各地で救急搬送時の受入医療機関の選定に困難を来す事案(以下、「受入医療機関の選定困難事案」という。)が報告されたことから、消防庁では、平成19年10月に、平成16年中から平成18年中における産科・周産期傷病者搬送の受入実態についての調査を初めて実施した。また、平成19年中の救急搬送における受入状況等実態調査においては、産科・周産期傷病者に加え、重症以上傷病者、小児傷病者及び救命救急センター等への搬送者も対象として調査を実施した。これらの調査結果により、傷病者の搬送における受入医療機関の選定困難事案の発生状況について、初めて数値をもって明らかになった。
平成19年度以降も救急搬送における受入医療機関の選定困難事案は増加を続けていたが、平成21年中の救急搬送における受入状況等実態調査においては、重症以上傷病者搬送事案、産科・周産期傷病者搬送事案及び救命救急センター等搬送事案において、照会回数4回以上の件数の減少が見られた。

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(2)消防と医療の連携推進

受入医療機関の選定困難事案が多数発生している状況を踏まえ、消防庁は厚生労働省と共同で、都道府県に傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準(以下「実施基準」という。)の策定と実施基準に関する協議会の設置の義務づけ等を内容とする消防法の改正を行った。改正消防法は、平成21年10月30日に施行され、平成22年11月1日現在において、全団体で協議会を設置済みであり、7団体で実施基準が策定済みである(平成22年3月策定:東京都、石川県、愛媛県、鹿児島県 平成22年4月策定:香川県 平成22年5月策定:栃木県 平成22年9月策定:三重県)。消防庁では、実施基準に基づく救急搬送及び受入れが円滑に実施されるよう、厚生労働省と連携し、都道府県に対して、「傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準の策定について」(平成21年10月27日消防庁次長・厚生労働省医政局長通知)の発出等により策定に必要な情報提供等の支援を行っているところである。
また、救急搬送において重要な役割を担っている二次救急医療機関数については、救急利用の増加に対応していない。消防法が改正され、傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準に基づく救急搬送が実施されることを踏まえ、地域における救急医療体制の強化のため、地方公共団体が行う私的二次救急医療機関への助成に係る経費について地方財政措置を講じることとしている。
さらに、今後は実施基準に基づく救急搬送が本格的に実施されることを踏まえ、救急搬送のより迅速かつ適切な実施を図るため、消防機関の保有する救急搬送情報と医療機関の保有する予後情報について、統合して調査・分析する取組を促進させることとしている。

電話による救急相談事業の推進

近年、救急出動件数が大幅に増加しています。増加の要因としては、少子高齢化社会の進展、核家族化の進行などのほかに、救急要請をすべきか、病院に行くべきか否かの判断に迷った場合に119番通報するケースも相当数にのぼると考えられます。
救急相談に関しては、従来から、一部の消防機関において、受診可能な医療機関の情報提供や応急手当方法の指導が行われているところですが、救急需要対策の一環として、これらの相談サービスに加えて、医師や看護師と連携した医学的に質の高い救急相談体制が求められています。
消防庁においては、平成21年度に、住民の安心・安全を担う消防機関が医療機関と連携して、共通の短縮ダイヤル「#7119」により、救急要請をすべきか等の住民の救急相談にこたえる窓口を設置する救急安心センターモデル事業を愛知県、奈良県及び大阪市の3地域で実施しました。
モデル事業実施期間(平成21年10月~平成22年3月)において、3地域合計で、総受付件数は91,257件で、このうち救急相談は34,693件となっています。また、救急相談の結果、救急出動等の救急要請につながったものの件数は2,111件となっています。
モデル事業実施地域においては、モデル事業実施前と比較して、救急搬送者に占める軽症傷病者の比率が低下しており、救急相談事業の実施により、救急要請するか判断に迷った住民が119番通報せずにすんだものが相当数あったものと考えられます。一方で、救急相談の結果、本人の認識とは異なり、緊急度が高いと判断され救急出動した結果、搬送先医療機関でくも膜下出血が判明して一命を取り留めたものなど、電話による救急相談が潜在的な救急患者を掘り起こす機能も有することが確認されました。平成22年度については、大阪市を中心とする地域をモデル地域として実施することとしています。
消防庁では、平成21年度より、救急業務高度化推進検討会に作業部会を設置して、救急相談事業の全国的展開に向けての課題を検討しています。平成22年度は、救急出動件数の動向や救急医療機関の時間外受診者数の動向など救急相談事業の効果の詳細分析を行うほか、家庭、電話相談、救急要請(119番通報)、救急搬送、救急外来の各段階で共有できるトリアージの体系の構築について、関係学会で進められている検討の動向を踏まえつつ、そのうち救急業務に関連する部分について検討しています。これらの検討結果を踏まえ、独自に救急相談事業を実施する団体の取組を促進することとしています。

(3)救急医療体制

傷病者の搬送先となる救急病院及び救急診療所の告示状況は、平成22年4月1日現在、全国で4,292箇所となっている(附属資料40)。
また、厚生労働省では、傷病の重症度に応じて、多層的に救急医療体制の整備強化が進められている。
初期救急医療体制としては休日、夜間の初期救急医療の確保を図るため休日夜間急患センターが529箇所(平成22年3月末現在)で、第二次救急医療体制としては病院群輪番制方式及び共同利用型病院方式により407地区(平成22年3月末現在)で、第三次救急医療体制としては救命救急センターが234箇所(平成22年10月1日現在)でそれぞれ整備されている。また、救命救急センターのうち広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特殊疾病傷病者に対応できる高度救命救急センターは、25箇所(平成22年10月1日現在)で整備されている。
救急告示制度による救急病院及び診療所の認定と初期・第二次・第三次救急医療体制の整備については、都道府県知事が定める医療計画のもとで一元的に実施されている。
これらの救急医療体制の下、消防法の規定により都道府県が策定する実施基準では、傷病者の状況に応じた医療の提供が可能な医療機関のリストが作られることとなっている。

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