平成23年版 消防白書

4 小規模施設の防火安全対策

(1) 社会福祉施設の防火安全対策

近年、比較的小規模な福祉施設において、多数の人的被害を伴う火災が発生している。長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災(平成18年1月:死者7名)を皮切りに、神奈川県綾瀬市の障害者ケアホーム火災(平成20年6月:死者3名)、群馬県渋川市の老人ホーム火災(平成21年3月:死者10名)、札幌市北区の認知症高齢者グループホーム火災(平成22年3月:死者7名)等が発生している。
長崎県大村市の認知症高齢者グループホームの火災を契機に、消防庁では、主として自力避難困難者が入所する小規模社会福祉施設における防火安全対策の強化を図ることとした。具体的には、これらの施設における防火管理者の選任基準を「収容人員10名以上」、スプリンクラー設備の設置基準を「延床面積275m2以上」まで引き下げ、対象施設の範囲を拡大するとともに、すべての施設に消火器、自動火災報知設備及び消防機関へ通報する火災報知設備を設置することを義務付けることとした。このための消防法施行令及び消防法施行規則の一部改正が平成19年6月に公布され、平成21年4月から施行された。施行に際し、既存の施設に対する経過措置として消火器については平成22年4月1日まで、スプリンクラー設備、自動火災報知設備及び消防機関へ通報する火災報知設備については平成24年3月31日までに設置することが定められた。
なお、上記改正の対象が小規模な施設であったことから、費用負担面等も考慮し、水道に直結しその圧力を利用した特定施設水道連結型スプリンクラー設備のように一定の安全性を確保しつつも従来に比べてより簡便な設備で足りることとするなど、その実態に応じた基準の改正も併せて行われた。
また、群馬県渋川市の老人ホーム火災を踏まえ、自力避難困難な者が入所する施設において火災時の逃げ遅れを防止するという観点から、住宅用火災警報器や「小規模福祉施設用の避難訓練マニュアル」の配布等の防火安全対策を推進しているところである。
高齢者、障害者等の災害時要援護者に係るバリアフリー環境の整備を推進するためには、火災等の災害時における消防機関等への緊急通報や迅速な避難誘導等が円滑に行われるよう社会福祉施設の安全性を確保する必要がある。

(2) その他の小規模施設の防火安全対策

一方、社会福祉施設以外の施設においても比較的小規模な施設において多数の人的被害を伴う火災が発生している。平成19年1月には兵庫県宝塚市のカラオケボックス火災、6月には東京都渋谷区の温泉施設爆発火災、平成20年4月には札幌市中央区のソープランド火災、10月には大阪市浪速区の個室ビデオ店火災等が発生している。
これらの火災の発生を受けて、消防庁では、平成19年度の「予防行政のあり方に関する検討会」における検討を踏まえ、カラオケボックス等や温泉採取施設における自動火災報知設備やガス漏れ火災警報設備の設置基準の強化等について、消防法施行令及び消防法施行規則の一部改正が平成20年7月に公布され、同年10月に施行されたところである。
個室ビデオ店等における火災の早期覚知・伝達手段の確保や避難障害への対策に関する技術上の基準の整備については、消防法施行規則等の一部改正が平成21年9月に公布され、同年12月に施行された。本改正により自動火災報知設備及び非常警報設備の設置基準が強化されるとともに、避難経路における煙の滞留を想定した誘導灯の設置基準の改正が行われた。
また、個室ビデオ店舗における個室の外開き戸による避難障害を防止するため、全国消防長会において「個室型店舗における外開き戸の自動閉鎖措置に係る火災予防条例の一部改正案」が取りまとめられ、各消防本部において火災予防条例の改正が進められているところである。
平成22年度からは、近年における火災被害の中心が、雑居ビル内の飲食店やグループホームなどの小規模事業所での火災や高齢者を主たる被災者とする一般住宅火災に移っていること等の火災予防行政をめぐる状況変化を踏まえ、新たな諸課題について「予防行政のあり方に関する検討会」の中で検討がなされ、平成22年12月に「今後の火災予防行政の基本的な方向について」が取りまとめられた。
今後は、当該検討会において取りまとめられた基本的方向を踏まえ、法制上の手当を含めた検討を行うとともに、関係機関とも連携しながら防火安全対策の推進と火災予防に係る実効性の向上を目指し取り組んでいく必要がある。

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