平成23年版 消防白書

2 惨事ストレス対策

東日本大震災では、岩手県、宮城県及び福島県(以下「主な被災3県」という。)をはじめ、全国から派遣された緊急消防援助隊など多くの消防職団員が災害活動に従事したが、地震・津波により破壊された住宅等のがれきの中などでの人命検索や福島第一原発の事故による放射線被ばくの恐怖と戦いながらの活動など、精神的にも身体的にも大変困難な状況下での活動であった。
このような過酷な状況下では、惨事ストレスの発生が危惧されることから、消防庁では5月から、現地の消防本部等の求めに応じて、精神科医等の専門家で編成される緊急時メンタルサポートチーム(以下「チーム」という。)を派遣し、必要な助言等を行うなど、惨事ストレス対策を実施してきた。

(1) 消防本部に対するケア

現場活動に従事する消防職員に惨事ストレスの発生が危惧されたことから、3月23日に消防職員の身体的・精神的ケアに関する事務連絡を発出し、4月15日にチームの派遣要望調査を実施した。その結果を取りまとめ、被災地を重点対象として派遣することとする一方で、緊急消防援助隊として出動した消防本部に対しては、消防庁からの早期の派遣は困難であったことから、独自のメンタルケア対策をとる本部のために、専門家を紹介するとともに、その経費については、平成23年度補正予算(第1号)で対応可能である旨の周知を行った。
チームの派遣は5月17日から開始し、(平成23年11月1日現在)要望のあった被災地(宮城県、福島県)の合計6消防本部の消防職員(全体講義受講者518人、個別カウンセリング受診者226人)を対象に実施した。

(2) 消防団に対するケア

これまで、消防団に対するチームの専門家の派遣事例はなく、今回の震災では前例のない中での対応となったが、4月27日に地元の保健所等との連携や、厚生労働省の「心のケアチーム」による対応などについて事務連絡を発出した。しかしながら、津波による甚大な被害を受けた沿岸部市町村では、各種の災害対応関係業務に追われるなど、消防団員への心のケア対応は困難な状況であった。こうした状況を踏まえて、消防職員と同様、消防庁からチームの専門家を派遣することとし、(財)日本消防協会と共同して、5月19日から被災県に対して要望調査を開始した。
その結果、要望のあった市町村の消防団に対して、チームの専門家の派遣を開始し、(平成23年11月1日現在)合計5市町の消防団員(全体講義受講者204人)を対象に実施した。

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