平成24年版 消防白書

6.消防用設備等

(1) 消防同意の現況

消防同意は、消防機関が防火の専門家としての立場から、建築物の火災予防について設計の段階から関与し、建築物の安全性を高めることを目的として設けられている制度である。
消防機関は、この制度の運用に当たって、建築物の防火に関する法令の規定を踏まえ、防火上の安全性及び消防活動上の観点から、よりきめ細かい審査、指導を行うとともに、この事務が迅速に処理されるような体制の充実と連携の強化を図っている。
平成23年度の全国における消防同意事務に係る処理件数は、22万8,635件で、そのうち不同意としたものは48件であった(第1-1-34表)。

1-1-34hyo.gif

(2) 消防用設備等の設置の現況

消防法では、防火対象物の関係者は、当該防火対象物の用途、規模、構造及び収容人員に応じ、所要の消防用設備等を設置し、かつ、それを適正に維持しなければならないとされている。
全国における主な消防用設備等の設置状況を特定防火対象物についてみると、平成24年3月31日現在、スプリンクラー設備の設置率(設置数/設置必要数)は99.5%、自動火災報知設備の設置率は97.5%となっている(第1-1-35表)。

1-1-35hyo.gif

消防用設備等に係る技術上の基準については、技術の進歩や社会的要請に応じ、逐次、規定の整備を行っている。最近では、平成18年1月に発生した長崎県大村市の認知症高齢者グループホーム火災を踏まえ、主として自力避難困難な者が入所する社会福祉施設を対象として、スプリンクラー設備の設置基準等の強化を行っている。
また、平成19年1月に発生した兵庫県宝塚市のカラオケボックス火災、平成20年10月に発生した大阪市浪速区の個室ビデオ店火災を踏まえ、個室型遊興店舗を対象として自動火災報知設備の設置対象の拡大、自動火災報知設備や誘導灯に関する技術上の基準についての見直し等を行っている。
さらに、大規模地震発生時の避難安全確保のため、緊急地震速報に対応した非常放送や停電時の長時間避難に対応した誘導表示に係る基準の整備等を行っている。
一方、消防用設備等の設置義務違反等の消防法令違反対象物については、消防法に基づく措置命令等の措置を積極的に講じ、迅速かつ効果的な違反処理を更に進めることとしている。

(3) 消防設備士及び消防設備点検資格者

消防用設備等は、消防の用に供する機械器具等に係る検定制度等により性能の確保が図られているが、工事又は整備の段階において不備・欠陥があると、火災が発生した際に本来の機能を発揮することができなくなる。このような事態を防止するため、一定の消防用設備等の工事又は整備は、消防設備士に限って行うことができることとされている。
また、消防用設備等は、いかなるときでも機能を発揮できるように日常の維持管理が十分になされることが必要であることから、定期的な点検の実施と点検結果の報告が義務付けられている。維持管理の前提となる点検には、消防用設備等についての知識や技術が必要であることから、一定の防火対象物の関係者は、消防用設備等の点検を消防設備士又は消防設備点検資格者(総務大臣又は消防庁長官の登録を受けた法人が実施する一定の講習の課程を修了し、消防設備点検資格者免状の交付を受けた者)に行わせなければならないこととされている。
さらに、消防法令において、消防用設備等の技術基準に性能規定を導入したことを受けて、平成16年3月及び5月に消防法施行規則の一部改正が行われ、特殊消防用設備等の工事又は整備を行うことができる特類の甲種消防設備士と、特殊消防用設備等の点検を行うことができる特種消防設備点検資格者の資格が創設された。
これらの消防設備士及び消防設備点検資格者には、消防用設備等に関する新しい知識、技能習得のため、免状取得後の一定期間ごとに再講習を義務付けることにより資質の向上を図っている。また、これらの者が消防法令に違反した場合においては、「消防設備士免状の返納命令に関する運用について(平成12年3月24日消防予第67号)」、「消防設備点検資格者の不適正点検に対する指導指針(平成10年2月25日全消発第34号)」等に基づいて免状の返納命令等を実施している。
平成24年3月31日現在、消防設備士の数は延べ102万3,777人となっており(第1-1-36表)、また、消防設備点検資格者の数は特種(特殊消防用設備等)594人、第1種(機械系統)13万8,410人、第2種(電気系統)13万437人となっている。

1-1-36hyo.gif

なお、消防用設備等の点検を適正に行った証として点検済票を貼付する点検済表示制度が、各都道府県単位で自主的に実施されており、点検実施の責任の明確化、防火対象物の関係者の適正な点検の励行が図られている。

(4) 防炎規制

ア 防炎物品の使用状況

建築物内等で着火物となりやすい各種の物品を燃えにくいものにしておき、出火を防止すると同時に火災初期における延焼拡大を抑制することは、火災予防上特に有効である。このため、消防法により、高層建築物、地下街等の構造及び形態上防火に特に留意する必要のある防火対象物や、劇場、キャバレー、旅館、病院等の不特定多数の者や災害時要援護者が利用する防火対象物(防炎防火対象物)において使用するカーテン、どん帳、展示用合板、じゅうたん等の物品(防炎対象物品)又はその材料には、所定の防炎性能を有するもの(防炎物品)を使用することを義務付けている。
平成24年3月31日現在、防炎防火対象物数は、92万6,430件であり、適合率(使用する各防炎対象物品がすべて防炎物品である防炎防火対象物の割合)は、カーテン・どん帳等を使用する防炎防火対象物で86.9%、じゅうたんを使用する防炎防火対象物で85.8%、展示用合板を使用する防炎防火対象物で82.7%となっている(第1-1-37表)。

1-1-37hyo.gif

イ 寝具類等の防炎品の普及啓発

家庭におけるカーテン、じゅうたんや消防法で定められている防炎対象物品以外の寝具類、自動車・オートバイカバー等についても、防炎化を推進することが火災予防上有効である。このため、消防庁ホームページ(参照URL:http://www.fdma.go.jp/html/life/yobou_contents/materials/index.html)において、防炎品の普及のための動画を掲載するなど、その普及啓発を行っている。

(5) 火を使用する設備・器具等に関する規制

火を使用する設備・器具等(以下「火気設備等」という。)は、家庭用こんろ、ストーブ、給湯器、炉、厨房設備、サウナ設備などその種類は多種多様であり、使用される場所も多岐にわたっている。
これらの火気設備等は、国民の生活になくてはならないものであり、様々な面で国民の生活に役立つものとなっていることから、火気設備等の位置、構造、管理及び取扱いについては、消防法令で定められた基準に基づき、各市町村の火災予防条例によって規制されている。
消防庁においては、新技術・新製品に対応して随時必要な安全対策を検討してきており、平成23年度は、温室効果ガス排出抑制の観点から導入が進められている電気自動車のインフラ整備の一つとして商業施設等に設置されている電気自動車用急速充電設備について、消防令上必要な技術基準等の整備を行っている。

関連リンク

はじめに
はじめに 昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする自治体消防制度が誕生して、まもなく65年を迎えようとしています。この間、我が国の消防は、関係者の努力の積み重ねにより着実に発展し、国民の安心・安全確保に大きな役割を果たしてきました。 しかしながら、平成23年3月に発生した東日本大...
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による被害は、死者・行方不明者約2万人の人的被害、全壊約13万棟、半壊約25万棟の住家被害など、まさに戦後最大の規模となった。 この大災害を受け、消防庁長官の諮問機関である第26次の消防審議会に対し、「広範な地域に...
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化 地震・津波対策については、東日本大震災を踏まえ、平成23年4月に中央防災会議に設置された「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の報告(平成23年9月28日)にあるように、発生頻度の高い津波のみならず、発生頻度は極めて低いも...
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等 (1) 防災基本計画の修正と地域防災計画の見直し 前述の中央防災会議専門調査会報告を基に、平成23年12月に開催された中央防災会議において、地方公共団体において作成する地域防災計画等の基本となる「防災基本計画」が修正された。従来、津波対策は震災対策の特...