3.法令適合の確保
平成14年の消防法の一部改正等を受けて、全国の消防機関において消防法令違反の是正に取り組んだ結果、小規模雑居ビル等の防火対象物に対する違反是正に一定の成果が得られた。
しかし、命令の発動件数や法令基準の遵守状況には地域差が見られ、特に、平成24年5月に発生した広島県福山市のホテル火災においては、長期間、消防法令違反が是正されておらず、また、平成24年5月16日には、建築部局と連携したホテル・旅館等に係る緊急調査を行ったが、報告のあった797施設のうち、549施設(68.9%)において何らかの消防法令違反が発見され、自動火災報知設備が過半にわたり未設置など重大な違反があるものは、そのうちの47施設(5.9%)であった(第2節参照)。
これらのことから、より一層の違反是正の徹底を図るため、管内における火災危険性の高い防火対象物について、関係部局との情報共有や防火対象物定期点検報告等の情報を有効に活用し、人命危険の高い対象物の優先度を整理して実施するなど、効率的かつ効果的な査察体制を構築することが必要である。
また、違反が是正されない防火対象物に対しては、各自治体が定める違反処理基準等に基づき適切な履行期限を設定した警告、措置命令を速やかに発動するとともに、特に人命危険の高い対象物については、その危険性、悪質性の高いものを徹底的に改善させていく対応が必要である。
一方、平成24年6月に公布された消防法の一部改正では、雑居ビル等における防火・防災管理体制の強化を図るため、建築物全体の防火管理業務を行う「統括防火管理者」の選任を義務付け、統括防火管理者に対して各防火管理者への指示権を付与するものとされた(平成26年4月1日施行)。
防火管理制度は、防火対象物の関係者自らが火災を予防し、火災等による被害を軽減するために、防火管理者を中心とした火災予防体制を構築し、消防計画の作成や当該消防計画に基づく消火、通報及び避難の訓練など防火管理上必要な業務を行うことを主とした制度であり、これにより関係者が自ら法令適合の確保や防火安全の向上に取り組むことが重要である。
しかし、防火管理者が選任されていたとしても十分な防火管理がなされていない状況も散見されるため、防火対象物の管理権原者が、資格を有する者に防火管理上必要な業務について消防法令に定める基準に適合しているかどうかの点検を行わせ、その結果を消防機関に報告する「防火対象物定期点検報告制度」を更に推進し、適切な防火管理が図られるようにする必要がある。