平成24年版 消防白書

[危険物行政の現況]

1.危険物規制

(1) 危険物規制の体系

消防法では、〔1〕火災発生の危険性が大きい、〔2〕火災が発生した場合にその拡大の危険性が大きい、〔3〕火災の際の消火が困難であるなどの性状を有する物品を「危険物」*1として指定し、これらの危険物について、貯蔵・取扱い及び運搬において保安上の規制を行うことにより、火災の防止や、国民の生命・身体及び財産を火災から保護し、又は火災による被害を軽減し、もって社会福祉の増進に資することとされている。

*1 危険物:消防法(第2条第7項)では、「別表第一の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するものをいう」と定義されている。
また、それぞれの危険物の「性状」は、「消防法別表第一 備考」に類別に定義されている。

危険物に関する規制は、昭和34年(1959年)の消防法の一部改正及び危険物の規制に関する政令の制定により、全国統一的に実施することとされ、それ以来、危険物施設*2に対する、より安全で必要十分な技術上の基準の整備等を内容とする関係法令の改正等を逐次行い、安全確保の徹底を図ってきた。

*2 危険物施設:消防法で指定された数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う施設として、市町村長等の許可を受けた施設で、以下のとおり、製造所、貯蔵所及び取扱所の3つに区分されている。

なお、危険物に関する規制の概要は、下記のとおりである。
・指定数量(消防法で指定された、貯蔵又は取扱いを行う場合に許可が必要となる数量)以上の危険物は、危険物施設以外の場所で貯蔵し、又は取り扱ってはならず、危険物施設を設置しようとする者は、その位置、構造及び設備を法令で定める基準に適合させ、市町村長等の許可を受けなければならない。
・危険物の運搬については、その量の多少を問わず、法令で定める安全確保のための基準に従って行わなければならない。
・指定数量未満の危険物の貯蔵及び取扱いなどの基準については、市町村条例で定める。

1-3-11zu.gif
1-3-1hyo.gif

(2) 危険物規制の最近の状況

危険物等の規制に関しては、科学技術の進展、社会経済の変化等を踏まえ、必要な見直しを行っている。
最近における主なものとしては、平成23年12月に取りまとめられた「リチウムイオン電池に係る危険物施設の安全対策のあり方に関する検討報告書」を踏まえて、同月にリチウムイオン電池の貯蔵及び取扱いについて全国の消防機関に通知したほか、危険物の規制に関する政令を改正し、平成24年5月から、危険物を用いた蓄電池設備を設置する一般取扱所を建築物の屋上、地階等に設置することを可能とした。
給油取扱所に関するものとしては、温室効果ガス削減のため、自動車の燃料としてエタノール含有ガソリンの普及が見込まれることから、平成24年1月にエタノール含有ガソリンを取り扱う給油取扱所の技術基準を定めた。また、次世代自動車である電気自動車や燃料電池自動車の普及に向け、電気自動車の急速充電設備や燃料電池自動車の水素充てん設備が給油取扱所に設置される場合の安全対策について、それぞれ平成24年3月及び5月に消防法令の改正等の必要な措置を実施した。
平成24年4月には、これまでの長周期地震動等の被害を踏まえて安全の確保について議論を重ねてきた浮き蓋付きの特定屋外貯蔵タンクについて、浮き蓋の耐震性等の技術基準を定めた。
平成24年7月には、新たに危険性が確認された炭酸ナトリウム過酸化水素付加物を消防法別表第一に掲げる第1類(酸化性固体)の危険物の品名に追加した。

(3) 危険物施設の現況

平成24年3月31日現在の危険物施設の総数(設置許可施設数)は44万7,277施設*3となっている(第1-3-1表)。

1-3-1hyo.gif

施設区分別にみると、貯蔵所が全体の約7割を占めている(第1-3-12図)。

1-3-12zu.gif

なお、これらのうち、石油製品を中心とする第4類の危険物を貯蔵し、又は取り扱う危険物施設は97.8%*3を占めている。

*3 東日本大震災の影響により、岩手県陸前高田市消防本部及び福島県双葉地方広域市町村圏組合消防本部のデータについては、一昨年度調査時(平成22年3月31日現在)の件数により集計している。

平成24年3月31日現在における危険物施設総数に占める規模別(貯蔵最大数量又は取扱最大数量によるもの)の施設数では、指定数量の50倍以下の危険物施設が、全体の76.3%*4を占めている(第1-3-13図)。

*4 東日本大震災の影響により、岩手県陸前高田市消防本部及び福島県双葉地方広域市町村圏組合消防本部のデータについては、一昨年度調査時(平成22年3月31日現在)の件数により集計している。

1-3-13zu.gif

(4) 危険物取扱者

危険物取扱者は、すべての危険物を取り扱うことができる「甲種」、取得した類の危険物を取り扱うことができる「乙種」及び第4類のうち指定された危険物を取り扱うことができる「丙種」に区分されている。危険物施設での危険物の取扱いは、安全確保のため、危険物取扱者が自ら行うか、その他の者が取り扱う場合には、甲種又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければならないとされている。
平成24年3月31日現在、危険物取扱者制度発足以来の危険物取扱者試験の合格者総数(累計)は845万3,109人となっており、危険物施設における安全確保に大きな役割を果たしている。

平成23年度中の危険物取扱者試験は、全国で489回(対前年度比43回増)実施された。受験者数は46万1,484人(対前年度比9,202人減)、合格者数は19万8,869人(対前年度比318人増)で平均の合格率は約43.1%(対前年度比0.9ポイント増)となっている(第1-3-14図)。

1-3-14zu.gif

この状況を試験の種類別にみると、受験者数では、乙種第4類が全体の63.8%、次いで丙種が全体の9.0%となっており、この二種類の試験で全体の72.8%を占めている。合格者数でも、この二種類の試験で全体の60.9%を占めている。
なお、甲種危険物取扱者試験について、従来の受験資格として、一定の学歴を有する者や乙種危険物取扱者免状の交付を受けた後二年以上危険物取扱の実務経験を有する者としていたが、平成20年4月1日以降、第1類(又は第6類)、第2類(又は第4類)、第3類及び第5類の4種類以上の乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者の受験が可能になるなど、受験資格が拡大されている。

危険物施設において危険物の取扱作業に従事する危険物取扱者は、原則として3年以内(平成24年4月1日からは、危険物取扱者免状の交付又は保安講習を受けた日以降における最初の4月1日から3年以内)ごとに、都道府県知事が行う危険物の取扱作業の保安に関する講習(保安講習)を受けなければならないこととされている。
平成23年度中の保安講習は、全国で延べ1,390回(対前年度比19回増)実施され、17万1,378人(対前年度比2,586人減)が受講している(第1-3-2表)。

1-3-2hyo.gif

(5) 事業所における保安体制の整備

平成24年3月31日現在、危険物施設を所有する事業所総数は、全国で20万9,902事業所*5となっている。
事業所における保安体制の整備を図るため、一定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う危険物施設の所有者等には、危険物保安監督者の選任、危険物施設保安員の選定(1,652事業所)*5、予防規程の作成(49,861事業所)*5が義務付けられている。また、同一事業所において一定の危険物施設を所有等し、かつ、一定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱うものには、自衛消防組織の設置(61事業所)*5、危険物保安統括管理者の選任(219事業所)*5が義務付けられている。

*5 東日本大震災の影響により、岩手県陸前高田市消防本部及び福島県双葉地方広域市町村圏組合消防本部のデータについては、一昨年度調査時(平成22年3月31日現在)の件数により集計している。

一定の規模以上の屋外タンク貯蔵所及び移送取扱所の所有者等は、その規模等に応じた一定の時期ごとに、市町村長等が行う危険物施設の保安に関する検査を受けることが義務付けられている。
平成23年度中に実施された保安検査は246件*6であり、そのうち特定屋外タンク貯蔵所に関するものは239件*6、特定移送取扱所に関するものは7件*6となっている。

*6 東日本大震災の影響により、岩手県陸前高田市消防本部及び福島県双葉地方広域市町村圏組合消防本部のデータは除いた件数により集計している。

市町村長等は、危険物の貯蔵又は取扱いに伴う火災防止のため必要があると認めるときは、危険物施設等に対して施設の位置、構造及び設備並びに危険物の貯蔵又は取扱いが消防法で定められた基準に適合しているかについて立入検査を行うことができる。
平成23年度中の立入検査は20万916件*7の危険物施設について、延べ22万4,435回*7行われている。
立入検査を行った結果、消防法に違反していると認められる場合、市町村長等は、危険物施設等の所有者等に対して、貯蔵又は取扱いに関する遵守命令、施設の位置、構造及び設備の基準に関する措置命令等を発することができる。
平成23年度中に市町村長等がこれらの措置命令等を発した件数は284件*7となっている(第1-3-15図)。

*7 東日本大震災の影響により、岩手県陸前高田市消防本部及び福島県双葉地方広域市町村圏組合消防本部のデータは除いた件数により集計している。

1-3-15zu.gif

関連リンク

はじめに
はじめに 昭和23年に消防組織法が施行され、市町村消防を原則とする自治体消防制度が誕生して、まもなく65年を迎えようとしています。この間、我が国の消防は、関係者の努力の積み重ねにより着実に発展し、国民の安心・安全確保に大きな役割を果たしてきました。 しかしながら、平成23年3月に発生した東日本大...
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応
第I部 東日本大震災を踏まえた課題への対応 平成23年3月11日に発生した東日本大震災による被害は、死者・行方不明者約2万人の人的被害、全壊約13万棟、半壊約25万棟の住家被害など、まさに戦後最大の規模となった。 この大災害を受け、消防庁長官の諮問機関である第26次の消防審議会に対し、「広範な地域に...
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化
第1章 地震・津波対策の推進と地域防災力の強化 地震・津波対策については、東日本大震災を踏まえ、平成23年4月に中央防災会議に設置された「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の報告(平成23年9月28日)にあるように、発生頻度の高い津波のみならず、発生頻度は極めて低いも...
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等
1.防災基本計画の修正と災害対策基本法の改正等 (1) 防災基本計画の修正と地域防災計画の見直し 前述の中央防災会議専門調査会報告を基に、平成23年12月に開催された中央防災会議において、地方公共団体において作成する地域防災計画等の基本となる「防災基本計画」が修正された。従来、津波対策は震災対策の特...