平成24年版 消防白書

7.災害別対策

(1) 洪水

流域に降った大量の雨水が河川に流れ込み、特に堤防が決壊すると、流域では大規模な洪水被害が発生する。平成24年7月九州北部豪雨では、熊本県、福岡県、大分県を中心に河川が増水、氾濫し、多くの浸水被害が生じた。

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一方、近年、短時間に局地的に激しい雨が降り注ぎ、山間部や都市部の中小河川に一気に流れ込み、平常時には川遊びができるような穏やかな河川が増水して勢いを増し、氾濫して沿岸地域に甚大な被害をもたらす事例が各地で発生している。平成24年8月の近畿地方を中心とした前線による大雨では、局地的に降った猛烈な雨により、中小の河川が増水し、浸水被害が生じた。
特に洪水被害への対策として、消防庁では通知等により、市町村に対して以下の取組について要請している。
〔1〕 大雨、洪水等の警報や、雨量、河川水位に関する情報などの防災情報を的確に収集・活用し、避難勧告等の迅速かつ的確な発令・伝達に努めること。
〔2〕 地下空間での豪雨及び洪水に対する危険性について事前の周知を図り、地下空間の施設管理者と連携し、浸水対策及び避難誘導等安全体制を強化すること。洪水時には迅速かつ的確に情報を伝達し、利用者の避難のための措置等を講じること。また、豪雨時に冠水する可能性のある道路のアンダーパス等の区間について、道路管理者等と連携し、洪水時には迅速に状況を把握し、適切な措置を講じること。
〔3〕 大雨後の河川増水時、行楽者等に対して速やかに安全な場所へ避難するよう注意を促すなど適切に対応すること。また、局地的大雨により中小河川が急に増水する事例が発生していることを踏まえ、行楽者等に対して水難事故の危険性について啓発に努めること。

(2) 土砂災害

大雨の際には、土石流、地すべり、がけ崩れなどの土砂災害に厳重に警戒する必要がある。平成24年7月九州北部豪雨では、熊本県、福岡県を中心に多数の土砂災害が発生し、多数の死者・行方不明者、孤立集落を出す被害となった。
土砂災害対策に関しては、昭和63年(1988年)に中央防災会議で決定された「土砂災害対策推進要綱」、平成13年4月に施行された「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(以下「土砂災害防止法」という。)及び同法律に基づいて定められた「土砂災害防止対策基本指針」等に基づいてハード・ソフトの両面により対策を推進している。
消防庁では通知等により、市町村に対して主に以下の項目について要請している。
〔1〕 都道府県が土砂災害警戒区域を指定したときは、土砂災害防止法第7条に基づき、地域防災計画に必要な事項(警戒区域ごとの土砂災害に関する情報の収集及び伝達、予報又は警報の発令及び伝達、避難、救助その他当該警戒区域における土砂災害を防止するために必要な警戒避難体制に関する事項)を記載すること。その際、「土砂災害警戒避難ガイドライン」を参照し、適切に定めること。
〔2〕 特に災害時要援護者関連施設については、当該施設の利用者の円滑な避難が行われるよう土砂災害に関する情報の伝達方法を定めること。
〔3〕 例年、急傾斜地崩壊危険区域、地すべり防止区域等の指定区域以外の箇所においても土砂災害が発生していることから、従来危険性が把握されていなかった区域もあわせて再点検を行うこと。
〔4〕 大雨による土砂災害発生の危険度が高まった時に都道府県と気象庁が共同で発表する土砂災害警戒情報について、避難勧告等の発令に当たり重要な判断材料にすること。
〔5〕 土砂災害に対する地域防災力の強化を図ること。
さらに、平成21年8月13日の7府省庁連名通知(P. 108参照)において、都道府県に対し、土砂災害防止法に基づき、警戒避難体制の整備等に関する調査を実施し、速やかに、土砂災害警戒区域等の指定を実施すること、市町村が作成するハザードマップについて、砂防、河川、治山及び農業用施設等の専門的知見に基づく技術的助言などを行うことを求めている。

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(3) 高潮

平成11年(1999年)9月に熊本県不知火海岸で高潮により12人の死者が発生したこと等を踏まえ、消防庁では、平成13年3月に内閣府、農林水産省、国土交通省等と共同で、高潮対策強化マニュアルを策定した(参照URL:http://www.bousai.go.jp/oshirase/h13/130330takashio.html)。
また、「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」(平成17年3月策定)では、高潮災害についても、避難勧告等の発令基準の策定等の方法について示し、各市町村における具体的判断基準の策定を要請している。

(4) 竜巻・突風

竜巻や突風による災害は全国各地で発生している。
平成24年5月6日に、茨城県、栃木県及び福島県において複数の竜巻が発生し、死傷者や多くの住家被害が発生する被害となった。
この竜巻災害を受けて、消防庁では5月に、地元気象台などとも連携の上、気象情報に十分留意し、竜巻等突風災害に係る対応についての住民に対する周知、啓発等に努められるよう、通知や会議等において都道府県に要請した。また、政府においては、関係府省庁からなる「竜巻等突風対策局長級会議」(事務局:内閣府)が開催され、8月に竜巻等突風に係る住民、市町村及び国の今後の取組等について報告が取りまとめられた。これを受けて、消防庁では同報告に留意の上竜巻等突風対策に取り組むよう要請した。

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