第6章 東日本大震災を踏まえた研究開発
東日本大震災では、次のような消防防災分野における科学技術上の重要課題が改めて浮き彫りとなった。すなわち、〔1〕極めて広域な地域が被災地となるような災害が発生した場合における早期かつ的確な被害推定及び被害情報収集並びに応急対応に関する意思決定支援のための情報通信技術の必要性、〔2〕津波浸水域で発生した火災の発生原因・延焼要因の究明と防火対策に関する知見の必要性、〔3〕水やがれきが滞留している津波浸水域における消防活動・救助活動を高度化する技術の必要性、〔4〕石油コンビナートにおける地震・津波対策、特に津波対策に関する知見の必要性、〔5〕震災後に発生するがれきなど堆積物の火災予防対策に関する知見と消火技術の必要性、〔6〕原子力発電所の事故を受けて、今後なお一層利活用の推進が予想される再生可能エネルギーの防火安全対策に関する知見の必要性などである。
東日本大震災後に策定された「第4期科学技術基本計画」(平成23年8月19日閣議決定)には、新たな基本方針として「震災からの復興、再生の実現」が盛り込まれた。平成25年度科学技術予算における最重点化の対象となる施策を特定している「平成25年度科学技術重要施策アクションプランの対象施策について-社会的課題の解決に向けた科学技術最重点施策-」(科学技術政策担当大臣・総合科学技術会議有識者議員、平成24年9月13日)では、「復興・再生並びに災害からの安全性向上」が一つの柱として掲げられており、この柱には上記課題に対応するほとんどの消防庁の関係施策が昨年度に引き続き盛り込まれている。このように、東日本大震災が突きつけた消防防災の科学技術上の課題は、最優先で取り組むべきものとなっている。
これまで、消防庁においては「消防防災科学技術高度化戦略プラン」(平成19年2月策定)に基づき、消防防災科学技術の高度化の推進に努めてきたところであるが、東日本大震災で浮き彫りになった課題や、昨今の社会構造、経済情勢の変化に伴い現出した課題など、山積する消防防災分野における様々な課題について科学技術の側面から解決する研究・開発を、戦略的かつ効率的に推進するため、第4期科学技術基本計画との整合を図りつつ、平成24年10月に同プランを改定し、「消防防災科学技術高度化戦略プラン(2012)」を取りまとめた。
また、消防防災科学技術の研究開発の中心的機関である消防研究センターでは、東日本大震災を踏まえて平成23年度からの5年間の研究計画の見直しを行い、前記〔1〕~〔6〕の課題を解決するため、広域版地震被害想定システムの研究開発、東日本大震災における火災分析と防火対策に関する研究、津波浸水域における消防活動用車両等の研究、石油タンクの津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研究、巨大地震による石油コンビナート地域における強震動予測及び石油タンク被害予測の研究、がれきなど堆積物の火災危険性評価方法及び消火技術の開発、再生可能エネルギー関連設備・装置の火災危険性把握のための研究等に取り組んでいる。

