平成24年版 消防白書

1.消防防災に関する研究

消防研究センターでは、平成23年度からの5年間を一つの研究期間として、第6-1表に掲げる四つの課題について研究開発を行っている。これらの研究内容には、東日本大震災で浮き彫りとなった消防防災の科学技術上の課題や、原子力発電所の事故の影響によるエネルギー事情の変化など、震災後の状況変化を見据えた課題も盛り込んでいる。ここでは、各研究課題の背景・目的と、開始年度である平成23年度1年間に得られた主な研究開発成果について述べる。

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(1) 消防活動の安全確保のための研究開発

ア 背景・目的

本研究課題では、消防活動により一人でも多くの命を救うことができるよう、安全かつ効果的な消防活動を実現する上での技術的課題の解決を目指して、次の四つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

平成9年(1997年)以降の消火活動中の消防職員の受傷等の状況をみると、平均して一年間に約2名が殉職し、約300名が負傷しており、消火活動には依然として高い危険が伴うことを示している。また、近年の省エネルギー指向の建物は、可燃性のプラスチック断熱材等を使用していることや高い気密性を有していることから消火活動中に急激に火勢が拡大することがあり、このような建物の増加により、今後、消火活動における危険性は更に高まるおそれがある。このサブテーマでは、これまでの消防防護服に関する研究開発成果を踏まえて、消防隊員が消防ヘルメット等を含めた防護装備を着用した状況の下で、その防護装備全体に求められる安全性能を明らかにするとともに、より安全かつ効果的に消火活動を実施できるようにするための活動基準を考案することを目指している。

東日本大震災では、津波で浸水した地域に消防隊員が進入することが極めて困難であったことなどから、津波浸水域における消火・救助活動が難航した。このため、今後我が国に起こり得る大震災への備えとして、津波浸水域にも進入できる消防用車両等や津波浸水域における要救助者を速やかに発見する技術などが必要と考えられる。このサブテーマでは、〔1〕津波で浸水し、がれきが堆積しているような地域においてもなお、消火・救助活動を安全かつ円滑に実施することを可能とする消防用車両等が有すべき機能・性能を具体的に示すこと、〔2〕要救助者を速やかに発見するため、無人ヘリコプター等により周囲の状況を把握する技術を開発することを目指している。

豪雨や地震を契機としたがけ崩れは、我が国では避けることのできない災害であり、万一の生き埋め者の発生に備えることは重要である。がけ崩れによる生き埋め者の救助活動では、更なるがけ崩れが起きて救助活動を行う者に二次災害が生じるおそれの有無に注意する必要がある。現在、がけ崩れの前兆があるかどうかを素早くかつ広い範囲にわたって監視する方法はない。このため、このサブテーマでは、無人ヘリコプター等を活用してがけの変形を素早く広範囲に監視するシステムの開発を目指している。

救急活動において使用中のAEDに不具合と疑われるような動作が生じる事例が相次いで発生しており、その件数は平成19年から21年までの3年間に328件となっている。このような事例の発生状況については、平成21年度に行われた全国メディカルコントロール協議会連絡会の調査の結果が報告されているが、その後もこのような事例の発生が見られる。このサブテーマでは、救急活動を確実に行い、救える命を救えるようにするため、AEDの動作の不具合の要因を調査分析し、対応策の考案を目指している。

イ 平成23年度の主な研究開発成果

津波浸水域で消防活動を行った消防本部等に聞き取り調査を行い、がれきや消防活動の状況などの実態を把握するとともに、津波浸水域における活動に用いる消防車両等が有すべき機能・性能として、〔1〕水上がれきを乗り越えられること、〔2〕小型で小回りがきくこと、〔3〕メンテナンスが容易で普段でも使えることなどが、現場から求められているとの知見を得た。

(2) 危険性物質と危険物施設の安全性向上に関する研究

ア 背景・目的

本研究課題では、東日本大震災において石油類等の危険物の貯蔵・取扱いを行う危険物施設が津波や地震動で多数被災したこと、我が国では今後もなお大地震の発生が危惧されていること、環境保護への取組が進められる中で、火災危険性がよくわからない物質やいったん火災が発生すると消火が困難な物質が普及するなど防火安全上の課題が生じていることを踏まえ、危険性物質と危険物施設の安全性の向上を目指して、次の四つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

東日本大震災では、数多くの石油タンクや配管が津波で押し流されたり、損傷したりする甚大な被害が発生した(第6-1図)。その結果、石油類が流出し、なかには石油コンビナート火災に至った事例もあった。このような石油タンク等危険物施設の大規模な津波被害は、我が国では初めてのことである。また、火災や危険物の大量流出には至らなかったものの、地震動の影響で石油タンクが損傷する被害も発生した。

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地震・津波発生時の危険物施設の健全性の確保は、被害拡大の視点からのみならず、被災地における災害救助活動、避難生活にとって必要となる石油類等エネルギーの供給維持にとっても不可欠であることが、東日本大震災でも示された。石油タンク等危険物施設の津波・地震動被害の予防・軽減対策の確立は、南海トラフや首都直下等における大地震の発生が危惧されている状況の中で、なお一層その重要性を増している。
このようなことから、サブテーマ「石油タンクの津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研究」では、津波による石油タンクの被害発生メカニズムの解明、それに基づく被害予防・軽減対策の考案及び対策による効果の評価を目指している。また、サブテーマ「巨大地震による石油コンビナート地域における強震動予測及び石油タンク被害予測の研究」では、石油タンクの揺れによる被害を予防・軽減するためのより的確な対策案を立てられるよう、石油コンビナート地域等における強震動の予測をより精度よく、きめ細かに行えるようにすることを目指している。

環境保護に向けた取組がますます盛んになる中、これに伴って防火安全上の課題も生じている。具体的には、資源再利用の取組の一環として、廃木材や再生資源燃料等の再生資源物質の利用が進められているが、これらの再生資源物質に関係する火災が発生していることが挙げられる。このような火災を予防するための知見・方策は、今後安全を確保しつつ再生資源物質の利用を促進する上で、必要不可欠なものになってくると考えられる。
再生資源物質は、山積みの状態で貯蔵されている場合が多く、そこでの火災は蓄熱発火で発生するものが多い。東日本大震災の後には、震災で発生した山積みのがれきから火災が発生しており(第6-2図)、これらの火災もまた蓄熱発火によるものと考えられる。再生資源物質(がれきに含まれる物を含む。)が蓄熱発火する危険性をどの程度有しているかを適正に評価することは、火災予防上重要であるが、その評価手法は確立されていない。

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また、山積み状態の再生資源物質の火災は、一般的に消火が困難であり、とくに金属スクラップの火災については、消火方法が確立されていない。
このようなことから、このサブテーマでは、再生資源物質の蓄熱発火の危険性の評価手法と火災になった場合の消火方法の開発を目指している。

世界的な環境保護に向けた取組として、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づいて、フッ素化合物のうちPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)と呼ばれる物質の使用禁止が取り決められ、我が国でも原則として製造・使用ができなくなった。PFOSは石油タンク等の火災の消火に用いられる泡消火薬剤に、消火性能を向上させるために添加されてきており、今後、泡消火薬剤を新たに配置したり、古くなった泡消火薬剤を新しいものに交換したりするような場合には、これまでのPFOSを含む泡消火薬剤が使用できなくなることが懸念される。一方、泡消火薬剤の消火性能については、法令で基準が定められており、泡消火薬剤にPFOSを使えなくなったことによる影響の評価と今後の対応策が必要になってくるものと考えられる。
このようなことから、このサブテーマでは、PFOSを含まない泡消火薬剤のより効果的な使用方法とその消火性能をより適切に評価する方法の考案を目指している。

イ 平成23年度の主な研究開発成果

サブテーマ「石油タンクの津波による損傷メカニズム及び発生防止策の研究」では、東日本大震災の際の津波による石油タンクの移動被害(流されたり、元の場所からずれてしまったりする被害)の発生状況と石油タンク立地場所での津波浸水深の関係を整理した結果、津波浸水深から石油タンクの移動被害発生のおそれの有無を予測するためのものとして消防庁から提案されている簡易予測式の予測精度は高く、石油タンクの移動被害の予測に利用可能であることが示された。
サブテーマ「再生資源物質の火災危険性評価方法及び消火技術の開発」では、固体の再生資源物質について、発熱開始温度、発熱量、可燃性ガス発生量が蓄熱発火の危険性を評価するための指標となり得ることを示した。また、再生資源物質の中には、水分を添加した場合に微生物活動が活発となり、熱的危険性が高まるものがあることがわかった。

(3) 大規模自然災害時の消防力強化のための情報技術の研究開発

ア 背景・目的

本研究課題では、消防をはじめとする市町村の職員が、大地震や大雨による洪水などの未経験かつ未曾有の大規模災害に直面することとなった場合でも、被害推定シミュレーションなどを活用した情報技術に基づき、適切な意思決定とそれに基づく迅速・的確な応急対応を可能とすることを目指して、次の三つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

東日本大震災における災害対応の初期段階では、広範囲にわたる被害と通信の途絶などによって、甚大な被害を受けた地域及び全体的な被害規模の把握ができず、緊急消防援助隊の活動に係る意思決定が容易でなかった。地震発生後に被害の様相がなかなか把握できない状況下では、被害の規模や分布を推定する仕組みが応急対応に係る意思決定を支援するものとなり得る。このような仕組みの一つとして、震源に関する情報に基づいて被害を推定するものを開発し、実用してきた。しかし、2011年東北地方太平洋沖地震のような巨大地震では、気象庁から地震直後に発表される震源に関する情報のみからでは、正確な推定ができず、応急対応の妨げともなりかねない。そこでこのサブテーマでは、震度情報などを活用することにより、巨大地震に対しても確度の高い地震・津波被害推定結果が得られるようなシステムの開発を目指している。

大規模水害時においては、地方公共団体の災害対策本部が行う応急対策の項目は非常に多い。さらに、対策実施の判断条件、優先順位、対応力の限界などが複雑に絡み合うこと、災害の様相は時々刻々と変化し得るものであることなどから、どのような対策を、いつ、どのように実施するかを迅速かつ的確に判断することは極めて困難であり、場合によっては避難勧告発出に遅れが生じることも懸念される。加えて、大規模水害は頻繁に発生するものではないため、災害対策本部で応急対応にあたる担当者全員が必ずしも経験豊富ではないということも考えられる。こうしたことから、災害対策本部における水害時の応急対応を支援するための情報を提供するシステムの必要性は極めて高いといえる。
このようなことから、このサブテーマでは、〔1〕河川水位等の災害情報を受け取り、その情報に基づいて住民が積極的に避難行動をとれるよう、わかりやすい防災広報文を作成し、緊迫感のある音声で広報する「警報伝達システム」を新たに開発すること、〔2〕大規模水害時に災害対策本部が行うべき応急対策項目を指示し、それらの実施の管理を支援するために、これまで消防研究センターが開発に取り組んできた「水害対応意思決定支援システム」に「警報伝達システム」が取得する情報を共有する機能等を追加することを目指している。

首都直下地震など大都市等で大地震が発生した場合は、多数の火災がほぼ同時に発生することが危惧される。このような場合には、消防本部の指揮指令担当者には、限られた消防隊を被害が最少になるように火災現場へ出動させることが求められる。しかし、消防職員であっても、同時多発火災に対応した経験を有する者は少ないことから、判断・指示を的確に行うことは必ずしも容易ではないと考えられ、地震時の同時多発火災への消防の対応力を強化するためには、そのような火災を想定した図上訓練が重要である。そこで、本サブテーマでは、〔1〕東日本大震災における火災発生事例に基づく地震直後の火災発生件数の予測式の検討、〔2〕複数の出火点の延焼予測を高速で実行可能なシステムの開発、〔3〕同時多発火災対応のための効果的な消防戦術の検討を行い、これらの結果を活用して、同時多発火災対応訓練シミュレーターを開発することを目指している。

イ 平成23年度の主な研究開発成果

サブテーマ「広域版地震被害想定システムの研究開発」では、巨大地震発生時の被害推定に利用できる震度情報がどの程度取得可能であるかという観点から、2011年東北地方太平洋沖地震の際の震度情報の収集状況を整理した。また、気象庁以外の震源情報の活用方法の一つとして、米国地質調査所(USGS)が発表する震源情報を基に、日本を含む全世界の地震被害が推定可能な国際版地震被害想定システム(第6-3図)を開発し、試験運用を開始した。

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サブテーマ「水害時の応急対応支援システムの開発」では、平成16年に水害に見舞われた兵庫県豊岡市を対象として、水害時の同市の時系列の対応状況等に基づいて「水害対応意思決定支援システム」の動作を検証し、同市の防災計画・対応マニュアルどおりの応急対策項目の指示が可能であることを確認した。また、「警報伝達システム」が取得する河川水位情報等を共有できるようにするための機能を「水害対応意思決定支援システム」に加えた。
サブテーマ「同時多発火災への対応を訓練するためのシミュレーターの開発」では、デジタルペンで火災延焼シミュレーションを操作できるユーザインターフェース機器を開発することなどにより、効果的な図上訓練を可能とする同時多発火災対応訓練シミュレーターの試作版(第6-4図)を作成した。

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(4) 多様化する火災に対する安全確保に関する研究

ア 背景・目的

本研究課題では、東日本大震災で発生したような地震・津波火災、社会環境の変化などにより多様化している火災、住宅用火災警報器、再燃火災などに関係する様々な防火安全上の技術的課題を解決することを目指して、次の五つのサブテーマを設け、5年間の計画で研究開発を行っている。

a 東日本大震災において発生した火災の発生原因や延焼要因の究明
東日本大震災では、市街地広域火災に拡大した火災や避難所に延焼した火災など、地震・津波火災として重大な問題を含むものが発生しているが、これらの火災の中には、実態がよくわからないものがある。また、津波で浸水した自動車から出火する事例が多数あったことが、目撃談やビデオ映像などからわかっているが、その出火メカニズムは明らかでない。このようなことから、このサブテーマでは、今後の地震・津波火災を防いだり、延焼・拡大を抑えたりするための技術的方策を見出すため、東日本大震災において発生した火災の発生原因や延焼要因を究明することを目指している。
b 再生可能エネルギー関連設備・装置の火災危険性把握
環境指向の高まりとともに、太陽光など再生可能エネルギーを利用した家庭内発電装置やメガソーラーなどの発電所の数が増加している。このような再生可能エネルギー関連設備・装置は、東日本大震災における原子力発電所の事故の影響による電力不足や被災地復興のための需要などの要因から今後ますます増えていく可能性がある。しかしながら、太陽光発電装置が設置された住宅における火災の消火活動中に消防隊員が感電するという事案が報告されており、このような太陽光発電装置は消火活動中の危険要因となり得る。そこでこのサブテーマでは、太陽光発電装置などの再生可能エネルギー関連設備・装置の火災予防上の安全な使用方法と、そのような設備・装置が設置されている火災現場において、安全に消火活動を行えるようにするための方策を見出すため、〔1〕設備・装置自体が有する火災危険性と、〔2〕設備・装置が火災に巻き込まれた時に発生する危険性を評価することを目指している。

近年、個室ビデオ店のように消防法令上想定されていなかった新しい業態や建物の使い方の出現、新しい素材や物質などの普及、高齢化の進展、一人暮らし世帯の増加などにより、火災の原因や現象、被害の生じ方も変化している。
このサブテーマでは、火災予防のための施策と啓発活動への反映や、実施すべき新たな研究課題の提起などを通じて、火災による人的・物的被害の軽減につなげられるよう、年々変化する火災の実態を分析し、その傾向・要因を把握することを目指している。

a 様々な可燃物の燃焼・消火に伴う生成物及び燃焼に伴う諸現象の把握
低反発素材、金属混合樹脂、建物内外の断熱材などの新しい材料・素材の中には、火災時の燃焼性状や燃焼中・消火中の危険性など、正確な火災感知・消火、安全な避難、効果的な消防活動にとって必要不可欠な情報が得られていないものがある。このサブテーマでは、こうした可燃物の燃焼・消火に伴う生成物及び燃焼に伴う諸現象を主として実験的に把握することを目指している。
b 火災に伴って発生する旋風の発生メカニズム・発生条件の解明
大規模市街地火災、林野火災などでは、「火災旋風」と呼ばれる竜巻状の渦が発生して、多くの被害が引き起こされることがあり、首都直下地震においてもその発生が危惧されている。これまでの研究により、火災域の風下に発生する旋風の発生メカニズムや構造が徐々に明らかになってきたが、依然不明な点が多い。そのためこのサブテーマでは、火災域の風下に発生する旋風の発生メカニズム・発生条件の解明に加えて、無風下で発生する火災旋風の発生条件の解明を目指している。
c コンピュータシミュレーションによる火災再現技術の研究開発
火災の調査や消防用設備の設置の効果の検討を行う目的で、火災実験が行われる場合があるが、そのような実験には大規模な設備が必要である。また、実験の準備・実施には多くの時間、費用が必要であることから、実験条件を変えたいくつものケースについて実験を行うことは困難である。このような火災実験の代わりとなり、かつより効率的な手段として、コンピュータシミュレーションによる火災再現技術が期待されており、その有効性も示されつつある。しかし、そのようなシミュレーションを行うには高価で高性能なコンピュータが必要であるため、消防本部等においては導入しにくい状況にある。このようなことから、このサブテーマでは、パソコンでも火災再現のコンピュータシミュレーションを実施可能にするような高速な計算手法の研究開発を目指している。

a 警報の受け手側の特性に適した警報伝達技術の開発
住宅用火災警報器や自動火災報知設備では、警報の受け手側の聴覚特性により警報が伝達できない事例があるなど、音による警報伝達には限界があることが指摘されている。このようなことから、このサブテーマでは、警報の受け手側の特性に対応したもので、容易に用いることができ、かつ安価できめ細かく警報の伝達が行える技術の開発を目指している。
b 小規模な建物が密集した地域における実効性の高い警報伝達技術の開発
住宅用火災警報器や自動火災報知設備が設置されていない小規模店舗が多いアーケード街や市場では、ひとたび出火すると延焼拡大する事例がある。このような火災における安全確実な避難を可能にする方法として、火災警報を火災が発生した建物の中にいる人のみではなく、その周辺の建物の中にいる人にも伝達することが考えられる。このようなことから、このサブテーマでは、小規模建物群において、住宅用火災警報器により近隣建物に警報を伝達する技術の開発を目指している。

火災がいったん鎮火した後に再び燃える再燃火災は、二次的な被害を生じるだけでなく、市民の消防に対する信頼を損なうおそれのある問題であるが、現状では、再燃火災を完全に防止する手法はない。そこでこのサブテーマでは、再燃火災防止のための技術として赤外線カメラを利用するなどして、消火後の火災現場の温度管理が行えるよう、温度場を定量的に監視・記録できる手法を開発することを目指している。

イ 平成23年度の主な研究開発成果

サブテーマ「東日本大震災における火災分析と防火対策」では、東日本大震災の際に気仙沼湾で発生した海上火災について、上空と地上から撮影された映像、写真、証言、気仙沼湾周辺の地上に落ちていた材木の焼け方から、気仙沼湾では固体が海上で燃えながら移動して広がった可能性が高いことを示した。さらに、証言と、気仙沼湾周辺の地面に落ちていた複数の焼けた木片には油分が含まれていたという分析結果から、海上を燃えながら移動した固体には油が付着していた可能性があることを示した。また、再生可能エネルギーのひとつである太陽光による発電装置について、火炎曝露等の実験(第6-5図)を行った結果、炎により装置が発電するという現象が生ずることや、太陽電池モジュールの構造によっては燃焼するものがあることがわかった。

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サブテーマ「火災の促進要因と燃焼性状の実験と数値計算による分析」では、大きな人的被害が発生した個室型店舗火災について、小規模区画内で実際の間取りを模擬した燃焼実験(第6-6図)を行い、区画の燃焼に至らなくても大量の煙と高濃度の一酸化炭素の発生により内部は生命に危険が及ぶ状況になることがわかった。

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